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膵がんの基礎知識
【目次】
 膵がんとは
 膵がんの症状
 膵がんの診断
 膵がんの病期(ステージ)
 膵がんの治療法
 膵がんの治療成績(予後)
 その他
  膵がんとは
 膵臓は淡黄色の細長い臓器で、長さ15 cm、幅3-5 cm、厚さ2 cm、重さ60-70 gです。膵臓はみぞおちの奥、すなわち胃のちょうど裏側で、上方は肝臓、下方は横行結腸、後方は大血管と左腎、右方は十二指腸、左方は脾臓に囲まれ、さらには様々な血管にも取り囲まれています。膵臓の主な働きは食べ物の消化と血糖値の調節であり、膵臓は消化液(外分泌)とホルモン(内分泌)を分泌する体内の唯一の臓器です。膵臓を構成する細胞には、消化酵素を産生・分泌する腺房細胞、消化酵素を十二指腸へ運ぶとともに、十二指腸に流入した胃酸を中和するアルカリ性の膵液を分泌する膵導管細胞、血糖を下げるインスリンや上昇させるグルカゴンなどのホルモンを産生するランゲルハンス島があります。膵臓をブドウに例えると、消化酵素を分泌する腺房はブドウの房、膵液を分泌する導管は茎に相当します。ランゲルハンス島は膵臓のなかに浮かんでいます(図1)
(図1)
 がんはこれらの各々の細胞から発生しますが、通常膵がんと呼ばれるものは膵管上皮(膵導管細胞)から発生します。その割合は80-90%を占め、残りは腺房細胞がん、内分泌腫瘍・がんなどです。ここでは膵管上皮から発生すいる膵がんについて解説をしていきます。
 膵癌の患者さんは年々増加しており、現在では年間約2万3千人の患者さんが罹患しています。部位別の罹患数は、男性では胃、肺、結腸、前立腺、肝臓、直腸に次いで7番目、女性では乳房、胃、結腸、子宮、肺、直腸、肝臓についで8番目です。一方死亡数は、男性では肺、胃、肝臓、結腸に次いで5番目、女性では胃、肺、結腸、乳房、肝臓に次いで6番目で、全体では5番目になり、他の部位のがんに比べ、罹患数に対する死亡数の割合が極端に高い(罹患数と死亡数がほぼ同数)のが特徴で、死亡数では順位が高くなっています。膵がん死亡の増加の原因は人口構成が高齢化したことが最も大きい要因ですが、膵がんに対する有効なスクリーニング検査法がなく、高危険群(ハイリスクグループ)の設定が難しいことなどです。また、手術以外に有効な治療法がないことも原因の一つです。
 最近の研究によって、少しずつ膵癌のハイリスクグループがわかってきました。膵癌のリスクファクターとして明らかになっているのは、膵癌や遺伝性膵癌症候群などの家族歴、糖尿病、慢性膵炎や膵のう胞、遺伝性膵炎などの合併症、喫煙などの嗜好が挙げられています。膵癌が身内にある方、糖尿病と初めて診断された方やコントロールが悪くなった方、膵炎や膵のう胞と診断された方は病院で検査を受けることをお勧めします。
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  膵がんの症状
 自覚症状は初期には無症状か上腹部不定愁訴、すなわち何となくお腹がおかしいと感じることが多いようです。進行しますと上腹部痛、背部痛、黄疸、お腹にしこりを触る、末期になれば吐血、下血、腹水などが現れます。
 がんの発生部位により症状は変わります。膵がんの65%と最も多くを占める膵頭部がんでは主膵管やすぐ近くに走行する胆管が狭窄や閉塞する症状が発現します。主膵管が閉塞すると膵液がうっ滞し尾側の二次性膵炎が起こり心窩部痛、左上腹部痛や左背部痛などの症状や血中膵酵素(アミラーゼやエラスターゼ)の上昇がみられます。これは膵がんの比較的早期にみられ、この時点で発見、治療を受けますとがんが治る可能性もありますが、多くは症状も一過性であることから病院を訪れる患者さんは残念ながら少ないのです。病気が進行すると持続的な腹痛や頑固な背部痛が出現しますが、血中膵酵素はむしろ低下します。主膵管の閉塞は膵外分泌能を低下させ食物の消化吸収を障害し、下痢、腹痛、体重減少などが生じます。また、内分泌機能も障害されると口渇、多飲、多尿などの糖尿病の症状があらわれます。がんが膵臓の外にでると近傍の胆管を閉塞させ黄疸が生じ、眼が黄色くなったり、尿がチョコレート色に濃染します(図2)。肝機能も血中ビリルビン、ALP、γ-GTP、AST (GOT)やALT (GPT)が上昇します。病巣が進展し十二指腸を狭窄させると食物のうっ滞、食欲不振、悪心、嘔吐、消化管出血などの症状が現れます。膵体部がんあるいは膵尾部がんでは解剖学的位置関係から主膵管が閉塞しても膵炎を起こす範囲が少ないこと、胆管から離れていることなどから症状がでるまでに時間がかかります。がんが進行しお腹の中に拡がると腹水が貯まったり、がんが背中側に拡がると神経を圧迫し持続的な背部痛が生じ、食欲不振が続いて5-10 kgの体重減少などがおこります。膵尾部がんでは血液検査の異常でみつかることは少なく、また超音波検査でも見づらい場所ですので発見が遅れることが多いようです。
(図2)
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  膵がんの診断
血液検査
 膵がんによって膵液の流れ道である主膵管が狭窄する(図1)と、血液中にアミラーゼやエラスターゼIといった膵臓から分泌される消化酵素が20-30%の患者さんで上昇することがあります。その他には、胆管が狭窄するとビリルビン、アルカリホスファターゼ (ALP)、LAP、γ-GTPなどの胆道系酵素の上昇、AST (GOT)、ALT (GPT)などの肝機能障害がみられます。


