愛知県衛生研究所

巨大地震に備えて(その3)

2007年12月5日

飲料水を作る

前々回の「その1」では、地震に備えて飲料水を備蓄する方法を中心に説明を進めてまいりました。しかし、そこで水を差すようですが、水を蓄えるという対策には大きな落とし穴があります。それは、被災時に家の近くにいない、あるいは、容器の破損あるいは家屋の倒壊などでせっかく蓄えた水が役に立たないという可能性があることです。それに加えて、非常に大規模な地震に見舞われたときには、3日で援助が届くという保証はどこにもなく、備蓄した水が足りなくなる可能性もあります。このような事態に対処するためには、飲料水を備蓄するだけではなく、作り出す準備もしておく方が賢明ではないかと思います。

イザという時のために!

前回の「その2」では、水を消毒する方法について解説しました。しかし、いくら消毒して微生物的には安全だからと言っても、川や池から汲んできた濁り水をそのまま飲む気にはなれません。そこで今回は、災害用浄水器の利用を中心に、風呂の残り水やトイレのタンク、さらには、川や池、プールなど身の回りにある水から、如何にして安全できれいな飲み水を作り出すかについて説明したいと思います。

@ 飲める水の条件及び災害時に利用可能な浄水方法

飲める水の条件としては、細菌などの微生物汚染がないことと、有毒な成分を含んでいないことの2点がまず挙げられます。そして、出来ることであれば、色や濁りがなく味や臭いもない、すなわち、無色透明かつ無味無臭という条件も付け加えたいものです。下表に、全てのライフラインが断たれ電気もガスも使えない状態で、飲用可能な水を作る方法について簡単にまとめてみました。

浄水方法の比較表

A 蒸留

どんなに汚れた水にも適用可能な優れた方法なのですが、熱源を用意する他に、いくつかの器具や容器を組み合わせて簡単な蒸留装置を作ることが必要となります。熱源については、燃える物を探せば何とかなるのですが、効率のよい蒸留装置を作るのは容易ではありません。それに加えてこの方法には、コップ一杯の水を得るのに何十分もかかるという難点があり、災害時にはほとんど期待できないと考えて差し支えないでしょう。

B 布や紙による濾過

土や砂、藻類などのゴミや大きな濁りの成分を取り除くには有効な方法ですが、微生物に対しての効果は全くありません。しかしながら「濾過」は、この後に述べる煮沸や薬剤による消毒あるいは浄水器を使って、池や川など比較的汚れた水を処理して飲もうとする際の前処理として、なくてはならない浄水方法です。濾過材には、衣類やタオル、ガーゼ、ハンカチ、手ぬぐい、キッチンペーパー、ティッシュペーパー、コーヒーフィルターなど水が通過するものなら何でも利用可能なのですが、それら2〜3種類を目の粗い順に重ねて使うとより効果的です。

C 消毒

水の煮沸装置の図

煮沸は最も確実な消毒方法なのですが、熱源と鍋ややかんなどの耐熱性の器具や容器が必要であることや、一度に大量の水を処理することが難しいなどの難点があります。一方、薬剤による消毒の場合には、大量の水を迅速かつ効率的に処理できるとう特徴がある反面、予め次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒薬を用意しておくことが必要です。またさらに、消毒薬が古かったり使用量が足りないと十分な効果が期待できないことや、使い過ぎるとまずくて飲めないどころか、体調を崩す原因にもなりかねないなど薬剤の扱いに難しい一面があります。

