胃がん

胃がんとは

 胃は、「胃袋」とも言うように、食道に続く嚢状の器官で、食べたものを一時蓄えたり消化したりする働きをしています。食道に続く部分(噴門と言います)と十二指腸に続く部分(幽門と言います)は周囲の臓器に固定されていますが、それ以外の部分は割と自由に動きますので、体の位置(横になっているか、立っているか)や食べたものの重さによって胃の位置が変わります。胃の入口から出口に向かって、各部位は噴門部、胃体部、胃角部、前庭部、幽門部と言われています。

 胃の内側は粘膜で覆われ、外側は腹膜(漿膜とも言います)で覆われています。その間に胃を動かす筋肉の層(これを固有筋層と言います)があります。また、この3つの層の間には細胞が少なく線維が多い組織があります。粘膜と固有筋層との間の層を粘膜下層、漿膜と固有筋層との間の層を漿膜下層と呼んでいます。このため、胃の壁は内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層から成り立っています。

胃の内側 胃

 胃がんは胃の粘膜から発生してきます。胃にはそのほか肉腫や悪性リンパ腫なども出来てきますが、胃の悪性腫瘍の大多数(95パーセント以上)は「がん」によって占められています。したがって、胃の悪性腫瘍といえば「がん」のことを指しています。

 それでは、この胃がんはどれぐらい発生しているのでしょうか。愛知県の衛生部で毎年発行しています「愛知県のがん登録」によりますと、平成17年に全体で27,748名(男性16,371名、女性11,377名)の人が新たに悪性腫瘍に罹られていました。男性で最も多い癌は肺がんであり、胃、前立腺、結腸、肝および肝内胆管および直腸とつづき、女性で最も多い癌は乳がんであり、胃、結腸、肺と続いています。全体に対する胃がんの占める割合は、男性18.2%、女性12.7%でした。このように、胃がんは食生活の変化や検診の普及で減ってきていますが、それでも日本人にとってもっとも身近な悪性腫瘍の1つといえます。特に注意が必要なのは加齢とともに胃がんの罹患率が上昇することで、団塊の世代のように会社で定年を過ぎた年齢で癌が発生しやすく、また検診を受ける機会が減ることが問題となります。後で述べますようにように早期胃がんでは、ほとんど症状がありませんので年に1度の検査をあらかじめ決めて毎年行うことが重要です。

胃の内側

胃がんの症状

 胃がんそのものによる症状と、胃がんに付随して起きる胃炎などによる症状とがありますが、その区別はなかなか困難です。 一般的には早期胃癌には症状は無く、がんの進行によって症状が出現します。早期胃癌の症状は、合併する胃潰瘍や慢性胃炎の症状のことが多いと言われています。

食思不振、悪心・嘔吐

 食欲がなくなったり、ムカムカして吐いたりすることです。胃がんによって消化管の内腔が狭くなり、食べたものの通過が悪くなって胃が重い感じがし、そのため食欲がなくなったり、吐いたりすることがあります。また合併している胃炎や潰瘍のために悪心・嘔吐が起こることもあります。

るいそう、全身倦怠

 いわゆる「痩せる」ことと体がダルイことです。食思不振や悪心・嘔吐によって痩せたり倦怠感が出ることもありますが、たくさん食ベていてもがんに栄養を取られたり、がんからの出血のために痩せたり脱力感に陥ることがあります。

吐血・下血

 血を吐いたり便が「のり」のように黒くなったりすることです。
がんの表面が崩れて出血するために起こる症状ですが、合併あるいは併存する胃潰瘍などでも起きることがあります。少量でも持続的に出血していると貧血になります。

腹痛・腹部不快感

 みぞおちや臍の上などが痛む場合や食事の前後に腹部に鈍痛やすっきりしない感じがあらわれたりします。がんに特有な症状ではありませんが、多くの患者さんに認められる症状の一つです。

