トップページがんの知識いろいろながん > 造血幹細胞移植

造血幹細胞移植

 このページは、造血幹細胞移植療法(骨髄移植や自家末梢血幹細胞移植など)を受けようと考えている、あるいはこの移植法について知りたいと思っている血液のがん(白血病や悪性リンパ腫など)の患者さんやご家族の方が、この治療法を理解して病気に前向きに取り組んで頂くために作成したものです。

はじめに

 一口に造血幹細胞移植といっても現在では様々な移植法があります。自分の造血幹細胞を保存し移植する自家移植を行うのか、HLA(白血球型)の一致した兄弟姉妹からの移植にするのか、骨髄バンクに登録し、非血縁者間骨髄移植を予定するのかなど、その治療法の選択は患者さんの病気やその進行度、年令や全身状態によって異なってきます。
 主治医の先生と十分に話しあう中で、移植を行わない治療法についても良く検討し、どの治療法が患者さんにとって最善の道であるかを納得して決めることが必要です。
 まず、治療法を決定する時に知っていた方が良いいくつかの事柄を述べますので参考にして下さい。

1.移植以外の方法とその治療効果・副作用はどのくらいで、どれだけ生きられるか
 どのように生きられるか(たとえば普通の日常生活・仕事ができるかどうか、子供を作ることができるかどうかなど)。

2.勧められた移植についても1.と同じようなことを知る必要があります。
 一般的に言って、移植によりその病気が治る率は高くなりますが、一方で、移植そのものによる重篤な合併症が生じ、生存の質が劣る可能性もあります。適切なドナー(提供者)を選択することも大切ですし、血縁ドナーの場合には造血幹細胞採取法とその安全性・危険性について知る必要があります。     

3.その他の移植法が受けられる可能性がないかどうか。

4.勧められた移植法が造血幹細胞移植の標準的治療法として認められている治療法なのか、未だ治療法として開発中の治療法なのかどうか。
 後者の場合には臨床研究としてその施設の倫理委員会などで承認されたプロトコールが作成されています。同意説明文書もありますので慎重に検討して下さい。  

5.以上の説明事項のなかで示される予測のいくつかは世界や日本の今までの臨床成績とその施設での経験にもとづくもので、あくまでも平均的な推測です。個々の患者さんに特有な事情も加味した説明が必要です。

6.他の施設の専門医の意見を聞き(セカンドオピニオン)、自分が受ける治療につき客観的に確認することも重要です。 

造血幹細胞移植とは

 血液のがん(造血器腫瘍と言います)の治療はまず抗がん剤による治療(化学療法と言います)によって体内の腫瘍細胞を出来るだけ少なくすることから始まります。その後、化学療法を続けることによって腫瘍が治ってしまう患者さんもありますが、患者さんによっては化学療法だけでは再発する可能性が高いことがわかっています。また、再発した後では化学療法だけでは治る可能性は少なくなります。このように、通常の化学療法では治癒が難しい、あるいは治癒する可能性が少ない患者さんのために造血幹細胞移植という治療法が行われています。
 この造血幹細胞移植で治癒が期待できるのは通常の化学療法に比べかなり大量の抗がん剤治療や放射線治療を行うことができるからです。このような大量の治療により腫瘍細胞は根絶し、治癒する可能性が高まりますが、患者さんの正常の血液をつくる組織(骨髄と言い、骨の中にあります)も破壊されてしまうため、正常な自分または他人の造血幹細胞(血液の種)を移植するのです。このように、造血幹細胞移植は移植前治療と造血幹細胞のサポートから成り立っています。

1.移植前治療

 移植前1週間ほどの間に抗がん剤の投与や全身放射線照射を行います。
 最も良く用いられるCY+TBI法の1例について示しますと、

シクロフォスファミド(商品名:エンドキサン CYと略す)
1日60mg/kg(患者体重)、2‐4時間かけて点滴 2日間
全身放射線照射(TBIといいます)
1回300cGy 1日2回 CYの前後に2日間 計1000〜1200cGy 放射線(リニアック)治療室で1回1時間程仰向けになり照射を受けます。

 また、前治療を弱くした治療法が開発され、高齢者や合併症のある患者さんに行われています。

2.造血幹細胞の輸注(移植前治療の1−2日後に)