腫瘍マーカー
 膵がんで上昇する代表的な腫瘍マーカーにはCA19-9、CEA、Dupan-2などがあります。膵癌患者さんにおける各腫瘍マーカーの陽性率はCA19-9が70-80%、CEAは55-62%、Dupan-2では48%と報告されていますが、最も感度の高い腫瘍マーカーであるCA19-9でも2 cm以下の比較的小さな膵がんでの陽性率は50%程度であり、また胆石などによる胆汁うっ滞でも上昇することがあります(偽陽性)。一方、日本人の10%程度はLewis A抗原陰性であり、そのような患者さんではたとえ進行した膵がんでもCA19-9が上昇しないこと(偽陰性)があり注意が必要です。CEAも同様に全ての膵がん患者さんで陽性となる訳ではなく、また胃がん、大腸がん、肺がんなど他の癌や良性疾患、喫煙などでも陽性となり、膵がんに特異的ではありません。腫瘍マーカーの陽性率は進行癌を除けば低く、現存する腫瘍マーカーでは残念ながら膵がんの早期発見にはあまり役立ちません(図3)。むしろCA19-9では、膵がんの術後の再発診断や化学療法などの治療効果を判断するのに有用といわれています。
(図3)


画像検査
 臨床症状や血液検査、腫瘍マーカー、危険因子などから膵癌が疑われたら、次に画像検査を行います。腹部超音波検査(USあるいはエコー)は手軽にでき、患者に身体的負担をほとんどかけないのが利点です。
 USで膵臓に異常を指摘され、以下の検査で最終的に膵癌と診断されることが最も多く、早期発見のきっかけになるこもあります。しかし太った方や上腹部の手術を受けた方では膵臓が見えないこともあります。
 CTは膵臓や周囲の臓器が明瞭に描出され、膵癌の診断に有用です。特に癌の拡がりを診断し、手術の可否を判定するには優れた方法です。ただし、放射線被曝、造影剤による副作用の問題があります。また腫瘤(かたまり)を作る膵炎を膵癌と間違って診断されることが時々あり、この検査にも限界があります。 MRIはCT同様な診断法ですが、放射線被曝がないのが特徴です。またMRIを用いて膵管・胆管を描出(MRCP)することもでき、次に述べる内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)に比べて低侵襲(患者の負担が軽い)です。
 ERCPは、内視鏡を十二指腸まで挿入し、膵管に細いカテーテルを入れて造影剤を注入し膵管を明瞭に描出する検査法です。膵液を採取して細胞の検査(細胞診)を行うこともできます。膵癌のほとんどが膵管に影響を及ぼしているため、診断的価値の高い検査ですが、急性膵炎などの合併症が欠点です。
 PETは癌細胞が糖分を多く消費することを利用した検査法です。全身の検査が一度にできる利点があり、膵癌の発見にも有用なことがあります。しかし、小さな膵癌のでは検出できないことがあり、一部の膵炎(自己免疫性膵炎)でも陽性になることがあり、また高額であるなど、欠点もあります。
 超音波内視鏡(EUS)は、内視鏡の先端に超音波端子を備えた内視鏡です。膵癌とくに2 cm以下の小さな膵癌の検出には最も信頼性の高い検査法です。



