トップページ > アンチ・キャンサー・リーグ > 特別企画(第4話)

特別企画(第4話)

ムッシュ・デプレに訊く

愛知県がんセンター緩和ケア部精神腫瘍診療科 小森 康永

ムッシュ・デプレ

 「ムッシュ・デプレ」とは、「Depression=うつ病」を擬人化したものです。わざわざこんな人形劇を試みるのは、問題の定義において遊び心を加味し、さらにラディカルに問題に対する共同戦線を張ろうと思うからです。この「外在化」という治療概念は、ナラティウ゛・セラピーの創始者、マイケル・ホワイトが、彼らの主著『物語としての家族』のなかで以下のように宣言したことにより始まりました。

問題が問題なのであって、人間やその人間関係が問題なのではない
(邦訳、61頁)


抗うつ薬を三ヶ月のんで治るうつは、いいでしょう。しかし、それが慢性化したとしたら? この公理がピンと来ない治療者との治療は、患者にとってつらいものとなるでしょう。相談に来た人々に対して敬意を払い、非難しないアプローチを自らに課すために、このようなスタンスことが必要になるからです。うつ病は長引けば、症状の程度に差こそあれ、それは往々にして重いものになります。重ければ、視野狭窄になり、リハビリは進みません。なぜ重くなるのか? おそらく、問題と人が重ね合わされてしまうからである。これは、小学生でも知っています。 

・・・クリストファー・ロビンが、まえに、プーという名まえの白鳥をもっていたということ・・・彼も、動物園にいくと、北極グマのところへまいります。・・・このクマが、ウィニーという名まえでした。・・・でも、わたしは、おかしなことに、「プーのウィニー」という名まえは、ウィニーが、プーの名まえをもらったのか、プーが、ウィニーの名まえをもらったのか、わすれてしまいました。まえには、おぼえていました。でも、いまは、わすれてしまいました・・・

この人形劇は、患者さんや患者家族の勉強会最終回などで、上演されるのが、理想的です。上演後、第二幕での抵抗エピソードを患者さん自身や家族から収集し、それを次回の上演に盛り込むとよいでしょう。新任スタッフ、学生などの教育用にも利用可能ですが、患者さんやご家族にパンフレットとしてお渡しする際は、適応にご配慮ください。重い病気を軽い視点から眺めてみるという余裕のない方には、このようなアプローチは副作用を引き起こす可能性があります。

第1幕 ムッシュ・デプレはどのように成功してきたのか

精神科医(以下1):皆さんようこそお集まりくださいました。本日は、ムッシュ・デプレをお招きして、うつ病というものについてご本人からいろいろなお話をおうかがいするつもりでございます。では、早速ですが、ムッシュ・デプレにご登場願いましょう。(ジャクリーヌ・デュプレの弾くフォーレの「エレジー」に合わせて、ムッシュ・デプレ登場) はじめまして、私、インタビュアーをさせて頂きます精神科医の小森と申します。
ムッシュ・デプレ(以下2):わしが、ムッシュ・デプレだ。
1:今日は、黒づくめのお衣装ですね。とてもお似合いですよ。
2:めるしー・ぼくう。しかし、こころのなかじゃ、わしそのものの暗さだとでも思ってるんだろ?
1:そんなふうにおっしゃらないで下さい。黒は女を一番きれいに見せる色、神秘的なあなたにもぴったりで、インタビュアーとして思わず力が入りますよ。
2:(満更でもない顔で)そうか、まあよい。ところで、日本でもこの頃は、わしの勢力は相当なものだと把握しておるのだが、現場にいる、おまえたち精神科医の感覚では、どうだね?
1:ええ、もちろんですとも。ですから、今日、このような講演会にも熱心な聴衆がたくさんお越しではないですか。あなたのお仕事ぶりについて、いくつもお聞きしたいことがありますので、よろしくお願い致します。
2:まあ、企業秘密でなければ、できる限り話してやろう。どうせ、おまえたちが、わしをなんとかしようとしても、とうてい不可能だからのう。

