腎細胞がん

腎細胞がんとは

 腎臓は、みぞおちの高さの背中側に背骨をはさんで左右一対ある臓器で、ソラマメのような形をした長さ10 cm、幅5cm、厚さ3cm程度の大きさの臓器です。主な働きは、血液をろ過して尿を作り、体の水分量の調節や不要な物質の排泄をすることで、他に、血圧のコントロールや赤血球を作ることに関するホルモンの産生なども行っています。
 腎臓には、液体のたまった腫瘤(嚢胞状腫瘤)と細胞の詰まった腫瘤(充実性腫瘤)が発生します。腎臓の嚢胞状腫瘤は超音波(エコー)検査でよく発見され、腎臓では最も多くみられる腫瘤ですが、その大部分は腎嚢胞と呼ばれる良性の腫瘤で、特殊な例を除けばがんとは特に関係ありません。腎臓の充実性腫瘤には、腎細胞がんや小児に発生するウイルムス腫瘍、稀にみられる腎肉腫などの悪性腫瘍と、腎血管筋脂肪腫、オンコサイトーマなどの良性腫瘍があります。腎臓の充実性腫瘤の中で最も多くみられるのが腎細胞がん(いわゆる腎がん)で、以下では、この腎がんについて詳しく述べます。
 腎がんは、人口10万人あたり、男性で約7人、女性で3人程度に発生し日本でも増加傾向にあります。がんの中では非常にゆっくりと大きくなるタイプが多いのですが、急速な悪化を示すタイプもみられます。静脈の中に腫瘍が広がる(腫瘍塞栓)傾向があり、他の臓器への転移を生じ易いがんです。転移は肺、骨、肝臓、脳、リンパ節に多くみられます。化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療が効きにくいのも特徴の1つで、インターフェロン、インターロイキン2などを用いた免疫治療がよく行なわれていました。近年、分子標的薬(スニチニブ、ソラフェニブなど)の効果が確認され、使用されています。今後も、新たな分子標的薬の適応がすすみ、治療選択が増えています。
 また、2016年、がんを死滅させる免疫の活性を誘発する薬である、PD-1阻害剤(製品名:オプシーボ)が、進行性腎がんに保険診療内で使用が可能になりました。現在の所、分子標的治療薬使用後の適応になりますが、以後使用するタイミングが変更になる可能性があります。

症状

 以前は、目に見える血尿や側腹部の腫れ、側腹部の痛みなどの局所の症状や、原因のはっきりしない発熱、体重減少などの全身症状を契機として発見されることが多くみられました。しかし最近は、超音波検査やCT検査などが普及したことにより、健康診断や他の病気で検査を受けた際に偶然発見される、症状のない小さな(例えば直径3cm以下の)腎がんが増加しています。

診断

 超音波(エコー)検査;放射線被爆がなく簡単に受けられ、腎腫瘍の発見には有用な検査です。がんかどうかの質的診断には困難な場合もありますが、腎嚢胞や腎血管筋脂肪腫などの良性疾患の鑑別にも威力を発揮します。

CT検査

 腎臓に腫瘤が疑われる場合、造影剤を使用したCTが最も診断力のある検査です。画像診断で腎がんであるとの診断が可能なだけでなく、多臓器への転移の有無、リンパ節転移の有無や静脈内の腫瘍塞栓の有無などが診断できます。腎がんで一番頻度の高い淡明細胞がんは、腫瘍が不均一で、造影剤検査早期で濃染され、後期で早く造影剤が抜けることが特徴です。腫瘍が均一である場合、他の組織を有した腫瘍であることが多いため、慎重な診断が必要です。
 一般的に、脂肪を含んだ腫瘍は、良性腫瘍であることが多いですが、脂肪を含んだ腎がん、脂肪肉腫などの可能性もあります。また、反対に脂肪成分の少ない、血管筋脂肪腫は、腎がんとの鑑別が難しい印象です。またアジア人では頻度は少ないですが、良性腫瘍のオンコサイトーマは、画像では腎がんとの鑑別が困難であるとされているため、以下に示す腎生検なども念頭に置く必要があります。

MRI検査

 CTの補助的に、局所の進行を評価するために施行することがあります。脂肪抑制にて撮影することにより、血管筋脂肪腫の脂肪成分が抑制され、血管筋脂肪腫であることを示唆する所見が得られることもあります。

