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腫瘍医化学部

はじめに

研究活動の概要

 腫瘍医化学部では、細胞周期(がん細胞増殖)と細胞運動接着(がん細胞の浸潤・転移)の理解を深めることを通して、全てのがんが共通して持つ基本的な弱点を探索しています。私たちは、1990年に部位特異的抗リン酸化ペプチド抗体(抗リン酸化抗体)を発案・発明しました。この抗体は細胞内リン酸化シグナルの解析に革新的進歩をもたらし、細胞内情報伝達研究、細胞周期研究、がん研究などに広く応用され、それによって、タンパク質リン酸化が司る多岐にわたる生命現象が次々と明らかになりました。そして今では、細胞生物学実験における主要な実験法として定着し、多数の抗リン酸化抗体が市販されるようになり、がん、神経・痴呆疾患、血管病変など様々な病気に対する分子標的治療薬の開発においても基盤的な技術となっています。私たちは、このような独創的な研究を通して、がんの診断やがんの増殖・浸潤・転移を抑える抗がん剤の開発に貢献したいと考えています。

目指すもの

 細胞のがん化は、内的な要因(加齢や遺伝的な問題など)と外的な要因(喫煙や紫外線など)が複雑に絡み合って起こります。これらは種々の遺伝子に異常(変異や制御異常)を引き起こしますが、特に細胞の増殖サイクル(細胞周期)やその監視システム(チェックポイント)を制御する遺伝子群の異常はがん化に強く影響を及ぼします。また、がん化過程においては、上皮の組織構築が破綻して無秩序な増殖へ向かうことも知られています。そこで腫瘍医化学部では、1)細胞周期・チェックポイントを制御する新規リン酸化シグナル伝達機構の解明および、2)上皮組織において分化(正常細胞)と増殖(がん細胞)を決定する因子群を同定し、その分子基盤を明らかにすることを大きな研究目標として掲げています。最終的に、「どうしてがんが起こるのか?」という根本的な問題を解決し、全てのがんが共通して持つ基本的な弱点を明らかにしたいと考えています。

メンバー紹介

後藤 英仁
後藤 英仁
(ごとうひでまさ)
室長

プロフィール

1993年三重大学医学部卒業、同大学小児科に入局。同大学院博士課程に進学後、当研究所にて研修。1998年博士課程修了、科学技術振興事業団などのポスドクを経て、2001年Rutgers大学に留学、2004年より当研究所・主任研究員、2006年室長。2008年より名古屋市立大学大学院・医学研究科・非常勤講師、2009年より名古屋大学大学院医学系研究科客員准教授(細胞腫瘍学講座)兼任。(医博)

主要研究テーマ

1)がんにおける染色体不安定性における分裂期キナーゼの役割 2)がんにおけるチェックポイント機構の破綻メカニズムの解明

メッセージ

がんにおいては、種々の細胞周期制御異常が知られており、現在、細胞周期に携わるタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)を分子標的にした抗がん剤が臨床治験に入っています。これまで、細胞周期制御キナーゼの研究を行ってきた経験から、キナーゼの下流分子や調節因子に絞って薬剤開発したほうが抗癌剤として副作用が少なくなるのではと考えています。これからの研究で標的となる分子標的タンパク質を明らかにしたいと考えています。

猪子 誠人
猪子 誠人
(いのこあきひと)
主任研究員

プロフィール

1998年徳島大学医学部卒業、2005年京都大学大学院医学研究科分子医学系専攻博士課程修了(分子細胞情報学講座)、2003年より当研究所・研究員、2007年主任研究員。(医博)

主要研究テーマ

上皮分化・増殖転換に付随して局在を変化させる新規ケラチン結合蛋白質群の機能解析

メッセージ

学生時代はたまに生化学実験の手伝いをする程度でしたが、卒業後直ちに入学した大学院では自立した研究スタイルを厳しく叩き込まれ(?)、がんセンターでは社会的責務を叩き込まれ(?)現在に至っています。これまでずっと、がんと密接な関係にある「上皮分化」の細胞生物学を扱ってきましたが、様々な人のご指導・ご協力の元、独自の知見もいくつか得ました。今はこの上皮分化と細胞増殖の新たな関係を分子レベルで見出しつつあります。このようなわたしたちの研究が「がんの基礎研究」として人々のお役に立つことを切望します。