1:ご協力ありがとうございます。では、本題に入らせていただきましょう。ムッシュ・デプレ、あなたは、いわゆるうつ病の患者さんたちの人生に大きな影響力を誇ってみえますが、まずは、患者さん自身をどのように変えるのですか?
2:無粋な! いかにも単刀直入だねえ、まあいいだろう。まず手はじめに、夜、眠れないようにするんだ。現代人は忙しいからねえ、明日は何するこれするって予定が一杯だろ? なのに眠れないとなったら、あせって余計眠れないというわけさ。そうこうしているあいだに食欲も減らしてやるんだ。眠れなくて、食欲がなくなれば、疲れやすくなり、からだはだるく、気力も出なくなるのは当然だろ? しかも、このふたつは性欲とならんで、どれも本能で動くものだ。なのにそれを理性だかなんだかしらんが、自分でなんとかしようと思うこと自体、人間のおごりってもんじゃないかい? 結局、なんとかしようとあがいているうちにエネルギーは消耗し、自分でも気づかないうちに、うつっぽくなるんだ。どうだ、恐ろしいだろう! わしは何も、力づくで人間に抑うつを味わわせているわけじゃないんだよ、人間どもの反応をちゃんと計算に入れてやっているのさ。日本には柔道や合気道というものがあるだろ? あれをイメージしてもらえば、わかるはずだ。おっと、何でこんなことまでわしは喋っているんだ?

1:すごいですね。それでは、患者さんの感情には、どんな手を加えるのですか?
2:いよいよ、わしの本質に迫ろうというわけだね。ポイントはふたつある。わが名のとおり、気分を沈ませ、憂うつにし、落ち込ませることがひとつ。もうひとつは、何をしてもつまらなく何事にも興味が持てなくさせることだ。このようなイメージ通りの意気消沈路線とは逆に、いらいらしてじっとしていられなくさせたりもする。男性の場合など、酒の量がぐんと増えて、暴力に及ぶこともあるから、私の勢力を伸ばすのに役立つねえ。患者が暴力をふるえばふるうほど、きっと家族は患者から遠ざかってゆくからねえ。

1:では、患者さんの考えにはどんな邪魔を?
2:物ごとを決められないようにする。集中力をどんと下げてやるのさ。本も読めない、テレビも見れなくなるほどね、そうなれば、わしに対して理論武装しようにもできっこないね。自分には価値がないとか、周りに迷惑をかけていると強く感じるようにもさせるんだ。マイナス思考は、わしの力強い味方だ。
1:そうですか、いろいろな手で患者さんの考えや感情を乱すことができるのですね。ところで、人間は誰でも自分はどんな人間なのかというイメージをもっていると思いますが、そのイメージに対しては、どのように働きかけるのですか?
2:それは、無能で無力な人間であると信じ込ませることに尽きるね。
1:ところで、患者さんも自分なりにそういったことに対処しようと工夫するものですが、それにはどうなさるのですか?
2:そんな工夫をする奴には、パニック発作なんかでビビらせてやるよ。そうすれば、自分で対処法を考えようなどとはしなくなるからね。薬を飲めばよくなるというのは、はじめのうちだけだ。治療の後半、リハビリでは、患者自身の積極性が求められる。そこがうまくいかなければ、治療は本当には成功しないんだよ。ああ、うれしいね。そして、奥の手として、もう楽になりたい、つまり死にたいという気もちにさせてやるんだ。

1:それは恐ろしいですね。ところで、患者さんの人間関係は、どのように変えるのですか?
2:いいか、わしの恐ろしさは、さっきも言ったように、わしが人間たちの行動パターンを熟知しているところにあるんだよ。何も汗水垂らさなくとも、背中をちょっと押すだけで、人間たちはうつに真っ逆さまさ。人間関係など、変えるまでもない。もしもあんたの友だちが暗い顔をしていたら、おまえさんはどうするかね?