胸焼け

 普通、逆流性食道炎で起こる症状ですが、食道と胃の境界にがんができると食物の流れが悪くなり、食後にものがつかえることや食べ物がこみあがってくることがあります。

 このほかいろいろな症状がありますが、症状の有無にとらわれず、定期的にバリウム検査や内視鏡検査を受けられることをお勧めします。

胃がんの診断

 胃がんの診断には、上で述べてきた症状と全身の診察(視診、触診、聴診など)の結果を参考にし、種々の検査を行います

胃内視鏡検査

 いわゆる「胃カメラ」と呼ばれる検査です。
 直径10ミリほどの長い管(スコープと呼んでいます)を口から胃の中に挿入して、胃の粘膜面を直接細かく観察し、必要に応じて組織の一部を採取します。このように組織を採取して顕微鏡検査を行うことを生検(せいけん)といい、がんの確定診断をするうえで極めて重要な検査です。胃カメラというと挿入時に嘔吐反射を伴いやすく、個人差もありますが、もうしたくない辛い検査と言われる人がいます。最近は器械が細径化して比較的楽な検査になりつつあります。それでも反射がつらい場合には鎮静剤を使用することや経鼻内視鏡検査をお勧めしています。経鼻内視鏡は急速に普及した内視鏡検査です。経口的な内視鏡に比べて径が細い分、画像はやや劣りますが、熟練した内視鏡医が行えばがんの見落としが少ないといわれています。また毎年必ず内視鏡検査を受けるという受容性の高さにより胃がんの早期発見に貢献しています。現在胃癌診断で信頼されているものは胃内視鏡検査ですので安心して受けてください。機種によって拡大機構や画像強調が可能になり、範囲診断や癌か否かの診断に用いられます。また、内視鏡の先端に小型の超音波装置を取り付けた超音波内視鏡検査によってがんの深さや周囲リンパ節の診断が行われ、がんの広がりを判定します。

胃レントゲン検査

 バリウムを飲んで行うレントゲン検査のことです。
 粘膜の細かい観察能力では内視鏡に劣りますが、胃の全体像や凹凸の変化をみることに適しています。現在では無症状な人からがんを見つけだす目的で検診や人間ドックで主に用いられています。食道や十二指腸との距離や病変の拡がりを診断する目的で胃癌を手術する前には必ずレントゲン検査を行います。内視鏡検査とX線レントゲン検査は、胃がん診断の「車の両輪」のようなものです。

腹部CT、超音波検査

 がんの転移の有無を知るために行います。肝臓、リンパ節、腹水の有無、腹膜への転移を調べます。この二つは性格が異なりますので、どちらか片方だけ検査するときもありますが、正確を期するために両方行うときもあります。

腫瘍マーカー

 すべてのがんで見られる現象ではありませんが、胃がんでも一部のがんでは血中に特定の物質を分泌しています。これを腫瘍マーカーと呼んでおり、がんの進行や再発の判定に役立ちます。 腫瘍マーカーが正常範囲内である進行胃癌の患者さんもしばしば見受けられますので過信も軽視もできません。
最近では胃がんの要因にピロリ菌の関与が報告され、血中抗体を測定する場合があります。萎縮性胃炎に分化型胃癌が発生することが多いことを利用してペプシノーゲンを血液で測定して胃がんの発生しやすいか否かを診断します。最終的には胃がんの有無は内視鏡検査で判定することになりますが、自分自身のピロリ菌や胃粘膜の萎縮の有無を知ることは重要です。

 一口に胃がんの診断と言っても、胃の病変ががんであるかどうかといった質的な診断のほかに、それががんであった場合には早期がんなのか進行がんなのか、ほかへの転移はないのかといった、がんの拡がりについての量的な診断が必要になってきます。そのために、上に述べてきたような検査を適宜組み合わせて行う必要があります。

胃がんの病期(ステージ)

早期がんと進行がん

 胃がんは胃の粘膜から発生します。粘膜は血管やリンパ組織に乏しいので、がんが粘膜にとどまるあいだはほとんど転移を起こしてきません。粘膜下層には血管やリンパ組織が豊富にありますので、がんが粘膜下層まで浸潤しますと転移が起きてきます。しかし転移が認められるリンパ節は大部分が胃に接したものですので、この時期の胃がんは手術によりほとんど治癒します。がんの浸潤が固有筋層に達したり、あるいはこれを越えて深くまで浸潤するほど転移が激しくなり、手術してもがんを取りきれなかったり、取りきれたと思ったがんが再発してきたりします。そこで、がんの浸潤が粘膜と粘膜下層までのものを早期がん、それ以上のものを進行がんと呼んで区別しています。

病期(ステージ)

 がんが胃壁のどこまで浸潤しているか(深達度)、リンパ節転移がどこまで及んでいるか(リンパ節転移程度)、リンパ節以外の臓器への転移(遠隔臓器転移、腹膜転移、肝転移など)の有無などによって、4つの病期(ステージ)に分けられています。胃がんの進行度に対応する治療法の選択として日常診療では下記のように行っています。

【日常診療におけるStage分類別の治療法の適応】

   N0 N1 N2 N3
T1(M) IA
EMR(一括切除)、縮小手術
IB
縮小手術 or 定型手術
II
定型手術
IV
拡大手術
緩和手術
化学療法
放射線治療
緩和医療
T1(SM) IA
縮小手術
II
定型手術
T2 IB
定型手術
IIIA
定型手術
IIIA
定型手術
T3 II
定型手術
IIIA
定型手術
IIIB
定型手術
T4 IIIA
拡大手術
IIIB
拡大手術
  
