大腸がん

はじめに

 大腸は消化吸収が行われた食物の最終処理をする消化管で主に水分を吸収して排泄に都合のよい状況をつくり出します。大腸は約1.5mの長さがあり、口側から盲腸、結腸、直腸・肛門管(肛門縁から約15cmが直腸・肛門管)の順で構成されます(図1)

大腸シェーマ
(図1:大腸シェーマ)

 日本の大腸がんは1990年半ばまで増加し、全国統計(国立がんセンターがん対策情報センター)によれば、死亡原因(2007年)では男女を合わせると肺がん、胃がんに次いで人口10万人あたり11.7人で、3位です。また、罹患率(2003年)では人口10万人あたり34.6人で胃に次いで2位です。愛知県でも2003年の死亡数は肺、胃についで大腸1077人で3位ですが、罹患数では胃に次いで大腸2280人で2位の罹患数でほぼ全国統計と同じ結果です。比較的治りやすいけれども患者数が多く適切な診断、治療が重要となっています。
 1970年代には結腸がんと直腸がんは、ほぼ同じ罹患率でした。2003年までに、それぞれ増加し続けましたが、結腸がんの増加率の方が高く、直腸がんのほぼ2倍の罹患率となりました。 
 性別では、男性は、罹患率、死亡率ともに女性の約2倍の頻度であり、特に直腸で男女差が大きくなっています。また年齢別の罹患率ではでは50歳代付近から急速に増加し、高令になるほど高くなります。

 大腸がんの発生には遺伝的因子より環境的因子の比重が大きいと考えられています。食生活の欧米化つまり動物性脂肪や蛋白質の摂取量増加が日本における大腸がんの増加の原因ではないかと言われています。しかし、遺伝的素因もその発症には関与しており大腸がんにかかりやすい高危険群として家族の中に大腸がんにかかった人がいることがあげられています。その他にも1)過去に大腸ポリープができたことがある。2)10年以上潰瘍性大腸炎にかかっている。3)痔瘻が何年も続いている。4)過去に骨盤腔に放射線をあてたことがある。などが高危険群としてあげられています。特にこのような方は定期的な大腸がん検診が必要とされています。

大腸がんの症状

 早期のがんは症状はまずありません。便に血が混じっている(血便)場合はがんの注意信号です。がんの表面が潰瘍で出血しやすくなっているためです。肛門に近い部位にがんができた場合排便の際に肛門から出血する場合もあります。この症状は痔核と思われて放置されることがあります。痔核と診断するためには大腸がんでないことを確認する必要があります。右側の結腸がんでは肉眼的な血便に気づかず慢性的な出血による貧血によって発見される場合もあります。また、最近排便回数が増加してきた、腹痛がある、残便感が常にある、便柱が細くなったなど排便状況が変化したと気づいた場合は大腸がんによる症状であることもあり一度大腸検査をしてみるべきでしょう。また、嘔吐などの腸閉塞症状、腹部や頚部の腫瘤が初徴候のこともあります。

大腸がんの診断

A)便の免疫学的潜血反応

 ひとの赤血球に含まれるヘモグロビン(血色素)を検索する方法で従来の鉄分を検索する方法に比べて偽陽性(血液が混じっていなくても陽性になること)の比率が減少しました。それでも、二日間続けて検査をした場合、陽性者のうち、大腸癌が発見される確率は、約4%です。確定診断を得るためには大腸内視鏡検査が必要です。本検査法は多人数集団から精査が必要な人をふるい分ける経済的にも身体的にも負担の少ない方法です。50歳以上の方に勧められています。一方、進行大腸がんがあった場合でも、80%の陽性率です。つまり、20%はみのがされてしまうので、潜血反応陰性が続いていても3-5年毎に注腸造影検査できたら大腸内視鏡検査が必要です。

B)注腸造影検査

 食事制限と下剤の処置により大腸をきれいにして、肛門からバリウムと空気を大腸全体に送り込んでレントゲン写真をとります。比較的負担の少ない方法ですが大腸のきれいになり具合やバリウムや空気の送り込み具合によって診断の精度が変わってくることがあります。        