1:そりゃ、どうしたのかと訊きますね。
2:そうだろう。ご本人は自分が他人から見てもわかるほど落ち込んでいたのかと、その時点でまずがっくりくるね。そのうえ最後は、「がんばってね!」のひと言だ。その時点で、ご本人はもう十分頑張っているんだよ。なのに、そんなことを言われたら、「自分はがんばりが足りないんだろうか、こんなことでふさぎこんでいるのは人間的に弱いからか、どこか欠陥があるんじゃないか」と思い悩むことになる。どうだ、なかなかいいシナリオだろ? そうこうしているうちに、善意の人との再会だよ、前回あったときよりさえない表情の相手を見て、「これはお気の毒ね」という表情を浮かべるはずだ。本人にしてみれば、ショックだろうね。そうなると、人とはなるべく会いたくなくなる。どうだい、どんどん距離ができて、家に閉じこもることになる。家族と同居している場合、家族がわしを理解できないと、さらに悲惨な状況が待っているね。つまり、家族は、患者のことをナマケモノだとかグウタラだと言いはじめるわけだ。自分の好きなことしかしないとかね。つまり、聞こえているのに聞こえていないふりをする高齢者同様の扱いを受けるわけだ。理解と協力が必要なところに、無理解と偏見、さらには敵意まで紛れ込むわけだから、そんな家族は、わしの完全な支配下にいるわけだ。

1:家族の無理解までが、あなたの手下だったのですね。噂どおり、やはり、あなたは完璧なんですね。ところで、さらに、具体的な話に入っていきたいのですが、あなたが患者さんの人生に対して上手を取ろうとなさる時に、あなたの使われる罠・・・
2:わーなー?(強く反感を表明)
1:いや、失礼しました。罠ではありませんね、ぺてん、いや、そうではなく、あのお、そうです、戦略とかテクニックというものについてお話願えませんか?
2:まあ、いいだろう。あんたがた月並みな人間に限って、わしがやるような見事な技術をみるとやっかみ半分にいろいろ言うもんだ。先ほどもすこし話したが、わしの最も信頼するテクニックは、マイナス思考だ。コップに水が半分あるとしよう。おまえは喉がカラカラだ。さて、コップにまだ半分水が残っていると考えるか、もう半分しか残っていないと考えるか。もちろん後者がマイナス思考だ。現実は同じだが、解釈が違う。つまり、その思考が感情を左右するのだよ。こいつは、非常にリアルだ。患者にとって、あんたがたのようなへぼ医者の説得なんて、まったく無力だね。
1:なんと辛辣な!
2:ふふふ、そうだろう(かなり得意気)。でもな、マイナス思考にも難点があってな、粘り強い思考に弱いんだ。抑うつは四六時中同じ勢いであるわけじゃない。しかも、抑うつがやってきたときに、自分がどう対処するかで、その後の抑うつの展開が異なるということは、生活をちょっと振り返ればわかることなんだ。
1:そんなこともあるのですか?
2:しかし、喜ぶのはまだ早いぞ。まず、この粘り強い思考自体が、抑うつによってできなくなっている場合がほとんだ。まずは、病院に行って抗うつ薬を処方してもらうことが必要だ。そこで多少とも症状が改善しないと、粘り強い思考を取り戻すことはできないんだ。しかしどうだい、精神科の薬には偏見が付きものだ。副作用も怖い。精神科医だってどんな奴だかわからない。そうなると、自然と足は病院から遠のく。それに、精神病院にかかったとか、「うつ病」になったなどと聞けば、周りの人間どもは、そういうレッテルに目を奪われて、患者の健康な部分が見えなくなってしまう。つまり、患者の言うことをまともに聞かなくなるんだ。そこが一番のポイントなのだよ。精神医療の夜明けは、まだまだ遠いなあ、ハッ、ハッ、ハッ!(得意満面)

1:わかりました。あなたは実に見事な戦略体系をお持ちですねえ。ところで、あなたが、このような仕事をなさっている目的というのは、一体何なのでしょう?
2:一言で言うと、人間どもが苦しみ、いがみ合う姿を見たいのさ。それをつまみに飲むブルゴーニュワインは、最高だねえ。
1:すると、患者さんひとりひとりに対しては、どのような夢と希望を持っておられるのですか?
2:そうだね、患者が苦しむだけではつまらないから、その周りの人間たち、家族たちにも、十分苦しんでもらいたい。特に、日本人には、「滅びの美学」を大切にしてほしい。『フランダースの犬』に共感できる唯一の国民としてね。
1:さて、あなたの戦略に関してですが、あなたの味方は何ですか? 
2:人間とはこうあるべきだという固い信念をもっている人間がわしの味方だ。わしの支配下にある患者には、誰でも常識的でないところがある。そんな時、頭の固い連中は、患者を理解できないあまりに、厄介者扱いするだろう。だから、常識と偏見も、わしの力強い味方になる。よいか? 常識に囚われていては、とてもわしにはかなわないぞ!
1:もしも、もしもですよ、あなたの支配が行き詰まったら、どんな策がおありですか?
2:フン! そんなことは考えたこともないね。

