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衛生研究所衛生化学部生活科学研究室
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巨大地震に備えて その1

−お宅の水ガメはだいじょうぶですか?−

2006年11月2日

はじめに

「ライフライン」という言葉をご存知でしょうか。英語としての本来の意味は「命綱」ということになりますが、阪神淡路大震災の報道において電気、ガス、水道それに食料や衣類を運ぶ道路や鉄道という意味で使用されて以来、文字通り生命を維持するために必要な供給路を表す言葉として一般的に使用されています。その折りには全てのライフラインが断たれてしまい、被災者の方々は本当に心細い思いをされたようです。

では、もしもの時、このような思いをしないためにどうすればいいのでしょうか。一つの答えが必要なものを備蓄しておくことで、もう一つの答えは必要なものを必要に応じて調達することです。この「巨大地震に備えて」では、ライフラインの一つである水道が使えなくなったときのために、飲み水をどのようにして蓄え、調達するかについて、衛生的な視点を交えながら解説いたします。

必要な水の量は?

大地震にみまわれたとき、3日程度自力で持ちこたえれば、その間に救援が届き何とかなると言われています。では、どれくらいの水を用意すればいいのでしょう。人が日常活動をするために1日に必要な水の量は一人あたり3リットルだと言われています。それを4人家族にあてはめて必要な水の量を計算すると、3リットル×4(人)×3(日)=36リットルとなります。これは、灯油などのポリタンク2個分に相当する量で、1戸建ての家ではそれほど邪魔にはならないでしょうが、マンションやアパートだと置き場に困る大きさではないかと思います。

水を備蓄する

災害時に最も怖いのは、細菌などに汚染された水を飲んでおなかをこわすことです。ただでさえ体力を消耗する状況の中で、体調を崩して追い打ちをかけるような事態は避けたいものです。下痢を発症すると一日に3リットル以上の水分を喪失し高度の脱水に陥ることは希ではなく、衛生的な水が入手困難な開発途上国や医療体制が整っていない地域では脱水症状によって命を落とすことも少なくありません。よそ事ではなく、災害時には一時的に日本の何処もがこのような状況になる可能性があることを想定しておかなければなりません。では、どのようにすれば安全に水を蓄えておけるのでしょうか。以下で、水を蓄える際の注意点について解説します。

@備蓄容器について

しっかりキャップが出来る、頑丈な容器が必要です。キャップが不完全だと、細菌が侵入し中で増殖する恐れがあります。これに最も適しているのが、災害用品専門店やインターネットの防災用品のサイトなどから入手できる飲料水備蓄専用のタンク(消毒薬入りもある)です。これら以外に、ホームセンターなどで手に入るポリタンクや、中身を飲んでしまった後のペットボトルを利用するという方法もあります。しかし、このような容器には、すでに細菌により汚染されている、あるいは、細菌の栄養となるような糖分などが残っているという問題があります。このような場合には、次回の「巨大地震に備えて その2」で紹介する備蓄容器の殺菌消毒が有効で、これを行なうことにより1年程度であれば、安全に水を保存することが可能とされています。ただ、容器の状態も様々だと思いますので、できれば年に2〜3回換水しておけばより安心でしょう。

A備蓄する水について

どんな水でもいい訳ではありません。衛生的に管理された水、すなわち、細菌汚染が無く、細菌の栄養となる糖分などの有機物がほとんど含まれていない水である必要があります。最も身近で手軽な水は水道水です。日本の水道水は、きちんと消毒されて各家庭に配水されていますので、最も安全な水の一つであると言えるでしょう。ただし、美味しくて体にいいからと言って、アルカリイオン整水器や浄水器を通した水道水を備蓄用にするのは禁物です。なぜなら、これら浄水器の多くは、水道水中の消毒成分を取り去ってしまうため、備蓄中に細菌の繁殖を助長してしまうことになりかねないからです。

その一方で蒸留水はどうかと言えば、これも要注意です。蒸留水は、細菌の栄養となる有機物やミネラルを含まないという点で、備蓄用の水としては申し分ないのですが、美味しくないだけでなく、体にも良くないという問題があります。その理由は、蒸留水のように何も溶けていない水は、物を溶かす力が非常に強く、胃や腸の細胞からカルシウムやナトリウムなどのミネラル分を溶かしだしてしまうという作用があり、それだけを飲み続けるとおなかを壊すためです。ただし蒸留水でも、お茶やコーヒーを煎れる水、あるいは、炊事用として使うのには問題はありません。

B市販の飲料水を備蓄する

最近の美味しい水ブームのおかげで、ペットボトルに詰められたミネラルウオーターなどの飲料水が何時でも必要なだけ手に入ります。これらは、清浄な水源から取水された水が衛生的にボトル詰めされたものですので、備蓄するには適した水であると言うことが出来ます。しかしながら、これらの多くは風味が損なわれるという理由で殺菌消毒が行なわれていませんので、記載されている賞味期限に注意する必要があります。

また、ボトル詰めされた水であれば、どんな銘柄でも備蓄用に適しているとは限りません。その水の水質、なかでも硬度に注意して銘柄を選ぶ必要があります。硬度とは、水に溶け込んでいるカルシウムとマグネシウムの量を表す数値であり、また、ミネラルウオーターにおけるミネラル分の指標としても使われています。一般的な日本の水道水は硬度が20〜50度程度の軟水(硬度が低い水のこと)であるのに対し、輸入物のミネラルウオーターには、硬度が300度を超える硬水と呼ばれる水がかなりあります。

このような硬水はミネラル分が豊富に含まれ美味しいのですが、軟水に慣れた私たち日本人が飲み続けると、おなかを壊す心配があります。これは、日本人が先進国であり衛生上問題ないとされる地域への海外旅行先で体調を崩す原因の一つに、飲み慣れない硬水を飲むためであるということからも判ります。それとは反対に、原産国が日本の水は、ほとんどが軟水ですので、このような心配はありません。ただし硬水でも、先に述べた蒸留水と同様に、それだけを飲み続けなければ問題はありません。

水1リットル中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量(ミリグラム)を炭酸カルシウムの量に換算して表します。

硬度(r/L)=カルシウムの量(r/L)×2.5+マグネシウムの量(r/L)×4.1 

カルシウムは味を良く、また、マグネシウムは苦みを出すように作用し、硬度が高すぎるといわゆるしつこい味になります。

(衛生化学部生活科学研究室)