 採取した造血幹細胞(末梢血幹細胞、骨髄細胞、さい帯血細胞などで後記)を輸血と同じように数時間かけて静脈から輸注します。

3.GVHD予防

 他人からの同種移植の場合には移植の免疫反応(GVHDなど)を予防するため免疫抑制剤を使用します。標準的な方法はシクロスポリン(商品名:サンデイミュン)とメソトレキセートとの併用療法です。免疫反応が強く生じる可能性がある場合にはシクロスポリンにかえてタクロリムス(商品名:プログラフ)を使用します。シクロスポリンとタクロリムスは移植前日から静脈投与し、移植後十分経口可能になったら経口投与に切り替え、GVHDの出かたを見ながら数ヶ月から1年かけて減量します。
 自家移植の場合にはこの免疫抑制剤は必要ありません。

4.補助療法

 移植後1週から3週目までの間、白血球が非常に少なくなり、感染(とくに細菌)に罹り易くなります。このため、外部から感染を持ち込まないように様々な感染予防策が行われます。経口抗生剤の服用、無菌(加熱)食、無菌室への入室などですが、移植の種類や患者さんの状態によりその予防の程度は異なります。白血球が回復したら除々に無菌解除になります。移植後感染症を合併した時には、感染の種類に応じて抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤の投与がなされます。また、血小板や赤血球の減少時には成分輸血が行われます。

造血幹細胞

 造血幹細胞とは通常は骨髄の中にあり、白血球、赤血球、血小板の3種類の血液細胞を作る元になる血液細胞の“種”です。この造血幹細胞源として骨髄、末梢血、さい帯血の3種類があり、これらを用いた移植をそれぞれ骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植と呼びます。

移植の種類

1.同種移植

 他人の正常な造血幹細胞を用いて移植する方法を同種移植といいます。
 他人なら誰でも提供者(ドナー)になれるわけではありません。HLAという白血球の型が患者さんとドナーとで合っていなければなりません。兄弟姉妹間では4分の1の確立でHLA型が合っており、この適合した兄弟姉妹からの移植をHLA適合同胞間移植と呼びます。
 同胞間でドナーが見出されない患者さんは他人(非血縁者)の中からHLAの合ったドナーを探すことになります。HLAの型は多種類あるため他人間では数百人から数万人に1人の確率でしかドナーが見つかりません。そこで、あらかじめ造血幹細胞を提供してもよいと言う人のHLA型を登録して、患者さんとHLAの適合した人を見つけ、このドナーさんからの移植をコーディネートする日本骨髄バンクが作られています(骨髄移植推進財団:電話0120-445-445、アドレスwww.jmdp.or.jp)。このバンクを介しての非血縁者からの移植を非血縁者間骨髄移植と言います。また、さい帯血バンクからのさい帯血移植も非血縁者間移植の一つです。最近では、小児だけでなく成人も対象となっています。

2.自家移植

 患者さん自身の造血幹細胞を用いて移植する方法を自家移植と言います。
 化学療法により末梢血や骨髄の腫瘍細胞が消失し、患者自身の正常血液細胞が回復した状態(完全寛解)の時にあらかじめ自分の造血幹細胞を採取して凍結保存し、移植前治療の後に保存した幹細胞を移植する移植方法です。後記するように患者さんの末梢血から造血幹細胞を採取することができるようになり、自家移植ではこの自家末梢血幹細胞移植が一般的に行われています。 

各移植の特徴

 各種移植について簡単にまとめました。最後の項(造血幹細胞移植の種類とその適応)に示しましたように、疾患・年令により適応となる移植法が異なります。

骨髄移植 末梢血幹細胞移植 臍帯血移植
幹細胞源 骨髄 末梢血 臍帯血
採取方法 全身麻酔下 G-CSF使用・成分採血装置 出産時・凍結保存
ドナー  同種 自家と同種
血液の回復 2‐3週間(白血球) 骨髄移植より早い 骨髄移植より遅い
GVHD(同種)  下記 高率 低率
患者年令 55〜60才位まで  65才位まで 55才位まで

造血幹細胞採取方法

1. 骨髄採取

 手術室で全身麻酔をして腰骨のお尻側から数十回場所を変えて針を刺して骨髄を吸引採取します。おおよそ500mlから1000mlの骨髄液が採取されます。あらかじめ自分の血液を2−3週間前に保存しておき、採取後に輸血し貧血にならないようにします。採取時には2−4日間の入院が必要です。ドナー補償のための骨髄バンク団体傷害保険に血縁者間移植の際も加入することが出来ます。