稲葉弘哲
稲葉 弘哲
(いなばひろのり)
リサーチレジデント

プロフィール

2008年東京大学農学部卒業、2013年同大学院農学生命科学研究科博士課程修了(応用生命工学専攻)、2013年4月より当研究所・リサーチレジデント。(博士(農学))

主要研究テーマ

細胞周期制御に関与するタンパク質の機能解析

メッセージ

大学時代は微生物をモデル生物として研究を行ってきましたが、よりヒトに近い培養細胞での研究を行いたく、当研究室にお世話になることとなりました。正常と異常との違いに注目し、抗がん剤のターゲットとなりうる因子を見出せればと思っております。

林 裕子
(はやしゆうこ)
技師

メッセージ

岐阜薬科大学を卒業後、愛知県職員としてがんセンター研究所勤務となりました。2004年4月から当部で働いています。研究技師としてがん研究に貢献できるよう努めたいと思っています。

谷川 順美
(たにがわ なおみ)
技師(嘱託)

メッセージ

準備中

牧原 弘幸
(まきはらひろゆき)
連携大学院生

メッセージ

愛知学院大学歯学部卒業。卒後研修後、愛知学院大学大学院歯学研究科博士課程入学。2014年4月より連携大学院生として当部の所属となりました。 がん治療の発展に少しでも貢献できたら幸いです。


客員研究員

 ・稲垣 昌樹

トピックス

トピック1

愛知県がんセンター研究所と筑波大学の医工学研究が、国際的な総合科学誌に掲載されました。

研究成果の概要

 愛知県がんセンター研究所・腫瘍医化学部の猪子誠人主任研究員と国立大学法人筑波大学・数理物質系の加納英明准教授を中心とする共同研究グループは、白色レーザーを搭載した新しい顕微鏡を開発し、網膜内の重要構造である「線毛根」が、標識物質なしに可視化できることを、実験的に証明しました(概念図参照)。
 本技術で可視化できる「線毛根」は、実は幅広い生物の感覚に寄与することから、眼病の診断や広範な生物感覚研究への応用が期待されます。細胞でも感じるもの、例えば力とがん化の関係なども見えてくるかもしれません。
 本研究の成果は、2017年1月6日(日本時間19時)付Nature姉妹誌「Scientific Reports」で公開されました。研究内容の詳細は下記リンクに記載しております。

リンク
概念図

 白色レーザーを搭載した新しい顕微鏡で、幅広い生物で感覚に寄与する線毛根構造が標識物質なしに可視化できることを証明した。

トピック1画像


トピック2

英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子板に、がんの標的分子に関する研究論文が掲載されました(2013年5月22日)。

研究成果の概要

○がん細胞の分裂には、細胞分裂に不可欠な分子であるPlk1キナーゼ(リン酸化酵素)の高い活性化が必要であり、これを抑えればがん細胞の増殖を抑える効果がある。
○従来から、「細胞分裂シグナル」では「オーロラA/B」という酵素を抑えることにより、Plk1キナーゼの活性化を抑えられることが分かっていた。
○今回、がんセンター研究所のチームは、Plk1キナーゼの活性化に「セリン99のリン酸化」が重要な役割を果たしていること、このリン酸化が「細胞成長シグナルの中核分子であるAktにより行われる」ことを発見した。
○この研究成果により、Plk1キナーゼ、オーロラA/B、Aktを標的とした2〜3種類の薬剤を投与する「分子標的薬の併用療法」に理論的な根拠を与え、より望ましいがん治療に繋がることが期待される。
 

トピック2画像

トピック3

科学誌ジャーナル・オブ・セルバイオロジー(2012年4月30日号)の表紙と紹介記事で研究成果が大きく取り上げられました。 「トリコプレイン蛋白質とオーロラAキナーゼは異常な一次線毛の形成を抑制する。オーロラAキナーゼはがんの真の分子標的。」

表紙

トピック3表紙

紹介記事(抜粋)

トピック3紹介記事(抜粋)