第2幕 ムッシュ・デプレはどのように失敗していくのか

1:ここまでで、あなたの素晴らしいサクセス・ストーリーをすこしだけ聞かせていただいたことになるわけですが、そこには盛り込まれなかった話、
2:ううん(不機嫌な咳払い)。
1:ああ、やはり、お嫌でしょうね、でも表に出ない話も聞きたいのです。あなたは、患者さんひとりひとりを完全に支配しようとなさっていて、おおかた成功なさっていますが、完全というわけではありませんね。たとえば、抑うつを感じて、病院を受診される人たちがたくさんいます。あなたの希望からすれば、誰にも相談できずにうつうつとして、家族が見るに見かねてようやく受診したときには相当悪くなっていたという状況が、完全な勝利ということになるのでしょうが、あっさり受診する人たちが実際には、たくさんいるわけです。
2:誰でも、完全というわけにはいかないからね。あれは、いまいましいと思っているよ。わしのプライドを傷つけるね。この頃じゃ、製薬会社の「うつはこころのかぜ」とかいうCMはなんとかならんかね? あまりにもわしを過小評価しておる。名誉毀損で訴えてもいいくらいだ。精神科のクリニックも雨後のタケノコ、もうちょっと敷居が高いのが、本来の姿じゃないかね、まったく。わしは理解に苦しむよ。

1:そうですか、あなたほどの方でもやはり支配しきれないところはあるわけですね。ところで、あなたは女性がお好きだと聞いていますが、本当ですか?
2:ああ、その通りだ。これでも、わしもまだ男だからね。わしの支配下にいる女性は男性の2倍だ。インド以外はね。どうしてこうなったか自分ながら、よく憶えていないがね。コロンビア大学に性差医療というのをやっている奴がいるだろ、そいつに聞いてみろよ。
1:支配も案外ルーズなんですね。
2:なんだと?
1:いえいえ、こちらの独り言です。ただ、ここが突破口になるかもしれませんね。2倍というのは微妙な数です。誤差ではあり得ないし、生物学的要因だけで説明のつく病気ほどの性差でもない。女性は、出産だとか閉経だとか女性ホルモンに大きな動きがあるので、生物学的にうつにはなりやすいものですが、それを差し引いても、まだ多い。欧米の調査法からすると、軽いうちに受診するからではないですね。一方、自殺にまで及ぶのは、男性のほうが圧倒的に多いのに、自殺未遂は女性に多い。これも、男性の方が死ぬのが上手いからというわけでもないでしょう。となると、心理社会的に、女性はもともと大人しい子が好まれるから、その影響かもしれないという説明も出てくる。
2:それで?
1:たとえば、がんを契機にうつ病になる人たちのあいだでは、性差はありません。となると、きっかけがあきらかな場合は、女性がうつになりやすいわけでもないかもしれない。また、DVのカップルでも、実はふたりともうつで、それによってさらに男性は攻撃的になり、女性は不安をつのらせ家に引きこもって悪循環を起こしている可能性がある。これは、のび太とジャイアン、ふたりともADHDなのにいじめる側といじめられる側がカップリングしているのと同じで、とても悲惨な話です。結局、女性と男性、どちらのほうが上手にあなたをいなしているのか。
2:おまえ、なんちゅうねちっこいこと考えとるんじゃ!