病理検査
 胃、食道、大腸などの消化管(胃腸)のがんの確定診断には、内視鏡を行う際に病変の組織を採取(生検)し、顕微鏡でがん細胞を確認します(病理診断)。一方膵癌では、通常はCT(あるいはMRI)、EUS、ERCP(膵管と胆管の造影検査)、PETなどの画像検査を行い総合的に判断します。しかし、画像検査で膵がんと診断されて手術した患者さんの5-10%では実際に膵がんではないとの報告もあり、膵癌でも病理診断が必要となります。膵がんに対する病理検査の方法としては、ERCP下の膵液細胞診、USあるいはCTガイド下の経皮的生検、術中の生検などがあります。しかしERCP下の膵液細胞診での陽性率は50%前後と低く、USガイド下生検での陽性率は74-87%、CTガイド下生検では78-98%ですが、がんの大きさや発生する場所により成績が大きく異なること、痛みや出血などの合併症、CTガイド下生検では放射線被曝などの問題が残されています。また術中生検では、全身麻酔を行い、開腹術を行わなければならず、患者さんに大きな負担を強いることになります。最近になって、超音波内視鏡(EUS)を利用して膵臓の腫瘤を観察しながら、比較的安全に針生検が行えるようになりました(超音波内視鏡下穿刺吸引生検法, endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration; EUS-FNA)。適応はUS、CT、EUS等で膵がんが疑われた患者さんです。EUS-FNAによる膵がんの陽性率は80-97%であり、確実な検査方法といえます。
 特に高齢男性に好発し、ステロイド治療によく反応する特殊な膵炎である自己免疫性膵炎の場合、CTなどの画像検査では鑑別が困難なことも多く、これまでには膵がんと間違って診断され手術や化学療法をされてしまう症例がありました。そのような場合には、EUS-FNAを用いた病理診断は大変重要となります。

 以上のような症状・検査を適切に判断しながら膵がんの診断を行っていきます。


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  膵がんの病期(ステージ)
 膵がんの進行度(ステージ)は大きさ、前方、後方、門脈、大きな動脈、十二指腸、胆管などへの浸潤、リンパ節転移、遠隔転移などの有無により規定されます。日本膵臓学会では4段階(StageI〜IV)に分けており、Stage IVはさらに主に転移の有無でIVaとIVbに細分されています。Stageの判断は主にCTなどによって行いますが、最近ではPETを用いることもあります。
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  膵がんの治療法
 治療法の選択は、Stageよって決定していきます。すなわち、Stage IからIIIおよび一部のIVaでは手術療法が第一選択となり、多くのStage IVaでは化学療法あるいは化学放射線療法が、Stage IVbでは患者さんの体力に応じて化学療法を選択しますが、病状が随分進行し体力的に化学療法に耐えられない場合は、症状などの緩和を中心としたbest supportive care (BSC)を選択するかを判断します。


【1) 手術療法】

(1) 膵頭十二指腸切除術 (主としてcStage I, II, III)
 膵頭部(膵臓の右側)にがんがある場合に適応となります。胃の一部、十二指腸、小腸の一部、胆のう、胆管をまとめて切除します。膵臓の周囲のリンパ節、脂肪、神経なども一緒に摘出します。摘出したあとは、残った膵臓と小腸、胆管と小腸、胃と小腸の順につなぎ直し膵液、胆汁、食べ物の通る経路をつくります。


(2) 尾側膵切除術 (主としてcStage I, II, III)
 膵臓の体部・尾部(膵臓の左側)にがんがある場合には尾側膵切除といって膵臓の左側と脾臓を一緒に摘出します。


(3) バイパス手術
 がんが進行して食べ物の通り道である十二指腸が閉塞している場合には、がんの摘出ができなくても食べ物の通り道をつけるバイパス手術を行うこともあります。



【2) 化学療法あるいは化学放射線療法】
 残念ながら手術ができない膵臓がんの患者さんに対する標準的な治療法は、がんが肝臓などの遠隔(遠く離れた)臓器に転移をしていない場合(局所進行膵がん)としている場合(転移性膵がん)で若干異なってきます。