H1,P1,CY1,M1,再発   

定型手術:胃の2/3以上の切除とD2郭清

各種治療法とその特徴

 胃がんに対する治療法にはいくつかあります。手術療法が一般的ですが、抗がん剤を用いた薬物療法もあります。放射線療法は、特殊な場合には行われていますが、胃がんに対する治療法としては一般的ではありません。

手術療法

 手術は胃がんに対して最も標準的な治療法で、がん細胞をすべて取り除くことで治癒を目指します。簡単に言えば、がん細胞のすべてが身体から取り除かれれば、それはすなわち、がんが治ったということになります。ただ、この場合の「すべて」とは、目に見えない細胞のひとつひとつも含めてということです。しかし、手術はあくまで肉眼で見えるものを切除する局所療法ですから、がんがその局所にとどまっていれば最も確実な治療法になりますが、目に見えないレベルでがん細胞がその局所を越えて広がっている場合には、がんをすべて取り除くことはできません。再発が必至ということになります。その場合は再発の状況により再度手術を考慮したり、切除が困難であれば抗がん剤治療や放射線治療が行われます。

1) 内視鏡的粘膜切除術

 一部の早期がんに対して、内視鏡を使ってがんを切除することが行われています。ただし、リンパ節はまったくの手つかずになるため、リンパ節転移の可能性がある人に対しては行えません。胃がんに対する内視鏡的治療には、スネアという金属製のワイヤーを用いるEMR(内視鏡的粘膜切除術:Endoscopic mucosal resection)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic submucosal dissection)があります。EMRには1)2 channel 法(ストリップバイオプシー法)、2)Cap 法 (先端フード法)があります。後者には、1)ITナイフ切除法、2)先端系といわれるFlushknife、Hookknife、needleknifeなどを用いる方法に2大別されます。 内視鏡的治療の適応は、リンパ節転移の可能性がないことが原則であり、「胃癌治療ガイドライン」上、組織学的には、適応内病変は分化型で2cm以下の粘膜内癌。肉眼型は問わないが、陥凹型では潰瘍を認めないもの、とされています。適応拡大病変に関しては、慎重な術前診断、検討会での検討に基づき、完全一括切除が可能と判断されるものに関しては、治療を行っております。最近では治療器具や内視鏡手技の向上により、大きな病変でも適応を選べば、一括切除できるようになってきました。

胃ESD(IT knife) :Ua型早期胃癌

2) 開腹手術

 一般的には、みぞおちから臍横まで約20p、縦に切開し、胃と周囲のリンパ節を併せて取ってくる手術です。お腹の中を十分に観察でき、あらゆる状況にも対応でき、手術操作が確実にできることから、今でも胃がん治療の重要な手技のひとつです。胃の切除方法には大きく分けて3通りあります。胃の出口(幽門)側を切除する幽門側胃切除、胃を全部切除する胃全摘、胃の入口(噴門)側を切除する噴門側胃切除です。これらは、がんが胃のどこにどれだけの範囲で存在するかやその進行度によって決定します。また同様に胃がんの範囲や進行度によってリンパ節郭清(リンパ節をきれいに取り除くこと)の範囲も変わります。ある程度進行した胃がんに対しては、胃から少し離れたリンパ節まで郭清するD2郭清を行い、早期胃がんの場合にはこれよりも更にリンパ節郭清の範囲を縮小します。高度進行胃がんの場合に薬物療法と組み合わせた更に広い範囲の拡大リンパ節郭清が行われることもあります。

3) 腹腔鏡下手術

 腹腔鏡下の胃がん手術は1990年代にわが国で初めて行われました。腹部に5mm〜12mmの穴を数か所開けて、専用のカメラや手術器具を挿入し、モニター画面で腹腔内を観察しながら、器具を操作して胃の切除を行う方法です。腹腔鏡下手術のメリットは、一般的には、傷が小さく手術後の疼痛が少ない、術後呼吸機能の低下が少ない、回復が早いため早期に退院できる、より鮮明に拡大した画像で血管などを確認できる、などが挙げられます。

腹腔鏡下胃局所切除術

腹腔鏡下で胃の局所切除を行います。胃局所切除術では、胃周囲のリンパ節の郭清を行いませんので、リンパ節転移のリスクが極めて低いタイプの腫瘍(胃粘膜下腫瘍など)に限定して行われています。

腹腔鏡下胃切除術

最近では、早期胃がんだけでなく進行胃がんに対しても、腹腔鏡下にリンパ節郭清を伴う胃切除術が行われています。当院では胃がん治療ガイドラインに準じて、Stage Iの胃がんに適応を限定して行っています。