2.末梢血からの幹細胞採取:健康な人からの採取

 先ず顆粒球増殖因子(G-CSF)を5日間皮下に注射します。白血球の一種である顆粒球数が増加するとともに、通常は末梢血にない造血幹細胞が出現してきます。この造血幹細胞を含んだ白血球を採取します。採取方法はフェレーシスと言って、血液成分採血装置を用いて連続的に肘静脈から採血し、白血球以外の成分を返血します。病棟や輸血部において3−4時間かけて約10リットルの血液を循環させて採取します。この成分採血装置は血液センターにおける成分(血小板)献血とほぼ同じ採取法で、全身麻酔の必要はありませんが、原則として入院が必要です。日本造血細胞移植学会では採取病院向けの同種末梢血幹細胞採取のガイドラインを作成し、ドナー全例の健康フォローアップ調査を実施しています。
 自家末梢血幹細胞移植での患者さんからの採取の場合には化学療法後の白血球の回復期にG-CSFを使用して、同様に採取します。  さい帯血は出産時にさい帯から採取され、さい帯血バンクに凍結保存されます。

3.採取の危険性・安全性

 ごくまれではありますが重篤な合併症が起こりますので十分な説明を受けてください。

移植に伴う合併症

1.同種移植に伴う免疫反応

 移植された血液細胞はドナー(他人)由来であり白血球の中の主としてリンパ球と言う細胞が患者さんを異物とみなして反応することがあり、この反応によって生じる合併症を移植片対宿主病(GVHD)と言います。急性GVHDは軽症の場合には皮膚に発疹が生じ、重症になると肝機能障害(黄疸)や大量の下痢が加わり、重篤な状態になります。重症GVHDを生じさせないようにHLAの適合したドナーを選択したり、GVHD予防法を工夫します。重症急性GVHDはHLA適合同胞間移植では5%前後に、HLA適合非血縁者移植では20%前後に起こります。移植後3ヶ月頃から慢性GVHDが起こることがあります。GVHDと同様な反応は移植後に残存している腫瘍細胞に対して向けられ、移植後の白血病の再発が抑えられる可能性があり、この反応をGVL効果(移植片対白血病・リンパ腫・骨髄腫効果)言います。この反応は合併症でなく良い反応であり自家移植には見られません。もう一つの反応に拒絶反応があり、移植後正常な血球の回復が得られないことがまれにあります。

2.感染症

 移植後造血幹細胞が生着し、白血球が回復するまでの1−3週間は血液中の白血球数が極めて少なくなるために肺炎などの細菌やかびによる感染症を起こしやすくなります。この間、感染しないように予防措置(無菌室・個室入室など)が取られます。移植の種類に応じて無菌処置は異なります。また、移植後白血球が回復しても感染に対する抵抗力は低下しており、健康な人では罹らないような感染症、特にウイルス感染症に罹りやすくなっています。日和見感染症と言われており、サイトメガロウイルス感染症や水痘、帯状疱疹などが主なものです。自家移植は同種移植に比べてこれらの感染症の発症は低率です。

3.移植前治療、GVHD予防、その他の治療にともなう副作用

 移植前に各臓器障害の有無やその程度を調べ、適切な治療法を選択しますが、移植前治療で用いる大量の抗がん剤や放射線、さらにGVHD予防に用いる薬剤にはそれなりの副作用があり、心毒性、肝臓障害、腎臓障害などが生じる可能性があります。肝臓の重篤な障害の一つに肝静脈閉塞症(VOD)があります。

4.生殖機能不全

 一般的に移植前治療により精巣や卵巣が障害を受け不妊になります。移植前に精子の保存が可能な場合があります。 

造血幹細胞移植の成績

 日本造血細胞移植学会では全国で実施された造血幹細胞成績を集計して毎年公開しています。一般的な移植治療成績を知る良い資料になります(アドレスhttp://www.jshct.com)。

造血幹細胞移植の適用と選択

 上記した造血幹細胞源とドナーの種類によりさまざまな移植法があります。それぞれの移植には特徴やドナーの採取方法があり、患者さんに最も適した治療法を選択することになります。“はじめに”で述べたように、その特徴を良く理解する事とその治療法が今までに十分な経験とデータがある標準的な移植法であるのか、経験が少なく実験的な移植法であるのかを知ることや、移植以外の治療法と比較し、このまま化学療法を続けたときに腫瘍が悪化する可能性や治療後にどの程度普通の生活ができるようになるかどうか(生活の質:QOLといいます)を知ることも大切です。

 

 以上、やや専門的になりましたが、ご不明の点、セカンドオピニオンは受診の仕方をご覧の上、お気軽に愛知県がんセンター中央病院血液・細胞療法部を受診下さい。

平成21年7月改訂

このページのトップへ