乳がん

乳がんとは

 乳房は花びらのように配列した15〜20個の腺葉からなっています。それぞれの腺葉は多くの小葉にわかれ、小葉はすべて乳管で連絡されています。これらの乳管は合流して最後に乳頭に達します。
 乳がんは乳腺の上皮組織、すなわち乳管や小葉の内腔表面から発生した悪性腫瘍です。乳管由来のものを乳管がん、小葉由来のものを小葉がんと呼びますが、ほとんどの乳がんは乳管がんです。そして次のような経過をたどって進行します。

 
(1)浸潤:周囲の健康な組織や器官に浸潤し破壊します。
(2)転移:リンパ管や血管に入って、がん細胞がリンパ節や身体の他の臓器に新しい転移性腫瘍を作ります。
(3)再発:手術によって一旦治癒したようにみえても、すでにがん細胞が全身にひろがっている場合や切除した局所にがん細胞が残っている場合には、がんが再発することがあります。転移・再発を避けるためには、できるだけ早期に発見して完全に切除することが大切です。

乳がんの症状

 乳房の大きさや形・硬さなどはさまざまです。また女性の乳房は生涯を通して変化しつづけます。変化は年齢、生理周期、妊娠、ホルモン剤や避妊薬の使用、閉経、外傷などと関係します。乳がんの早期発見には乳房の自己検診が役立ちます。毎月、自己検診を行うよう習慣づけることにより、自分の乳房の正常状態を把握できますし、異常にも気づきやすくなります。そしていかなる変化でも、気付いたら医師の専門的診察をうけることが大切です。最近は集団検診も普及してきて、乳がんの早期発見に役立っています。
 注意すべき乳がんの症状:(1)乳房やわきの下のしこりや硬結、(2)乳房の大きさや形の変化、(3)乳頭からの分泌、(4)乳房の皮膚や乳頭の変化(くぼみ、しわ、ひきつれ、乳頭陥没)。

乳がんの診断

 乳がんが疑われる場合、医師は問診につづいて次のような検査をおこないます。

  1. 触診:乳房を注意深く触れて、しこりの有無、大きさ、可動性、皮膚の変化、わきの下のリンパ節のはれなどを調べます。
  2. 乳房撮影(マンモグラフィー):乳房のレントゲン検査です。優秀な乳房撮影は触知不可能な微細病変をも描出し、乳がんの早期発見に偉力を発揮します。
  3. 超音波検査:乳房内での超音波の反射(エコー)を画像に映し出します。乳房撮影とは異なった面から乳がんの診断を助けます。
  4. 穿刺吸引細胞診:注射器に細い針をつけて乳房のしこりに刺し、陰圧を加えて少量の組織を吸引採取してがん細胞の有無を調べます。
  5. 穿刺吸引組織診(ステレオガイド下・超音波ガイド下針生検):穿刺細胞診より太目の針を用いて組織の一部を採取し、病理組織標本を作ってがんの診断をします。 免疫染色法による、がんの性質診断も可能となります。
  6. 外科的生検:局所麻酔下に乳房を切開し、しこりの一部(切開生検)または全部(切除生検)を切除し、病理組織標本を作製します。乳がんの診断は病理組織診断によって確定されます。

乳がんの病期

  1. 非浸潤がん:乳がんが乳管内または小葉内にとどまり周囲に浸潤していないもので、顕微鏡レベルの早期がんです。
  2. T期:腫瘍の大きさが2p以下で、わきの下に硬いリンパ節をふれない早期がんです。
  3. U期:腫瘍が2p以上5p未満で、わきの下のリンパ節に転移のあるものも含みます。
  4. V期:腫瘍が5p以上で、周辺組織への浸潤やリンパ節転移を伴うものもあります。
  5. W期:がんが反対側乳房や骨・肺・肝・脳などに転移している進行がんです。

乳がんの治療法

 乳がんに対する治療法は、外科療法、放射線療法、薬物療法の大きく3つに分類されます。

外科療法(手術)

 原発性乳がんを完全に治すためには、手術を欠かすことはできません。手術をどのタイミングで行うか(薬物療法の前か後か)は、がんの性質を見極めて考える必要があります。

A)乳房温存術

 乳房内でがんが比較的限局していて(超音波、マンモグラフィ、MRIで調べる)、がんをすべて取り除くのに乳房全部をとる必要がない方、そして美容的にも満足できる乳房が残すことが可能な方が適応です。