【紹介記事:和訳】
(左→右)稲垣 昌樹、猪子 誠人、松山 誠とその共同研究者等は増殖中の細胞がどのように一次線毛形成を抑制しているのかを明らかにした。つまり、中心小体に局在する蛋白質であるトリコプレインがオーロラAキナーゼを活性化することで一次線毛形成が抑制されていた。一方で、細胞周期が休止期に向かうとトリコプレインは一次線毛を生やす場所である基底小体から消失していた。次いでそこに一次線毛が形成されると、細胞周期は休止に向かうのである。ここに示す実験結果では、非処理群(右から2番目)に比べ、トリコプレインを欠失させた細胞(最右)では増殖条件下にも関わらず異常な一次線毛(緑の線状に見えるもの)を形成し、その結果、細胞周期は休止している。このことは脊椎動物の細胞周期は一次線毛の形成と吸収によって制御され得ることを示している。

解説

Q1: 一次線毛と細胞周期研究の連関について
A1: 従来、細胞周期の理解は、酵母、線虫、ショウジョウバエのモデル細胞を用いた研究が非常に重要な貢献をしてきました。しかし、一次線毛は脊椎動物になってはじめて持ち得る細胞構造です。この一次線毛が哺乳類細胞の細胞周期に主体的に関与することを示した本知見は、ヒト細胞の増殖・分化を理解する上で、新しい視点と新たなる研究の必要性を提示しています。

Q2: がん研究への貢献について
A2: 私たちのトリコプレイン、オーロラAキナーゼの研究から、正常細胞では一次線毛が主体的に細胞周期制御を行っていることが判明しました。がん細胞では、一次線毛形成能の不全をきたしています。このことは、特にオーロラAキナーゼの阻害剤によって、がん細胞では分裂期での死がもたらされ、一方、正常細胞では、オーロラAキナーゼの阻害剤にさらされても一次線毛を形成することで、細胞周期を停止することで細胞死を回避できる可能性が高いことを示しています。

リンク

トピック4

総説

Goto H., Izawa I., Li P., and Inagaki M: Novel regulation of checkpoint kinase 1: Is checkpoint kinase 1 a good candidate for anti-cancer therapy? Cancer Sci. In press. DOI. 10.1111/j.1349-7006.2012.02280.x

原著論文

1. Li P., Goto H., Kasahara K., Matsuyama M., Wang Z., Yatabe Y., Kiyono T., and Inagaki M.: P90 RSK arranges Chk1 in the nucleus for monitoring of genomic integrity during cell proliferation. Mol. Biol. Cell. 23: 1582-1592, 2012. DOI. 10.1091/mbc.E11-10-0883
2. Matsuyama M., Goto H., Kasahara K., Kawakami Y., Nakanishi M., Kiyono T., Goshima N., and Inagaki M.: Nuclear Chk1 prevents premature mitotic entry. J. Cell Sci. 124: 2113-2119, 2011. DOI. 10.1242/jcs.086488
3. Kasahara K., Goto H., Enomoto M., Tomono Y., Kiyono T., and Inagaki, M.: 14-3-3? mediates Cdc25A proteolysis to block premature mitotic entry after DNA damage. EMBO J. 29: 2802-2812, 2010. DOI. 10.1038/emboj.2010.157
4. Enomoto M., Goto H., Tomono Y., Kasahara K., Tsujimura K., Kiyono T., and Inagaki M.: Novel positive feedback loop between Cdk1 and Chk1 in the nucleus during G2/M transition. J. Biol.Chem. 284: 34223-34230, 2009. DOI. 10.1074/jbc.C109.051540