C)大腸内視鏡検査

 下剤、浣腸の処置により大腸をきれいにしてから肛門から内視鏡を挿入して大腸内腔を観察します。たわんだ大腸では挿入に手間取ることもありますが比較的小さな病変も見逃さずに診断することができ、精度の高い診断方法です。

D)腫瘍マーカー

 血液の検査でがんの進行程度、治療効果、再発の有無をチェックする方法です。特にCEAと呼ばれるマーカーが大腸がんには陽性率が高く、進行がんで約半数が陽性を示します。他に、CA19-9、p53抗体があります。しかし、大腸がんの腫瘍マーカーは、進行していないと正常値のことが多く、がんを見逃さないようにするのは不得意です。

E)画像診断:CT(コンピューター断層写真)、MRI(核磁気共鳴画像)、US(超音波診断)

 大腸自体のがんの診断には上記の方法にかないませんが、転移、周囲臓器への浸潤具合など治療にとっては不可欠な検査です。

F)PET検査(陽電子放射断層撮影:Positoron Emission Tomography)

 がん細胞が正常細胞に比べて多くブドウ糖を取り込む性質を利用して、ブドウ糖に似た物質にアイソトープで目印をつけて(FDG)体内に注射し、全身にわたって集積の有無をみる検査です。上記画像診断でわかりにくい転移、再発の検索に有効な検査です。

大腸がんの進行度(stage、ステージ)

 進行度については日本では大腸がん取扱い規約第7版(2006)に従って分類されます(表1)。国際的にはTNM分類が使用されます。進行度を設定することにより、過去のデータをもとにした治癒率の目安が得られます。
 進行度は0, I, II, IIIa, IIIb, IV期の順で進行した状況となります。

 0期:ごく早期のがん(粘膜内がん)、転移の報告なし
 I期:所属リンパ節に転移がなく、腸管壁への浸潤も固有筋層(腸管壁内)にとどまります
 II期:所属リンパ節に転移がなく、腸管壁への浸潤が深い(固有筋層を貫く)状態
 III期:腸管壁への浸潤にかかわらず、所属リンパ節転移のある状態
   IIIa:所属リンパ節転移(1-2群)が3個以下
   IIIb:所属リンパ節転移が4個以上あるいは、所属リンパ節の最も離れた部位(3群)リンパ節に転移
 IV期:肝や肺などの血行性転移、腹膜転移、遠隔リンパ節転移(所属リンパ節外)がある場合

【表1:進行度】
深達度 肝転移(-)、腹膜転移(-)、他の遠隔転移(-) いずれか(+)
リンパ節転移なし 所属リンパ節転移(1-2群)が3個以下 所属リンパ節転移が4個以上あるいは、3群リンパ節転移 遠隔リンパ節転移
固有筋層まで I IIIa IIIb IV
固有筋層を超える II

大腸がんの治療

 治療法には内視鏡的治療、外科治療、放射線治療、化学免疫療法があります。外科治療を軸に治療方法が選択されます。治療法についてはエビデンスをもとに、ガイドラインが発表されています。(注:ガイドラインは60-95%のケースに適用されますが、患者の状況によっては医師の判断で適用するかどうか決めるべきものと定義されています。スタンダードが100%の適用が必要なものです。)
 日本では2009年大腸癌治療ガイドライン(日本大腸癌研究会編、金原出版、2005年版)、米国ではNCI PDQ(R):National Cancer Institute Physician Data Query 米国国立がん研究所によるがんの情報提供、NCI PDQ(R)日本語版:文部科学省委託による(財)先端医療振興財団の同サイト日本語訳。同じくNCI提供による論文:Guidelines 2000 for colon and rectal cancer surgeryがよく知られています。
 ここでは日本での大腸癌治療ガイドラインに沿った当院での治療方針を述べます。

A)早期がん

 早期がんの定義はがんの深達度(深さ)が粘膜固有層、粘膜下層にとどまるものとされています。前述の進行度(stage)では0期全て、I期の一部(固有筋層浸潤がんを除く)となります。早期がんの治療法もそのがんの深達度によりさらに細分類されます。

a)粘膜内がん(mがん)

内視鏡的粘膜切除
(図2:内視鏡的粘膜切除)