 胃は食べたり飲んだりした物を一時的に蓄えておくところです。胃がんに対して手術を受けると、胃が小さくなったり無くなったりしてしまいます。消化や吸収に大きな変化はありませんが、一度にたくさん食べられなくなりますので、1日の食事の回数を増やすなどの工夫が必要になってきます。また、食べたものが早期に腸へ流れ込むことによる症状(下痢、腹痛、冷汗、立ちくらみ等:ダンピング症状といいます)が出たりする場合があります。ゆっくり時間をかけ、よく噛んで食べるようにする必要があります。

※術後補助化学療法について

 これまで、胃がんの治癒切除(目に見えるレベルではすべて胃がんを切除できた)後に再発予防に薬物療法を行うこと(これを「補助化学療法」といいます)の有効性をしっかりと示した研究はありませんでしたが、最近、胃がんの治癒切除後にある種の抗癌剤を一定期間内服することにより、再発を予防する効果のあることが示されました。現在では、ステージIIとIII(ただし早期胃がんを除く)の胃がん治癒切除後には、ティーエスワンという抗癌剤を1年間内服することが、我が国における標準治療と考えられています。

薬物療法

 化学療法は抗がん剤を使用する目的によって、(1)手術で取りきれずに残ってしまった少量のがん細胞を死滅させて再発を予防する(これを術後補助化学療法と言います)、(2)がんに伴う苦痛を改善したり予後を延長させる目的で使用する、の2つに分類されます。
 (1)の術後補助化学療法は、手術で完全にとりきれなかったがん細胞を死滅させることで、手術単独では治らない患者さんを治す治療です。 一方、この治療は手術で治ってしまう患者さんにまで抗がん剤を投与することが問題です。使用する抗がん剤の効果と副作用を検討した結果、ティーエスワンの1年間の投与が有効であることが知られています。(2)の目的で用いられる主な抗がん剤は5-フルオロウラシル、シスプラチン、イリノテカン、タキサン系薬剤(パクリタキセルとドセタキセル)です。最初に行うべき治療は5-フルオロウラシル系薬剤であるティーエスワンとシスプラチンを組み合わせた治療法です。この他にも、ティーエスワンにタキサン系薬剤を組み合わせた治療法も期待されていますが、現在までに有効性の証明はされていません。この他、ティーエスワンとシスプラチンにタキサン系薬剤であるドセタキセルを組み合わせた3剤併用療法も検討されていますが、その効果や安全性の十分なデータはありません。
 最近の研究で、胃がんの約20%にHER2(ハーツウ)という細胞増殖にかかわるたんぱく質が多く発現していることが分かりました。2009年の米国臨床腫瘍学会において、HER2を多く発現している胃がんにHER2の働きを抑える分子標的治療薬(トラスツズマブ)を併用すると、予後の改善することが報告されました。この薬剤は乳がんの治療薬として使われていますが、近い将来、胃がんにおける治療薬になると期待されています。
 また、手術成績向上のため、手術可能な患者さんに対する術前化学療法の研究も進んでいます。高度リンパ節転移症例に対するティーエスワンとシスプラチンによる術前化学療法は、術前化学療法なしに比べて優れている可能性が高いことが示されています。現在、高度リンパ節転移を伴う症例に対して、術前化学療法がおこなわれるようになってきています。

放射線療法

 放射線は、胃がんに対する効果が弱いうえに正常な大腸や小腸を損傷しやすいため、通常は胃がんに対して放射線を照射することはありません。しかし、脳や骨やリンパ節などに転移が起きたときに、その転移部位に放射線をかけることがあります。

その他

 胃がんは治る病気になりつつありますが、ある境界を超えるとまだまだ恐ろしい病気です。この病気から身を護るためには、やはり早期発見が最も大切なことだと思います。症状が出る前に、年に1度の検診を積極的に受けられることをお勧めいたします。

 また、がんが見つかった場合に慌てないことです。がんは慢性疾患ですので1カ月や2カ月で急に進むものではありません。信用のおける病院でしっかりとした検査を受けてがんの拡がりについて正確な診断をしてもらい、それに基づいて過不足のないしっかりとした治療を受けられることをお勧めいたします。

 また、ご自分の体のことですから、納得してから検査や治療を受けるべきです。医者が言うからとか家族の誰それが言うからといった姿勢では治るものも治りません。自分から積極的に病気の治療をするのだという気持ちになってください。

 もし私たちでお役に立てることがありましたら何でも相談してください。がんセンターで治療を受けるおつもりがない場合でもセカンドオピニオンなどの受診方法があります。その時には、何も資科がないと正確なご返事ができませんので、紹介状や写真などをお持ちいただけると幸いです。また最近内服されている薬の中に「血液をさらさらにする薬」が多く処方されていますので、当院での内視鏡検査を希望される場合には薬剤の名前がわかる書類を持参していただいた方がよいと思います。

平成22年1月改訂

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