愛知県衛生研究所

ヒトの体内銅総量は70〜100 mgで、新生児では成人より濃度が高い。臓器中濃度は肝が最も高く、脳、心、腎の順である。しかし体内総銅量の約1/2が臓器量の大きい筋、骨に存在し、肝には約10%が存在する。ヒトの1日摂取量は2〜5 mgで、食品、水によって経口的に摂取され、1日の必要量は充たされている。十二指腸、胃で吸収され、アルブミンと結合して大部分肝に移行し、セルロプラスミンとなる。血液中では血清、赤血球にほぼ同量存在し、血清銅の95%はセルロプラスミン銅で、赤血球銅の60%はSuperoxide dismutaseのエリスロクプレインである。

銅酵素は酸素の運搬、電子伝達、酸化還元の触媒として働くもので10数種類ある。そのうちのセルロプラスミンは、血中で芳香族ジアミンを酸化しうる唯一の酵素であり、鉄代謝にも関与し、二価の鉄を三価の鉄とする機能があり、鉄の不足がなく、銅不足のために鉄欠乏性貧血に似た貧血をおこすことが知られている。銅欠乏症は家畜では古くから知られていたが、ヒトではあまり知られていなかった。しかし、1969年にペルーの小児で上記の銅欠乏性の貧血が明らかになり、ついで各国で未熟児、大量の亜鉛投与時(亜鉛、モリブデン等の投与は銅欠乏症を増悪する)、乳幼児下痢症等の非経口高栄養療法時に見られるようになった。

一方遺伝性疾患の銅欠乏症としては先天性の腸管吸収障害といわれるMenkes症(ねじれ毛症)がある。腸管で吸収された銅の血中への放出が阻害され、血中濃度が低い。伴性遺伝性で出生35,000人に1人の割合でみられ、生後3か月以内にねじれ毛、けいれん、低体温などがみられて早期に死亡するといわれている。しかし、きわめて早期に非経口的に銅を投与すると効果がみられるといわれているが、適量のコントロールがむずかしく今後の研究がまたれている。欠乏症とは異なるが、先天性銅代謝異常にWilson病がある。これは人口100万人に1人といわれているが、肝での銅代謝異常で銅の胆汁への排泄が低下し、体内に銅が沈着する疾患である。Wilson病発症者と未発症者との代謝のちがいを表1に示した。血漿、組織等への銅の沈着がみられるが、尿中へ排泄されやすいので神経症状発現以前にペニシラミンにより適切に治療すれぼ予後は良いといわれている。また高齢者では血清中のセルロプラスミンが加齢によって増加し、脂質の過酸化を促進し、動脈硬化、細動脈繊維化を起し、老化速度を速めるという仮説がある。

銅代謝事項未発症者発症者
セルロプラスミン
血漿銅正常
組織銅
銅の肝への取り込み正常
銅胆汁排泄障害障害
糞便中銅
尿中銅正常
血漿からの銅クリアランス正常
銅のセルロプラスミンへの取り込み