
愛知県産業技術研究所尾張繊維技術センターは、羊毛から取り出した成分の再繊維化に成功し、全国で初めて羊毛再生繊維*1を製造する技術を開発しました。この羊毛再生繊維は、計測分析の結果、ガス吸着性、重金属吸着性、及び生体適合性に優れていることが判明しました。この特徴を活かして、汗が蒸れない衣料品、廃水処理、細胞の研究などへの応用が期待できます。
また、従来は廃棄していた羊毛を有効に利用できるため、資源の活用にもつながります。
この技術はじめ最新の研究成果を、平成21年6月30日(火)に、財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター(一宮市)において開催する「先端ファイバー技術講演会」で発表します。参加は無料です。
新製品・新技術の開発に取り組む地域の繊維関連企業の方々のご参加をお待ちしています。
1 研究の背景
尾張地域を中心とする毛織物産地は、国内最大の毛織物産地として、多くの羊毛を使用しています。廃棄羊毛の一部は、反毛フェルト*2として再利用されていますが、愛知県産業技術研究所尾張繊維技術センターは、業界の要望により羊毛の持つ機能性を高度に活かした新しい利用技術の開発に取り組んできました。その一環として、平成19年度から、羊毛からケラチン*3を抽出・精製・紡糸する技術を研究し、羊毛を再生して繊維化する技術を開発しました。
従来から、木材パルプの主成分であるセルロースは容易に再繊維化でき、レーヨンとして普及しています。これに対し、羊毛の主成分であるケラチンを再生することは困難で、羊毛の再生繊維は開発されていませんでした。
2 研究内容と技術的特徴
羊毛の主成分であるケラチンは、安定な化学構造を持つため、水やその他の溶媒に溶かすことが難しく、そのままでは糸状に加工することはできませんでした。そのため、ケラチンを溶液化する実用的な技術の確立が課題となっていました。
本センターでは、安全性の高いリン系の薬品を使用して工業的に適用可能なケラチンの溶解手法を開発するとともに、塩析沈殿法*4を用い短時間でケラチン紡糸液を調製することに成功しました。この技術により、これまで製造することができなかった羊毛再生繊維を作ることに初めて成功しました。
この研究成果に関し、平成21年3月に特許を出願しました。

製造工程の概要
<開発した技術の特徴>
色々なケラチン含有物から製造できます(例:毛髪)

毛髪再生繊維の例
3 活用が期待される分野
羊毛を再生して繊維化する技術は、使用済み羊毛布団綿、中古衣料など廃棄羊毛や規格外の未利用毛などを原料として使用できるため、資源の有効利用(リサイクル)技術として期待されます。今後、繊維の強さを向上する必要がありますが、この技術による羊毛再生繊維は羊毛の持つ機能性を保持しつつ、異形断面化や様々な太さを持つ糸に加工できるため、吸放湿性の優れた快適衣料や重金属を吸着する排水処理用フィルター等への応用が期待されます。さらに、濃縮液に機能性物質を練込んで加工することが可能であるため、メディカル分野など向けの新規糸としての展開が期待されます。
4 先端ファイバー技術講演会(日本繊維機械学会東海支部記念講演会)
新製品・新技術の開発に取り組む地域の繊維関連企業の方々の参考にしていただくため、この研究成果のほか、カーボンナノチューブを利用した導電性繊維など先端ファイバー技術を紹介します。
・日 時:平成21年6月30日(火) 午後1時30分から5時00分まで
・場 所:一宮地場産業ファッションデザインセンター 4階 視聴覚室
【用語解説】
1 再生繊維
再生繊維とは、天然高分子を薬品で溶かして、再び繊維にしたものです。木材パルプを原料にして作られるレーヨンや、綿花の繊維から作られるキュプラなどがあり、原料や化学的な処理方法により区別されています。広い意味では、ペット(PET)ボトル等の原料を粉砕し、熱で溶かして繊維に作り変えた合成高分子系のリサイクル-ポリエステル繊維も含みます。
2 反毛フェルト
綿、毛などの裁断屑、糸屑、中古衣料などを引き裂き、ワタ状にした後、ニードル針で上下からパンチして出来た不織布状のシートで、自動車内装材、軍手・モップなどの原料となります。
3 ケラチン
ケラチンとは、羊毛、羽毛、毛髪、爪、角などに含まれるタンパク質で、十数種類のアミノ酸から構成され、分子内部に硫黄と硫黄の橋かけした丈夫な構造を持っているため、水などに溶けない不溶性の性質があります。羊毛の約70~80%がケラチンで構成されています。髪の毛や爪を燃やした際、不快な臭いが発生するのはこの硫黄に起因します。
化粧品などには、ケラチンを加水分解によって小さく分解した成分(ケラチンペプチド)がよく用いられています。これに対し、本研究で得られるケラチンは、分解を最小限に抑えることにより、紡糸が可能になっています。
4 塩析沈殿法
塩析沈殿法とは、水溶液中に溶けていた物を、塩などを添加してイオン濃度を高くすることで、溶液中から析出させる方法を言います。タンパク質の他に石鹸や酵素などの分離や精製などに利用されています。
5 紡糸
繊維を作るには、その構成材料を、水アメや納豆などに見られる様な長く糸状に伸びる溶液か融液にすることが必要です。これを、任意の大きさの細口(紡糸口金)を通して、繊維状に押し出し、固化させて繊維とします。これを紡糸と呼び、大きく分けて、乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸の3種類があります。今回開発した羊毛の再繊維化技術は、主に湿式紡糸法を適用します。
愛知県産業技術研究所 尾張繊維技術センター
担当 加工技術室 金山、杉本、板津
電話 0586-45-7871
愛知県産業労働部地域産業課
担当 技術振興・調整グループ 加藤、木津
内線 3360、3362
ダイヤルイン 052-954-6340
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