(1) 転移性膵がんに対する治療 (cStage IVb)
 転移性膵がんに対する標準的治療は、塩酸ゲムシタビン(GEM)による全身化学療法です。GEMはがんの拡がりを抑えるばかりでなく、自覚症状を和らげる効果(症状緩和効果)も報告されています。GEMは主に外来で投与を行いますが、標準的な投与方法は週1回・30分かけて投与し、3週つづけて4週目は休みます。またGEMの効果が十分でないときには二次治療としてS-1を経口で投与します。


(2) 局所進行膵がんに対する治療 (cStage IVa)
 従来、局所進行膵がんに対する標準的治療法は5-FUとうい抗癌剤と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法でした。しかし5週間の入院治療が必要なこと、また抗癌剤単独に比べて副作用が強く出ることなど欠点がありました。しかし最近ではGEMなど抗癌剤が進歩し、副作用が軽いばかりでなく治療成績が化学放射線療法と遜色なくなってきており、局所進行膵がんに対する化学療法の重要性は高くなってきている。一方で、局所進行膵がんのなかには化学放射線療法で長期生存する患者がいるのも事実です。そのため現在では、どんな患者さんには化学放射線療法を行ったほうがよいかといった研究も進められています。



【3) 黄疸に対する治療】
 膵がんの15%程度には黄疸がみられます。特に膵頭部がんでは腫瘍による胆管の狭窄あるいは閉塞による閉塞性黄疸がほとんどです。黄疸があると手術や化学療法などの治療をする際に危険性が増加するため、黄疸を解除する処置が必要となります。内視鏡下経乳頭的胆道ドレナージ術(EBD)は切除困難な悪性下部胆管狭窄に伴う閉塞性黄疸に対して現在広く行われています(図1)。しかし、急性膵炎等の合併症が約5%に見られ、またEBDが困難な症例も存在します。EBDが困難な症例には、経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)が施行されます(図2) 。しかし合併症も多く、また患者さんの生活の質が低下する欠点も存在します。最近では第三の方法として超音波内視鏡下十二指腸胆道吻合術 (EUS-CDS)(図3)も行われています。PTBDのような生活の質が低下する欠点もなく、将来的に第一選択の治療法になると期待されています。
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  治療成績(予後)
 膵がんの切除後の成績は残念ながら満足できるものではなく、外科切除できた患者さんの5年生存率は10-15%と極めて低く、消化器(食道、胃、肝臓、大腸)のなかでは最も不良です。これは膵がんが早期にリンパ節転移、周囲の神経、肝臓なでに転移・浸潤をおこすためです。最近、膵がんの切除術後の6ヶ月間、GEMによる術後補助化学療法を行うと予後が改善することがわかり、標準的治療となっています。
 一方、切除ができなく化学療法を行った患者さんの治療成績は、50%生存割合では6-7ヶ月です。しかし、化学療法を行わない場合に比較すると明らかに予後は改善し、また多くはありませんが2年以上にわたって長期生存する患者さんがいるのも事実です。現在、国内外で治療成績向上に向けた研究・臨床試験が行われています。
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  その他
 当科では膵がんを初めとした膵疾患に対しては、質の高い医療を提供すること、患者さんに負担をなるべくかけないこと、知り得た情報は患者さん・家族と医療スタッフとが共有し治療方針を決定し、治療を行うこと、などを目標として日常診療を行っています。とくに内視鏡検査、超音波検査、あるいはそれらを合体させた超音波内視鏡検査を駆使し、消化器がんの早期診断や確実且つ効率的な診断を行っています。手術不能な進行がんにおいては常に患者さんのQOLを考慮し、他科との連携による化学療法や放射線治療を積極的に導入しています。また、国内および海外のがん専門病院と協力して抗がん剤の臨床試験を積極的に推進し、一般診療では使用できない新規抗がん剤の開発に参加しております。これらの治療を行いながら、がん治療の発展に貢献すべく努力をおこなっております。
 膵がんに関する専門の診療は、月曜日(山雄、原)、火曜日(山雄、水野)、水曜日(山雄、原)、木曜日(肱岡)、金曜日(水野、今村)がそれぞれ診察にあたっています。またセカンドオピニオンに関しては山雄(月、火、水)、原(水)、水野(木)が担当しています。
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平成21年12月改訂