
10月21日(水)発表
愛知県産業技術研究所食品工業技術センター(名古屋市西区)は、大口町商工会との共同研究により、愛知県の地域産業資源である「五条川の桜並木」の桜の花から酵母を分離し、香味を改良した清酒酵母の開発に成功しました。
この酵母は「五条川桜」と名付けられ、食品工業技術センターの技術指導のもと、勲碧酒造株式会社(江南市)において実証仕込を行い、純米酒 「おおぐち」として商品化されました。
産業技術研究所では、この成果を地域産業の振興に向けた成功事例として平成21年10月29日(木)に名古屋商工会議所で開催される「明日を拓くモノづくり新技術2009」で紹介します。
1.背景
近年「地域産業資源」(*1)が注目されており、全国的にこれを活用した町おこしや地域ブランド創出などの試みが盛んに行われています。
岩倉市、大口町及び江南市を中心に流れる五条川沿いには、1000本を越す桜並木が延々と続き、桜の開花時には見事な景観をみせます。「五条川の桜並木」は「日本のさくら名所100選」(「財団法人日本さくらの会」選定)にも選ばれた景観・観光資源であり、本県の地域産業資源にも位置付けられています。
愛知県産業技術研究所食品工業技術センターでは、地域産業資源である「五条川の桜並木」の有効利用による地域活性化を目的として、大口町商工会との共同研究体制により、桜並木(桜の花)から分離した新規酵母と大口町産「あいちのかおり」(*5)を組み合わせた新たな「おおぐち」ブランド清酒の開発に着手しました。

五条川の桜並木
2.直面した技術的課題
桜並木から清酒酵母を分離するためには、以下の技術的課題の解決が必要でした。
1)自然界からサッカロマイセス・セレビシエを効率的に分離すること
2)アルコールに対する抵抗性の高い酵母を選択すること
3)「食の安全・安心」に対応するため、分離した酵母がサッカロマイセス・セレビシエであるかどうか遺伝子レベルで確認すること
4)キラー性(*2)の有無を確認すること
清酒やビール、ワインといった酒類やパンの製造に用いられる食品用酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と呼ばれる酵母に分類されます。
サッカロマイセス・セレビシエは、自然界での分布比率が低く、食品製造には適さない多くの酵母の中に混在しています。また、清酒製造においては、アルコールに対する抵抗力が強く、高濃度のアルコールを生成する酵母であることが求められます。さらに、酒造蔵で現行使用されている清酒酵母の生育に悪影響を及ぼさないことが重要となります。
3.五条川桜酵母の分離
上記の課題に対し、愛知県産業技術研究所食品工業技術センターの技術シーズである微生物利用技術及び遺伝子解析技術を用いました。
酵母の分離にあたり、3次の集積培養(*3)を行い、2株の有望酵母を分離しました。分離酵母の26SrDNA(D1/D2領域)(*4)の塩基配列を決定し、相同性検索を行ったところ、この2株はサッカロマイセス・セレビシエと確認することができました。また、キラー性を確認したところ、一般的に使用されている清酒酵母に対するキラー性は認められず、「食の安全・安心」に合致した酵母であることが分かりました。
得られた酵母(野生株)の香味を向上させるため、育種改良を行い小仕込試験を行った結果、フルーティーな香りであるカプロン酸エチル濃度が約2倍に向上し、香りの優れた酵母を開発することができました。