骨シンチグラフィー

 骨転移の有無をみるために施行されます。転移のみでなく、骨折や変形性脊椎症などの良性疾患でも異常を示す検査ですので注意が必要です。

PET-CT

 全身転移の有無、骨シンチでは同定しにくい、転移を評価するために施行されることもあります。

腎血管造影検査

 以前は診断のためによく施行されていましたが、近年CT検査の性能の向上により、診断だけのために施行される機会は少なくなってきています。

腎生検

 本邦において、腎腫瘤に関して、ほとんどの症例が、放射線画像のみで診断され、がんが否定できない場合、腎腫瘤生検を行って手術前に組織診断を行うことなく、手術(腎全摘除、腎部分切除)が施行されているのが実情です。しかし、当院の集計においても、手術療法が施行された症例の13.5%に、良性腫瘍が存在し、特に2cm以下では20%以上の良性腫瘍が存在します。また、60歳より若く、女性で3cmより小さい腫瘍においては、50%もの症例で良性腫瘍が存在します。この現状は、現時点での放射線診断の限界を示しており、手術前の評価が必要であることを示しています。一方、欧米諸国では良性腫瘍の頻度が、本邦より高く腫瘍の大きさに関わらず20%を超える報告が多く存在し、手術前に、腎腫瘤生検が積極的に行われています。しかし、腎腫瘤生検の安全性、有効性を示した本邦での報告は少なく、本邦では腎腫瘤生検が積極的に行われていません。現状を踏まえ、当院の倫理委員会の承認を得て、腎腫瘤生検を積極的に行っています( 腎腫瘤生検(臨床試験:倫理委員会承認すみ)) 。 その目的は、手術前に腎腫瘤が本当に手術の必要な癌であるかを確定するためです。 生検が特に勧められる症例は、60歳より若く、女性で3cmより小さい腫瘍においては(50%もの症例で良性腫瘍の可能性)、放射線診断で典型的な腎癌の所見を示さないものと考えています。腎腫瘤を指摘されて、治療を検討されている方がみえましたらご相談ください。

腎生検

病期(がんの進行状況)

 腎がんの病期は、1) T;局所でのがんの進展段階、2) N;近くのリンパ節への転移の有無と程度、3) M;他の臓器への転移の有無の3つの観点を総合して、4)病期を4段階に分類しています。

1)T-原発腫瘍

 T1:最大径が 7 cm以下で腎に限局する腫瘍
     T1a 最大径が4 cm以下で、腎に限局する腫瘍
     T1b 最大径が4 cmを超えるが7 cm以下で、腎に限局する腫瘍
 T2:最大径が7cmを超え、腎臓にとどまる
     T2a 最大径が7cmを超えるが10cm以下で、腎に限局する腫瘍
     T2b 最大径が10 cm以上で、腎に限局する腫瘍
 T3:腫瘍は主静脈内に進展、または副腎に浸潤、または腎周囲組織に浸潤するがGerota筋膜(*)をこえない
     T3a 肉眼的に腎静脈に進展する、または腎周囲組織に広がるが、骨筋膜を超えない 
     T3b 腫瘍は肉眼的に横隔膜下までの下大静脈内に進展する
     T3c 腫瘍は肉眼的に横隔膜をこえる下大静脈内に進展する
 T4:腫瘍はGerota筋膜(*)をこえて浸潤する

 (*)Gerota筋膜とは腎臓・副腎とその周囲脂肪をあわせて包む腎臓周囲の膜です。

2)N-所属リンパ節転移

 N0:所属リンパ節転移なし
 N1:1個の所属リンパ節転移
 N2:2個以上の所属リンパ節転移

3)M-遠隔転移

 M0:遠隔転移なし
 M1:遠隔転移あり

4)病期分類

 I期:腫瘍の大きさは 7 cm以下で腎臓に限局し、リンパ節転移や他臓器への転移を認めない(T1、N0、M0)
 II期:腫瘍の大きさは 7 cmをこえるが腎臓に限局し、リンパ節転移や他臓器への転移を認めない(T2、N0、M0)。
 III期:腫瘍は腎臓に限局し、他臓器への転移を認めないが、所属リンパ節を1個認める(T1-2、N1、M0)
 腫瘍は主静脈内に進展、または副腎・腎周囲組織に浸潤するがGerota筋膜をこえず、リンパ節転移は認めないか所属リンパ節転移1個で、他臓器への転移を認めない(T3、N0-1、M0)
 IV期:腫瘍がGerota筋膜をこえて浸潤する(T4、Nに関係なく、M0)2個以上の所属リンパ節転移があるか(Tに関係なく、N2、M0)他臓器への転移がある(Tに関係なく、Nに関係なく、M1)