解説

 我々の遺伝子(DNA)・ゲノムは、日々の生活においても常に損傷を受けています。例えば、細胞が活動する際に産生される活性酸素は、内因性原因の代表的なものといえます。このような要因の他に、紫外線・電離放射線・種々の薬剤薬剤などの外来性の要因によっても、DNAは損傷されています。このような刺激によって生じたDNA損傷は、細胞周期のチェックポイント機構によって認知され、細胞周期の進行を止めるとともに、DNA修復機構を活性化させます。しかし、これらの機構に異常が生じると、結果として、遺伝子の変異が蓄積されることとなります。このような変異の蓄積は、細胞が癌化したり、癌が悪性化したりする原因となります。
 DNA損傷チェックポイントの中核を担うのがATRからチェックポイントキナーゼ1(Chk1)に至るキナーゼカスケイドです。ATRによって活性化されたChk1は、Cdc25Aフォスファターゼを不活化します。このCdc25Aは、細胞周期進行に必須なサイクリン依存性キナーゼの活性化に不可欠であるため、この不活化により細胞周期の進行は停止します。
 このように、Chk1は、ATRからのリン酸化修飾のみで機能が制御されていると長い間考えられてきました。我々の研究グループは、近年、ATR以外の多くのキナーゼがChk1をリン酸化することで、その機能を大きく変化させていることを明らかにしてきました。これらの解析により、1)Chk1は外来性のDNA障害がなくても、細胞周期進行を核で負に制御している分子(つまり、ブレーキ)であること、2)種々のキナーゼによるリン酸化修飾により、Chk1の細胞内局在が変化することでその細胞周期進行に対するブレーキを強めたり弱めたりしていることが明らかになりました。
 現在、Chk1は抗がん治療の標的分子として注目され、多くのChk1阻害剤が臨床治験に入っています。我々が見出した、外来性のDNA障害のない場合のChk1の機能は、(副作用の原因となる)Chk1阻害剤の正常細胞への障害作用を考えていくうえでも重要であると考えられます。今後、より詳細なChk1機能を明らかにすることで、副作用の少ない抗がん治療を提案できればと考えています。

トピック4

研究テーマ紹介

「細胞周期制御に関わるリン酸化クロストーク機構の解明」

Enomoto M., Goto H., Tomono Y., Kasahara K., Tsujimura K., Kiyono T., and Inagaki M.
Novel positive feedback loop between Cdk1 and Chk1 in the nucleus during G2/M transition. J. Biol.Chem. 284: 34223-34230, 2009
(Faculty of 1000のなかで「must read」として、紹介された)

 私達の身体は60兆個の細胞から成り立っていますが、個々の細胞の増殖は厳密な制御を受けています。増殖している細胞は、分裂と成長を繰り返しており、これを ”細胞周期” と呼びます。細胞周期は、多くの蛋白質が、遺伝情報であるゲノムを適切に複製・分配し制御しています。がん細胞では、このような制御機構の破綻が認められ、がん細胞が持っている特徴である異常増殖につながっています。近年、細胞内蛋白質群のリン酸化反応が細胞周期制御に重要であることが明らかになってきました。
 最近、我々は、細胞が増殖するためのエンジンであるCdk1が、細胞増殖のブレーキであるChk1という蛋白質をリン酸化することを明らかにしました。そのリン酸化の生理的機能を解析した結果、Cdk1によるリン酸化依存的にChk1は、核から細胞質へ移行することを見出しました。また、このChk1の核からの排出によりCdk1の活性化が、さらに上昇し、細胞が分裂のためのステージに円滑に移行する機構であることが明らかになりました(図)。この結果から、細胞内では、極めて厳密にエンジンとブレーキのバランスが保たれていることがわかりました。
 このように今後も細胞周期制御因子群のリン酸化の機能解析を通じて、細胞のがん化やがんの悪性化の機構の解明を目指しております。

研究テーマ紹介

「DNA障害チェックポイントとリン酸化シグナル」

Kasahara K., Goto H., Enomoto M., Tomono Y., Kiyono T. and Inagaki M.
14-3-3γ mediates Cdc25A proteolysis to block premature mitotic entry after DNA damage. EMBO J. 29: 2802-2812, 2010

 多くの抗がん剤や放射線によるがん療法は、がん細胞のDNAに障害を与えることで細胞死を引き起こすことを目的としています。しかし、細胞にはDNA障害に応答して細胞増殖を一時停止させ、損傷DNAを修復する機構“DNAダメージチェックポイント(チェックポイント)”が備わっています。損傷DNAが修復されたがん細胞は再び増殖を始めるため、チェックポイント機構はがん治療において障壁になりうると考えられています。そこで近年、チェックポイントを標的とした抗がん剤の併用療法が期待され、チェックポイントの中核的分子であるChk1(チェックポイントキナーゼ1)は抗がん剤の分子標的として特に注目される分子の1つです。(上図)。  私たちは、Chk1の抗リン酸化抗体を網羅的に作製し、チェックポイントの詳細なメカニズムの解析を進めてきました。これまで、Chk1が活性化してDNAダメージチェックポイントを発動させるためには、上流キナーゼであるATRがChk1のセリン317とセリン345をリン酸化することが重要であると考えられてきました。私たちは最近、チェックポイントにおいてChk1が機能的にはたらくためには、ATRによってリン酸化されるだけでなく、活性化したChk1が“セリン296”を自己リン酸化することが重要であることを見出しました。すなわち、Chk1はセリン296リン酸化依存的に多機能性蛋白質14-3-3γと結合することで、基質であるCdc25Aとの相互作用を亢進させてCdc25Aのタンパク質分解を引き起こし、最終的にDNAダメージチェックポイントを誘導します(下図)。このように私たちは、チェックポイントにおけるChk1機能制御の分子基盤を明らかにすることで抗がん剤開発に貢献しようと考えています。また、いくつかの悪性腫瘍ではチェックポイントシグナルの異常亢進が報告されており、Chk1の抗リン酸化抗体を用いたがんの組織診断や抗体療法の開発を目指した研究も進めていきたいと考えています。

