愛知県衛生研究所

水道水の安全・安心を求めて
トリクロロエチレンの水質基準が改正されました

2011年4月1日

1.トリクロロエチレン水質基準値の改正

平成23(2011)年4月1日から水道水中のトリクロロエチレンの水質基準が0.03 mg/L以下から0.01 mg/L以下に改正されました。

私たちが安心して飲める水を供給するため、水道水には「水道法」という法律に基づいた水質基準が定められています。水質基準は昭和33(1958)年に初めて制定され、その後数回改正されています。現在の水質基準値の多くは平成15年の水質基準大改正において定められました。

水質基準値は、ヒトが一生飲み続けても健康に影響がないと考えられる量を基にして決められており、最新の研究報告に基づく見直しによって、今回はトリクロロエチレンの水質基準が改正されました。

トリクロロエチレンの水質基準値
0.03 mg/L 強化 ⇒ 0.01 mg/L

2.トリクロロエチレンの用途

トリクロロエチレンの構造式の図

トリクロロエチレン(図)は、揮発性有機化合物の1つで、主に代替フロンガスの合成原料及び機械部品や電子部品等の脱脂洗浄剤として使用されています。その工場排水などにより土壌が汚染されると、地下水に浸透し、長期間にわたり地下水汚染が続く可能性があります。

3. トリクロロエチレンのヒトへの影響

急性毒性としては、眠気、疲労感、頭痛など中枢神経系への影響が報告されています。慢性毒性としては、中枢神経系への影響の他に肝臓や腎臓への影響なども認められています。

国際がん研究機関は、平成7年に「ヒトの発がん性に関しては限られた情報しかないが、動物実験での発がん性には十分な証拠がある」として、トリクロロエチレンをグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しています。

4. 従来のトリクロロエチレン水質基準

昭和57年に環境庁(現環境省)が井戸水中の揮発性有機化合物の調査を実施したところ、各地の井戸がトリクロロエチレン等により汚染されていることが判明しました。これに対応するため、厚生省(現厚生労働省)は、昭和59年、トリクロロエチレンの暫定水質基準値として0.03 mg/Lを設けました。その後、平成4年の水質基準に関する省令の改正により基準項目となり、基準値が「0.03 mg/L以下であること」と定められました。この基準値は、マウスの肝発がん性に基づいて設定されたものです。

5.トリクロロエチレン水質基準改正の根拠

水質基準の基となる毒性の評価は、WHO(World Health Organization)の飲料水水質ガイドラインや、疫学・毒性に関する文献情報などを調査して行われています。多くの情報から、動物またはヒトに対して影響を与えない最大の量(最大無毒性量)を求め、その量を安全を見込んだ係数(多くの場合100以上)で割って、「ヒトが一生飲み続けても健康に影響がないと考えられる一日の量」とします。これを「耐容一日摂取量」といいます。

今回の「トリクロロエチレンの耐容一日摂取量」は、ラットを用い交配前から妊娠期間中、飲み水にトリクロロエチレンを混ぜて与えた実験で胎児に心臓奇形が認められたことに基づいて、一日につき体重1 kg当たり1.46μg(0.00146mg)と設定されました。

水道法における水質基準の評価値は、この「耐容一日摂取量」を用いて次の式で求められています。

水質基準の評価値  = 耐容一日摂取量×平均体重×水道水の寄与率
一日に飲用する水の量

日本では、

  • 平均体重:50 kg
  • 水道水の寄与率:70%

    (トリクロロエチレンは、空気中や食品によっても体内に取り込まれるので、
    トリクロロエチレン全体の摂取量のうち水道水から取り込まれる割合)

  • 一日の水由来暴露量:5 L

をあてはめます。

0.00146mg/kg体重/日×50kg×0.70(70%)  ≒  0.01mg/L
5 L

この計算値から、トリクロロエチレンの水質基準は0.01 mg/Lと設定されました。

従前の水質基準では、水道水の寄与率を10 %と見積もってきました。しかし、今回の改定では、我が国のライフスタイルとして入浴の頻度がきわめて高いことから、入浴時における吸入及び経皮暴露も考慮し、経口飲用分と合わせて70 %と算定されました。また、水由来暴露量も飲用2 Lに入浴時の3 Lを合計した5 Lと仮定しています。

なお、WHO飲用水水質ガイドライン(第3版第1次追補、平成18年)では、平均体重60kg、水道水の寄与率を50 %、1日に飲用する水の量を2 Lとして、評価値0.02 mg/Lを暫定値としています。今回の改正値は、WHOの値と比較してもより安全な値となっています。