D 浄水器

地震などの災害時を想定し、手動で水を濾過して飲料水を得ることを目的とした浄水器が市販されています。これら製品の多くには、中空糸膜と活性炭という2種類の浄水フィルターが使われています。中空糸膜とは、糸のように細い円筒状の濾過材が束になったフィルターユニットで、これにより一部のウイルスを除く微生物類と濁りが除去できます。一方、活性炭は、農薬など有害物質の一部と、色や味、臭いなどの不快成分の除去に効果を発揮します。これらフィルターの働きで、池や川などの比較的汚れた水からでも、水道水のように無色透明で、味や臭いのほとんど無いないきれいな水を得ることができます。しかしながら、これらの浄水器に使われているフィルターの目は1ミクロン以下と非常に細かいため、濁りの多い水を通すとすぐに目詰まりを起こし役に立たなくなる、さらには、微生物の除去が不完全であるなどの問題があります。したがって、どのような水を処理するかにもよりますが、これだけを使ってきれいで安全な飲み水を、十分な量確保することは難しいと言わざるを得ません。

E 浄水器の利用例

上で述べたように浄水器は、単独では十分な効果は期待できませんが、他の方法と組み合わせて用いることにより、水道水に匹敵するような安全できれいな飲料水を作ることが可能になります。例えば、池や川の汚れて濁った水の場合には、まず布や紙で濾過してゴミや大きな濁りの成分を取り除き、その後に次亜塩素酸ナトリウムを多めに加えて消毒し、最後に浄水器を通すという方法が考えられます。この方法の特徴として、消毒薬では完全に除けない原虫類と浄水器でのウイルスという両者の弱点を相互にカバーできる点に加えて、活性炭フィルターは次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒成分を除去する能力があり、消毒薬を加えすぎても最終的には残らないため問題にならないという点や、火を使わないため安全であり、比較的多くの水を短時間に処理できるというような点が挙げられます。

F 浄水器購入上の注意

ペットボトルと浄水器の図

災害時に使える浄水器として、災害用はもとより、アウトドア/サバイバル用、さらには水事情の悪い国で使用することを目的とした海外旅行用などがあります。形状は、ストロー型の簡単なものからマヨネーズ容器のような形状をしたものや、本格的なハンドポンプのついたやや大型のものまでいろいろなタイプがあり、価格も数千円から数万円と様々です。これらを購入する際に注意して頂きたいことは、フィルターの種類や処理能力を確認し、携帯するのか避難袋の中に常備しておくのか、何人分の水を何日分まかなうのかなど、目的を考えて製品を選ぶことです。例えば、前述のストロー型は、ポケットに入る程小さく価格もお手頃なのですが、細菌を除去できるフィルターを備えていないため、消毒剤と一緒に使う必要があることや、口で吸い上げて浄水器に水を通過させる方式であるため、肺活量の少ない子供やお年寄りには取扱が難しいかもしれないことを考慮するべきです。一方、マヨネーズ容器のような製品は、水を入れて手でマヨネーズを絞り出すようにして圧力をかけ、キャップ部分に組み込まれた浄水フィルターに水を通すというタイプです。この製品は、フィルターに中空糸膜と活性炭が両方使われおり、得られる水の質は問題ないのですが、フィルターが小型であるため目詰まりを起こしやすく、濁りの多い水には使いにくいということを考えておくべきです。

G 家庭用浄水器

最近の水事情を反映してなのでしょうか、浄水器を備えている家庭が増えています。このような家庭用浄水器は、そのほとんどに災害用と同じ中空糸膜と活性炭フィルターが使われています。もし、この家庭用浄水器が災害用にも利用できるとしたら、必要な時に水道の蛇口から外すだけで済むため、災害用の浄水器を購入する必要がなく、たとえ目詰まりを起こしても、浄水フィルターを千〜2千円程度で購入できる予備のものと交換するだけで機能が回復するため、非常に経済的です。それに加えて、使われている浄水フィルターは災害用と較べて格段に大きいため、浄水能力が高く多くの水が必要な時でも安心して使えるなどのメリットがあります。しかしながら、家庭用浄水器は水道の圧力を利用して水を濾過するように作られているため、そのままでは災害時に使うことはできません。そこで次回は、この家庭用浄水器を災害時に利用する方法について解説したいと思います。