治療

手術

 転移のない腎がんの治療法の第一選択が手術です。手術により腫瘍が摘出できる場合は治癒も期待できます。
 腎がんに対する手術法としては、副腎や周囲の脂肪組織も含めてGerota筋膜ごと腎を摘出する方法(根治的腎摘除術)が一般的でした。しかし、最近、小さな腎がんや、多発性の腎がん、反対側の腎臓の働きが悪い腎がんに対しては、悪い方の腎臓の正常部分を一部温存する方法(腎部分切除術)も積極的に施行されています。腎臓の機能を温存する方が、心臓血管系のトラブルの頻度が下がり、最終的に長生きができると考えられるためです。特に、小さい腎がんとされる直径4cm以下であれば、腎部分切除が考慮されてもよいと思われます。
 従来は腹部を切って腎臓を摘除(開腹)していましたが、現在は、大きく切らない目的で、内視鏡を用いた手術(腹腔鏡下手術、腹腔鏡補助手術)を行っています。

動脈塞栓術

 この方法は手術による摘出が不可能な場合、転移巣がたくさんの臓器にある場合や、大きな腎がんを摘出する場合、手術に先立ち行うこともあります。血管造影の手法を用い、腫瘍に酸素や栄養を送る動脈を人工的に閉塞させ、腫瘍に血液が流れ込まないようにする方法で、腫瘍の摘出が不可能な場合には症状を緩和させる効果が期待できます。副作用としては、発熱、腎部痛、吐き気などがみられますが、1週間程度でよくなります。

放射線治療

 放射線治療のみで治癒することは困難ですが、症状を緩和させる効果が期待できます。おもに骨、脳転移などに対して放射線治療が行われます。 

分子標的薬

 免疫療法の効果がない場合、切除術が困難な場合、転移のある場合に行われます。海外の結果ではインターフェロンを上回る効果が認められ、海外のガイドラインで転移のある場合の第一選択薬とされている治療薬もあります。現在本邦で使用できる分子標的薬が増えています。副作用として出血、手足の皮膚障害、血圧上昇、貧血、血小板の減少などがあります。今後さらに開発が進み使用できる薬が増えると思われます。

免疫療法(インターフェロンなど)

 腫瘍が多発したりしている場合に行われます。インターフェロン-αやインターロイキン2などの注射が行なわれていますが、効果がみられる方は15%程度と十分ではありません。副作用としてインフルエンザに似た発熱、全身倦怠感、食欲不振などが認められます。

免疫療法(PD-1阻害剤)

 2016年、がんを死滅させる免疫の活性を誘発する薬である、PD-1阻害剤(製品名:オプシーボ)が、進行性腎がんに保険診療内で使用が可能になりました。現在の所、分子標的治療薬使用後の適応になりますが、以後使用するタイミングが変更になる可能性があります。

焼灼療法、凍結療法

 近年、小さな腎癌に対して、ラジオ波熱凝固術、凍結手術などが行われています。
 合併症で手術が困難な方、手術を希望されない方が適応になり、凍結手術は保険適応で施行できる治療となっています。転移巣(肺、副腎、骨)などに対するラジオ波熱凝固術、凍結手術は、保険適応外治療です。

経過観察

 一般的に腎がんの増大スピードは2-13mm程度と考えられています。手術や焼灼療法が合併症のためにできない、もしくは積極的に治療を希望しない場合、経過観察を行うことがあります。経過観察を行う上で、腎生検を行いがんの悪性度が低いことを確認しておく方がより安全性が高まります。

Salvage 手術

 腎がんはゆっくりと増大する場合が多いので、転移のある場合でも、原発巣の腎臓の摘出や転移巣の摘出手術が行われることがあります。肺、副腎などの転移巣に対する外科治療では長期生存も期待されます。骨、脳転移などに対しても手術や放射線治療が行われることがあります。これらは患者さんの QOL(Quality Of Life)の改善に寄与すると言われています。
 現在、病期別に勧められている標準治療は、

病期 I期:根治的腎摘除術、腎部分切除術 経過観察
病期 II期:根治的腎摘除術、根治的腎摘除術+リンパ節郭清術
     (症状緩和のために)放射線治療、動脈塞栓術
病期 III期:根治的腎摘除術+リンパ節郭清術
     (症状緩和のために)放射線治療、動脈塞栓術
病期 IV期:免疫療法(インターフェロン-αなど)、分子標的薬に加えて
     (症状緩和のために)動脈塞栓術、根治的腎摘除術、放射線治療
     (状態を選んで)転移巣摘出手術

 これらの標準治療に加えて、より治療効果を高めることを目的とした様々な試験的治療が行なわれています。

治療成績と予後

 腎がんは手術治療以外に治療を期待できる治療法がないため、全体の5年生存率は70%前後、病期T期であれば5年生存率は90%前後と報告されています。病期U、V、W期の5年生存率は、70%前後、50%前後、20%前後といわれています。当院では、開腹による根治的腎摘除術を行っています。腎がん全体の5年生存率は79.7%で、病期T、U期の5年生存率は90%です。病期V、W期は47.6%、23.6%です。


平成29年3月改訂

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