 粘膜内がん(mがん)ではないかと診断したら内視鏡的治療が第一選択です。内視鏡治療には大きくポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術(EMR)があり(図 2)、ともに大腸ポリープをはじめ、小さながんを切除することができます。最近では内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が登場し、より大きながんでも切除が可能となっています。


 また、肛門に近い場合は経肛門的局所切除を行ないます。術前通りの深さであり取り残しがない時にはリンパ節転移もこれまで報告されたことはないのでこれで十分な治療と考られ追加の治療はありません。

b)粘膜下層浸潤がん(smがん)

 早期がんでも一定以上の深さ(専門的には粘膜筋板を越えて粘膜下層に浸潤しているといいます)に達しているものを粘膜下層浸潤がん(smがん)としています。smがんは全体で約10%のリンパ節転移の可能性があり、リンパ節郭清を伴った腸管切除の適応を検討する必要があります。大腸癌治療ガイドライン(2009)では、sm浸潤度1000μm(0.1mm)以上、組織型(低分化腺癌、粘液癌、印環細胞癌)、脈管侵襲陽性、簇出が追加切除の組織学的適応基準です。

B)進行がん

a) I期の一部(固有筋層浸潤がん)、II〜III期

リンパ節郭清の範囲
(図3:リンパ節郭清の範囲)

 治療は、手術によって腫瘍を含む腸管切除と所属リンパ節郭清を行うことが原則です。結腸がんと直腸がんでは手術術式を含め、治療方針が変わってきます。同じ大腸がんですから、がん自体の性格は同じと考えられますが直腸の占居する部位の特殊性(骨盤の中で手術がしにくい、周りに膀胱や性器官などの大事な臓器が直腸に接して存在し自律神経を共有している)やその機能に排便機能の大元締めとしての役割があることが大きな要因です。一方、結腸も直腸も進行がんに対する手術療法の基本は過不足のない安全域を確保した腸管の切除と過不足のない領域リンパ節の郭清で基本理念は変わりません(図3)。結腸がんに対してこのような姿勢で臨んできた結果最近の他病死も含めた5年生存率はII期85%、IIIa期83%、IIIb期68%の結果でした。これらの数値は欧米の教科書に記載されている数値を約10%以上上回る成績です。
 結腸がんに対してこのような姿勢で臨んできた結果最近の他病死も含めた5年生存率はII期85%、IIIa期83%、IIIb期68%の結果でした。これらの数値は欧米の教科書に記載されている数値を約10%以上上回る成績です。


結腸がん5年生存率の推移
(図4:結腸がん5年生存率の推移)

 直腸がんに対しての外科治療は大きく変化してきました。変化を必要とした最大の問題点は人工肛門造設が多くの直腸がんで必要とされてきたことと、結腸がんに比較して局所再発が多く治癒率が低いと言う2点でした。下部直腸がんに対する術式のうち、人工肛門を避け骨盤内で結腸と直腸を吻合する前方切除術は1970年〜1989年では6%しかなかったのですが、がんの根治性を維持しながら肛門温存を図ってきたことと吻合器の使用により50%を超えています。また、結腸より多いがんの取り残しが原因とされる局所再発を低下させるために拡大郭清である骨盤内リンパ節郭清を拡大して行ってきました。下部直腸がん(肛門に近い直腸)では過去の症例と比較して10%以上の効果(5年生存率の改善)を認めています。しかし、自律神経を合併切除する方法であったため術後の性・排尿機能障害が多く出現し後遺症として日常生活の快適性を低下させてきました。現在では自律神経の切除に関しては適応を十分絞り込んでいかに温存ができるか常に検討しながら術式を決定しています。部分的にも神経が温存できた場合排尿機能障害はほとんどの症例で軽度となっています。男性性機能温存はまだ、改善が必要です。 直腸がんに対する外科治療成績(1990年〜2003年)は5年生存率でみるとII期85%、IIIa期81%、IIIb期62%の結果で結腸がんと同様に欧米の一般的な成績と比較して約10%以上良い成績です。