図の説明:リン酸化によるChk1の機能修飾

  1. ATRキナーゼによるセリン317・セリン345のリン酸化(Chk1活性の亢進)
  2. Chk1セリン296の自己リン酸化
  3. Chk1(セリン296)/14-3-3γ/Cdc25A(セリン507)の3者複合体の形成
  4. Cdc25Aセリン76のリン酸化
  5. Cdc25Aのユビキチン/プロテアソームによる蛋白質分解

研究テーマ紹介

「複数の局在を示すケラチンscaffold蛋白質の中心体での機能」

Ibi M., Zou P., Inoko A., Shiromizu T., Matsuyama M., Hayashi Y., Enomoto M., Mori D., Hirotsune S., Kiyono T., Tsukita S., Goto H., and Inagaki M.
Trichoplein controls microtubule anchoring at the centrosome through its binding to centriolar proteins, Odf2 and ninein. J. Cell. Sci. 124: 857-864, 2011

 がんの主な発生母地は上皮細胞です。上皮細胞は極性や細胞間接着をもち、このような状態を分化といいます。正常細胞では一般に分化が起これば細胞増殖は停止しますが、がん細胞では無秩序な細胞増殖が起こりこれらの上皮細胞の特徴(極性、細胞間接着)が消失します。  現在までに私たちは、がん化に伴う上皮細胞の増殖、極性および運動異常における中間径フィラメントの役割について着目し、特に上皮細胞特異的に発現しているケラチンフィラメントに結合する蛋白質の検索とその機能解析を行っています。  近年、私たちの研究室では複数のケラチンscaffold蛋白質を同定してきました。なかでも新規ケラチンscaffold蛋白質として同定したトリコプレイン(trichoplein)は小腸絨毛部のような分化した組織細胞では細胞間接着部位とケラチンフィラメントに、そして増殖のさかんな培養上皮細胞および組織細胞(小腸陰窩部)では細胞間接着部位に加え中心小体に局在することを明らかにしました。(図1、2)  中心小体におけるトリコプレインの機能について、トリコプレインsiRNAによる機能欠失実験を行ったところ、寒冷刺激による微小管のregrowth実験よりトリコプレインが微小管の母中心小体へのアンカリング(係留)の安定化を担っていることを見出しました。さらにその制御が同じく母中心小体に局在する他の分子(Odf2、ninein)との相互連関によって起こることを明らかにしました。 これらの結果はトリコプレインが分化状態と増殖状態で明らかに異なった細胞機能を果たしていることを示唆しています。現在はトリコプレインの細胞間接着部位での機能解析についても進めており、今後はトリコプレインの細胞増殖と分化でのbi-playerとしての細胞機能を明らかにしたいと考えています。