B)乳房切除術

 乳房内に広範囲に広がった乳がんの方が適応になります。    

C)センチネルリンパ節生検

 腋のリンパ節に手術の前の検査でがんの転移がないと思われた方が適応になります。乳房から最初にたどり着くリンパ節に転移がなければ、腋のリンパ節をそれ以上とらない方法です。乳房の手術と同時にあるいは前に調べることになります。

D)腋窩リンパ節郭清

 センチネルリンパ節生検で転移のあった患者さんや、手術の前にすでに明らかに転移がある方では、腋のリンパ節にがんの取り残しがないように、すべてのリンパ節を切除します。

E)乳房再建術

 乳房切除をする方を対象にして、乳房の切除と同時に(1次再建)あるいは後日(2次再建)に乳房を作る手術が可能です。再建の方法も、人工物を入れる方法から、自分の筋肉や脂肪を使って再建する方法などがあります。

放射線治療

 高エネルギーの放射線を用いてがん細胞にダメージを与え、これを死滅ないし増殖停止においこみます。放射線療法は手術後の補助療法として、温存手術後の乳房や、乳房切除後の胸壁・鎖骨の上のリンパ節に行います。また、再発・転移病巣(骨転移、脳転移など)への治療として行うこともあります。

薬物療法

A)ホルモン療法

 乳がんの約70%は女性ホルモンの作用を受けて増殖する性質を持っています。これをホルモン依存性乳がんと呼んでいます。このようながんでは、女性ホルモンの働きを止めるとがんの増殖も停止します。このようなホルモン療法は、閉経前では内服剤と注射剤を併用して使い、閉経後では内服剤を最低でも手術後5年間服用するのが一般的です。最近では手術の前にホルモン剤を内服する術前ホルモン療法も行われるようになってきました。

B)化学療法

 抗がん剤を用いて、がん細胞の増殖を止めるものです。作用の異なるいくつかの抗がん剤を組み合わせて、効果の増強と同時に副作用を軽減させる工夫が行われています。再発のリスクに合わせて持っても効果的な治療を選択します。しこりの大きな方では、手術の前に抗がん剤治療を行うことも一般的な治療になっています。

C)分子標的治療

 乳がんの増殖や転移に直接関係する分子(マーカー)をターゲットにして、この働きを阻害する薬剤が分子標的治療剤です。現在乳がんで使用可能な薬剤はHER2タンパクをターゲットにしたトラスツズマブとラパチニブの2種類です。トラスツズマブは手術前・後さらに再発した乳がん患者さんへ注射で投与します。ラパチニブは、再発した乳がん患者さんに内服してもらう薬剤です。

治療法の選択

 治療法の選択には、乳房内のがんの大きさや広がり、リンパ節転移の状況など以前から重要とされた要因の他に、がんの性質(ホルモン感受性やHER2発現状況、組織学的悪性度など)を考慮して治療戦略を立てます。また、患者さんの希望も最大限聞くことが可能です。

@ 手術→±薬物療法±放射線治療
A 薬物療法→手術±放射線治療±薬物療法

 がんの性質を針生検で検査の上、上記の@Aのどちらかの選択をすることになります。
 患者さんの希望として、手術の際の傷の付く場所や、乳房温存療法へのこだわり、薬物療法に伴う副作用の問題など、主治医の先生に希望を伝えることが大切です。

治療成績

 乳がんは治癒率の高いがんです。手術後の5年全生存率(全国乳がん患者登録調査、日本乳癌学会2012年更新版)は、0期:97.6%, I期:96.6%, II期:90.9%, III期:72.5%です。さらに最近では新薬の開発により、手術後の生存率や再発乳がんの治療成績も飛躍的によくなってきています。

おわりに

 愛知県がんセンターでは、乳がんの早期発見のための器械(ステレオガイド下・超音波ガイド下針生検装置)を揃え、検診でチェックされた微妙な病変の確定診断に威力を発揮しています。手術は根治性に加えて、形成外科とも協力して美容と機能を重視した乳房再建術を積極的に推進しています。初期治療・再発全身治療においては、世界標準(グローバルスタンダード)にかなう治療を推進した上で、海外との臨床試験・治験に参加することで、保険適応になっていない新薬を患者さんに提供することも可能になっています。

平成29年1月改訂

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