直腸がん5年生存率の推移
(図5:直腸がん5年生存率の推移)

b)IV期

 IV期に対しては、手術的な摘出が予後の改善に最も効果があると考えられています。特に肝、肺転移に対しては転移巣の切除を検討します。原発巣の摘出そして可能なかぎりの転移巣の摘出です。この場合、患者さんの体力そして摘出した後の生命を維持する臓器の残存機能が問題でありさらに現在ではどこまで普通の生活に戻れるかもQOLとして重要な課題です。IV期で転移を極力摘出でき肉眼的には取り残しがなかった場合、肝・肺転移では5年生存率は約20〜50%の報告です(当院の肝転移治療成績:図6 同時性 54%)。最近では化学療法の奏効率が高くなったため、摘出前後の化学療法の投与法が効果的であるのか臨床試験を通して、検討されています。

図6:肝転移切除例の全生存曲線
(図6:肝転移切除例の全生存曲線)

C)放射線治療

 大腸がんのほとんどを占める腺がんに対しては放射線の効果が低いとされていました。結腸がんに対しては初回の治療に放射線治療が適応されることはありませんが、直腸がんに対しては放射線治療が見直され、欧米では初回手術前に骨盤腔に照射を行い、局所再発率を低下させています。しかし、放射線併用による生存率の向上ははっきりしません。本邦では、当院も含めて進行直腸がんに対して拡大リンパ節郭清がまず選択されます。局所再発率は術前照射と同等で、照射による副作用も嫌われ、術前照射は普及しておりません。ただし、 再発しやすいグループへの照射適応は検討されています。

D)化学療法

 手術的に治癒切除ができた場合もステージIIIでは、予防的抗がん剤投与が再発率の低下に有効と臨床試験で結果が出ました。ステージI,IIではもとも治癒率が高く、抗がん剤投与による差は出ておりません。現在、保険診療でも認められ、臨床で行なわれている方法は、結腸がんに対しては、5FU+LV(ロイコボリン)点滴静注法、フトラフール・ウラシル(UFT)+ロイコボリン(ユーゼル)内服、カペシタビン(ゼローダ)内服、直腸がんに対しては、結腸がんの効果を準用して使用していますが、日本の臨床試験により手術単独に対して、フトラフール・ウラシル(UFT)単独内服が、再発率低下に有効であったため、選択肢のひとつに加えています。

術後のフォローアップ

 治癒切除できた方もがんの治癒を見極めるためには少なくとも術後5年の経過観察が必要です。検査で発見できない小さな癌病巣が潜んでいる可能性があるからです。手術後は2から3年まで約3ヶ月ごとの検診と2から3年以後は6ヶ月毎の検診で再発をチェックすることが重要です。再発は主に大腸を切除した部位近傍(局所再発)、肝・肺転移、遠隔リンパ節再発、その他があります。

再発に対する治療

 再発した場合の治療は、まず切除できる時は手術による切除です。限られた部位・個数の転移の場合、完全切除により治癒できることもあります。一般的に、肝/肺転移は、5年生存率20-50%(当院の治療成績:53%、図6)、骨盤内再発 20-40%(当院の治療成績:32%、図7)の手術による治癒率が報告されています。

当院での骨盤内再発手術例の生存曲線
(図7:当院での骨盤内再発手術例の生存曲線)

 図7は当院での肝転移、骨盤内再発に対する手術成績です。切除効果を上げるために、放射線治療や抗がん剤治療も追加することが検討されています。骨盤内再発では重粒子線による治療が高度先進医療として放射線医学総合研究所で行なわれており、手術と同等の効果が報告されています。切除できない場合は放射線治療や抗がん剤投与を行ないます。抗がん剤(化学療法)は、1990年代後半から発展。

1.FOLFOX(infusional 5-FU/l-LV+oxaliplatin)
2.FOLFIRI(infusional 5-FU/l-LV+irinotecan)
3.IFL(bolus 5-FU/l-LV+irinotecan)
4.5-FU/l-LV療法
5.UFT/LV 錠

 さらに、現在では分子標的製剤であるBevacizumab、cetuximabが保険診療上も使用できるようになりました。従来1年未満であった再発後50%生存期間も、2年以上に延長しています。

平成21年8月改訂

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