研究テーマ紹介

業績

原著論文

  1. Kasahara K, Goto H, Izawa I, Kiyono T, Watanabe N, Elowe S, Nigg EA, Inagaki M.: PI 3-kinase-dependent phosphorylation of Plk1-Ser99 promotes association with 14-3-3γ and is required for metaphase-anaphase transition. Nat Commun, 4:1882 2013 (PMID: 23695676)
  2. Goto H, Inoko A, Inagaki M.: Cell cycle progression by the repression of primary cilia formation in proliferating cells. Cell Mol Life Sci, in press. (PMID: 23475109)
  3. Li P, Goto H, Kasahara K, Matsuyama M, Wang Z, Yatabe Y, Kiyono T, Inagaki M.: P90 RSK arranges Chk1 in the nucleus for monitoring of genomic integrity during cell proliferation. Mol Biol Cell, 23: 1582-1592, 2012. (PMID: 22357623)
  4. Inoko A, Matsuyama M, Goto H, Ohmuro-Matsuyama Y, Hayashi Y, Enomoto M, Ibi M, Urano T, Yonemura S, Kiyono T, Izawa I, Inagaki M.: Trichoplein and Aurora A block aberrant primary cilia assembly in proliferating cells. J Cell Biol, 197: 391-405, 2012. (PMID: 22529102)
  5. Matsuyama M, Goto H, Kasahara K, Kawakami Y, Nakanishi M, Kiyono T, Goshima N, Inagaki M.: Nuclear Chk1 prevents premature mitotic entry. J Cell Sci, 124: 2113-2119, 2011. (PMID: 21628425)
  6. Ibi M, Zou P, Inoko A, Shiromizu T, Matsuyama M, Hayashi Y, Enomoto M, Mori D, Hirotsune S, Kiyono T, Tsukita S, Goto H, Inagaki M.: Trichoplein controls microtubule anchoring at the centrosome by binding to Odf2 and ninein. J Cell Sci, 124: 857-864, 2011. (PMID: 21325031)
  7. Kasahara K, Goto H, Enomoto M, Tomono Y, Kiyono T, Inagaki M.: 14-3-3γ mediates Cdc25A proteolysis to block premature mitotic entry after DNA damage. EMBO J, 29: 2802-2812, 2010. (PMID: 20639859)
  8. Enomoto M, Goto H, Tomono Y, Kasahara K, Tsujimura K, Kiyono T, Inagaki M.: Novel positive feedback loop between Cdk1 and Chk1 in the nucleus during the G2/M transition. J Biol Chem, 284: 34223-34230, 2009. (PMID: 19837665)
  9. Sugimoto M, Inoko A, Shiromizu T, Nakayama M, Zou P, Yonemura S, Hayashi Y, Izawa I, Sasoh M, Uji Y, Kaibuchi K, Kiyono T, Inagaki M.: The keratin-binding protein Albatross regulates polarization of epithelial cells. J Cell Biol, 183: 19-28, 2008. (PMID: 18838552)
  10. Goto H, Inagaki M.: Production of a site- and phosphorylation state-specific antibody. Nat Protoc, 2: 2574-2581, 2007. (PMID: 17948000)
  11. Goto H, Kiyono T, Tomono Y, Kawajiri A, Urano T, Furukawa K, Nigg EA, Inagaki M.: Complex formation of Plk1 and INCENP required for metaphase-anaphase transition. Nat Cell Biol, 8: 180-187, 2006. (PMID: 16378098)

総説等

  1. 後藤英仁, 稲垣昌樹:「DNA損傷チェックポイントとがん-Chk1阻害剤の展望と問題点-」特集-ストレス応答分子の解明:分子メカニズムと病態理解- 生化学(日本生化学会機関誌), 第85巻 第3号,145-151(2013)
  2. 後藤英仁, 稲垣昌樹:「抗リン酸化抗体による新たな細胞周期研究」 ヒトと医学のステージへ拡大する細胞周期2013(中山敬一 編), 実験医学増刊号(Vol.31-N0.2), 186-193, 羊土社(2013)
  3. 佐方功幸, 稲垣昌樹, 岸本健雄(編):細胞周期フロンティア, 総268ページ, 共立出版(2010)
    i. 笠原広介, 稲垣昌樹:抗リン酸化ペプチド抗体と細胞周期研究, 5-10
    ii. 後藤英仁, 稲垣昌樹:G2/M 移行期におけるCDK1の活性化およびチェック ポイント解除機構, 52-57
    iii. 稲垣昌樹, 佐方功幸:細胞周期研究の現状と展望, 248-250
  4. 大海忍, 辻村邦夫、稲垣昌樹(著):細胞工学別冊 新版 抗ペプチド抗体実験プロトコール, 総192ページ, 学研メディカル秀潤社(2004)

人材募集

連絡先

住所 : 愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1
電話番号 : 052-762-6111(内線7023)

   

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