五条川酵母の顕微鏡写真
| 野生酵母 | 育種酵母 | 清酒酵母 | ||
| 日本酒度 | +10 | +1 | +1 | |
| アルコール | (%v/v) | 18.35 | 16.70 | 18.05 |
| 酸度 | (mL) | 2.32 | 2.40 | 1.90 |
| アミノ酸度 | (mL) | 1.65 | 2.00 | 1.50 |
| クエン酸 | (mg/100mL) | 9.7 | 8.3 | 7.0 |
| リンゴ酸 | (mg/100mL) | 19.7 | 24.4 | 26.4 |
| コハク酸 | (mg/100mL) | 35.9 | 34.6 | 40.1 |
| 乳酸 | (mg/100mL) | 18.6 | 18.9 | 20.5 |
| イソアミルアルコール | (ppm) | 197.2 | 196.6 | 230.3 |
| 酢酸イソアミル | (ppm) | 4.9 | 4.6 | 7.4 |
| カプロン酸エチル | (ppm) | 2.4 | 4.5 | 2.1 |
4.五条川桜酵母を使用した純米酒の開発
愛知県産業技術研究所食品工業技術センターの技術指導のもと、勲碧酒造株式会社(江南市)において五条川桜酵母の実証仕込が行われました。
原料米には大口町産「あいちのかおり」を60%まで精米したものを使用し、総米120kgの仕込を行いました。製成酒は純米酒「おおぐち」の銘柄で500mL瓶詰生酒として販売(1100円)され、香り豊かで、なめらかな味わいにより好評を得ました。平成22年3月の仕込では増産の見込みです。
「五条川の桜並木」から分離した酵母について、大口町商工会は酵母「五条川桜」で商標登録申請を行いました(商標出願2009-12832)。なお、酵母の所有権は愛知県産業技術研究所食品工業技術センターに帰属します。

製品写真
(勲碧酒造株式会社製造)
5.今後、新たな酵母分離に関する検討
今回の課題により構築した酵母分離技術シーズを利用して、現在以下の課題に取り組んでいます。
1)山星酒造株式会社(江南市)及び江南商工会議所と共同研究
江南市の曼陀羅寺の藤の花から清酒酵母を分離し、製品開発を行うこと
2)藤岡商工会と共同研究
豊田市の藤岡飯野の藤の花から清酒酵母を分離し、製品開発を行うこと
6.成果の展示について
産業技術研究所では、この開発成果を「明日を拓くモノづくり新技術2009」で展示PRするとともに、次なる成功事例の創出に向け企業支援に尽力していきます。
名 称:「明日を拓くモノづくり新技術2009」
日 時:平成21年10月29日(木) 午前9時30分~午後5時
会 場:名古屋商工会議所 5F 会議室A~D、及び談話室
(〒460-8422 名古屋市中区栄2-10-19)
主 催:愛知県産業技術研究所、名古屋市工業技術研究所、名古屋商工会議所
7.共同研究者、商品化企業連絡先
大口町商工会
丹羽郡大口町丸2-8
電話:0587-95-2557 FAX:0587-95-6328
担当:奥田(おくだ) 雅朗(まさお)(経営指導員)
勲碧酒造株式会社
江南市小折本町柳橋88
電話:0587-56-2138 FAX:0587-56-2139
担当:村瀬(むらせ) 公康(きみやす)(代表取締役社長)
【用語集】
*1 地域産業資源
各都道府県では中小企業地域資源活用促進法(平成19年6月施行)に則り、「農林水産物」、「鉱工業品又は鉱工業品の生産に係る技術」及び「文化財、自然の風景地、温泉その他の地域の観光資源」の3類型から地域産業資源の選定・指定を行っている。
*2 キラー性
酵母の中にはキラータンパク質を生成し、自分とは異なる種類の酵母の生育を阻害するものがある。このような現象をキラー性と呼び、キラー性を持つ酵母をキラー酵母と呼ぶ。
*3 集積培養
微生物を選択的に分離する方法には直接分離法と集積培養法がある。集積培養法は、目的の微生物が直接分離法により得られないときに適用し、液体培地で選択分離法を数回繰り返してから、固型の選択培地上に目的とする微生物のコロニーを出現させる方法である。
*4 26SrDNA(D1/D2領域)
細胞内小器官であるリボゾームに存在するリボゾームRNAの遺伝子部位で、真菌(酵母・カビ)の検出や種の違いの識別に有用である。
*5 あいちのかおり
愛知県産銘柄米で、食用米として県内で最も流通している米である。食味が良いことで有名である。
愛知県産業技術研究所 食品工業技術センター
担当 発酵技術室 伊藤(彰)、北本、山本
電話 052-521-9316
愛知県産業労働部地域産業課
担当 技術振興・調整グループ 加藤、木津
内線 3360,3362
(ダイヤルイン)052-954-6340
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