1:お嫌いなタイプですよね。ところで、こういう話もよく聞きます。あなたがマイナス思考を使って患者さんにいろいろ命令する場合、患者さんの中には、たとえば散歩に出たら気分転換になると気づいて、マイナス思考がやってくると外へ出て、その命令に従わない人がいます。患者さんの自前の対処法とでも言えるのでしょうね?
2:ああ、それも知っているよ。音楽を聴くと、マイナス思考から逃れられたり、心が落ちつくって言う奴がいるね。アップルがiPodなんか作るからいけないんだ。思考の問題には、行動レベルで介入するのが一番正しいなんてこと、患者には絶対教えないでくれよ。
1:もちろん伝えますよ。たとえば、先日、こんな話を聞きました。その人は、晴れた日には近所の講演まで散歩に行き、「自分の樹」に抱きついて「ありがとう、元気をいただきまーす」と声をかけて、その木に抱きつくんだそうです。すると太陽のパワーが体中にみなぎるのを感じるんだそうです。他人から見れば、かなり奇妙な光景だが、本人には随分役立つようなんだ。その人は、雨の日が続くと、こんどは仏壇の前で一心不乱にお経を読み上げるとも言っていたね。つまり、こんなふうに、どんなささやかなことでも一度うまくいくと、すこしづつでも自分で対処法を身につけて、その数を増やしていく人がいますよねえ!
2:それこそ、実にけしからんことだ!!!
1:そんなに、うろたえないで下さい。ちなみに、どんなタイプの患者さんが苦手ですか?
2:言いたくないよ!
1:それほどお困りなわけですか?

2:何を言ってるんだ! いいかげんにしてくれ。そんなこと話したくらいで、わしの戦略体系が崩れるはずがなかろう。よし、言ってやるよ。まずは、忍耐のある奴は、大嫌いだ。一度うまくいかなかったら諦めればいいものを、少々のことではへこたれない奴がいる。たとえば、5年もうつが続いているのに、なんで今さら治療しようなんて思うんだ? それに、徹底的に試行錯誤する奴にも、世話が焼ける。わしの権威を押しつけても、それを奴らは、すんなり信じようとしないんだ。自分の技術でうまく抵抗できるまで、いろんな工夫をするわけだ。
1:ところで、そのようにあなたに抵抗する患者さんたちは、何を望んでいるのでしょうね?
2:そんなこと知るもんか! どうせろくでもないことだろ! たとえば、人間として生まれてきたからには、できるだけ人間らしく生きるとか、そんなしゃらくさいことを考えているんじゃないのか? 昔の人間はえらかったぞ!!! 「働かざる者、食うべからず」とはよく言ったものさ! なんでこの頃の奴らは、わしのような強力な病気にも抵抗するのかね?
1:患者さんの味方も多いですしね。
2:家族と医療関係者、それに、友人、知人、親戚、教師・・・いったい、どうなってるんだ!!!
1:あなたの願望をくじくのに、その人たちには、どんな手助けができるのでしょう?
2:知らばっくれるんじゃないよ。今、こうして、集まっているようなことをするんだよ。「この患者は重いうつだ」といって諦める代わりに、わしが張本人だといって、対抗策を練るんだろう? 薬をしっかりのんで、ゆっくり休めば、急性期は乗り越えられるから、そうすれば、リハビリにつなげられるってことだろ? ああ、嫌だね。かまととぶりやがって。自分は、病人の世話なんて真っ平だって、素直に言えばいいじゃないか。(マイクを蹴飛ばす)

1:まあ、そんなに興奮なさらないで。その話は、また次回にでもいたしましょう。ところで、もしもですよ、患者さんたちがですよ、あなたの弱みにつけ込むとしたら、いったいどんなことができますか?
2:これが最後だろうな! さっきも言ったように、試行錯誤をねばり強く続けることだよ。どの薬をのむか、どのくらいの量をどのくらいの期間のむかというようなことはもちろん、仕事はいつから、どの程度できるのか、家族にはどんな援助をしてもらうのか、みんな試行錯誤するしかないわけだろ。そんなことなどしないで、うつ病の予後は不良だと信じ込んで、すべての努力を諦めてくれさえすれば、手っ取り早いのによ。薬だって、ルボックスだかレッドソックスだか知らないが、アステラスだかカフェテラスだかいう会社が、作ってるだろう? 「副作用を減らして、強迫症状も消す」だと? しゃらくさい! 何が「SSRIの時代」だ!!! 新薬開発のような手間と金がかかることは、止めちまえばいいんだ!!! ああ、気分が悪くなってきた。
1:大丈夫ですか?

2:わしは、もう帰る! こんなところへは、二度と来んぞ!
1:そうですか。どうもろくなおもてなしもできませんで、申し訳ございませんでした。
(ムッシュ・デプレ不機嫌な顔で、ビーチ・ボーイズの”Sloop John B”(『ペットサウンド』収録)に合わせて、退場)

このページのトップへ