愛知県衛生研究所

PCB(ポリ塩化ビフェニル)

2004/10/19更新

PCBってなに?

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、ベンゼン環が2つ結合した塩素を含む有機化合物の1つであり、下図のX印に1〜10個の塩素が結合した構造をしています。

PCB(ポリ塩化ビフェニル)の構造

PCBには多くの異性体(理論的には210種類)が存在する可能性がありますが、これまでに検出・確認されているものは約100種類の異性体にすぎません。

我が国では、PCB製品の主なものとして、鐘ヶ淵化学のカネクロール(KC)300、400、500、600などの三、四、五および六塩素化体の異性体混合物を主成分とした製品が1972年まで製造されていました。その主な用途は、トランスやコンデンサーの絶縁油(66%)、熱交換器の熱媒体(17%)、ノンカーボンの感圧複写紙(12%)であり、その他として可塑剤等にも5%利用されていました。

PCBは、水には溶けにくいのですが、油や溶剤には溶けやすいため、生体内に摂取されたPCBは、ヒトや動物の脂肪組織中に長期間にわたって蓄積し、ほとんど排泄されないことが知られています。また、常温では化学的に安定であるため、環境中のPCBは難分解性の化合物として存在しており、海洋生物体内でのPCBの蓄積がJensenらによって1966年に初めて報告され[New Scientist 32, 612(1966)]、その頃から環境汚染物質としてのPCBによる生態系への影響が危惧されはじめました。

カネミ油症事件

1968年、米ぬか油(ライスオイル)製造過程の脱臭工程において、熱媒体として使用されていたPCB(KC-400:塩素含有量約48%の四塩素化ビフェニルを主成分とするPCB混合物)が、ライスオイル中に多量に混入するという事故が起こりました。そして、そのPCB混入ライスオイルを2〜6カ月間にわたり不定期に摂取したことによって、西日本を中心に全国で約14,000人が皮膚などの身体症状を訴え、被害を届け出るという、大規模な食品公害事件が発生しました。その後35年が経過した2003年6月現在、生存する「カネミ油症」の認定患者数は1362名と、今なお多くの患者が後遺症に苦しんでいます。その後の調査から、ライスオイルに混入したPCB濃度はおよそ1,000ppm(1ppm: 1/1,000,000g=1トン中に1グラム)であり、患者が摂取したPCBの量は、KC-400として0.5〜7.0g、平均2.0g程度と推定されています。

カネミ油症の症状

油症の発症初期には、顔面や背中等の座瘡様皮疹や歯肉、爪、結膜等へのメラニン色素の沈着が特徴的にみられます。また、内分泌症状(月経異常や性欲減退等)、呼吸器症状(咳や喀痰の増加等)や全身の倦怠感、頭痛、腹痛、四肢の感覚異常等の症状もみられます。臨床検査所見としては、血清トリグリセリドの著しい増加やビリルビン値の低下、免疫グロブリンの減少等があげられます。

さらに、油症患者の妊婦からは“黒い赤ちゃん”と呼ばれる強度のメラニン色素沈着を示す子供が産まれ、母胎から胎児へのPCBによる影響も明らかとなっています。

カネミ油症にみられるこのように様々な中毒症状は、PCBが多数の毒性の異なる異性体混合物からなっていることに加えて、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)のようなPCBより強い毒性を有する不純物や、PCBの重合物をも含んでいることなどに起因しているものと考えられています。

PCBの酸化生成物:PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)

「カネミ油症」の主要な原因物質はPCBそのものではなく、ライスオイル中に混入したKC-400に含まれるPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)及びコプラナーPCBであることが指摘されています。

PCDFにはPCBの数百倍という強い毒性があり、「カネミ油症」の原因となったライスオイルからは、熱媒体として使用する前のPCB(KC-400)と比べて250倍という高濃度のPCDFが検出されました。このことは、熱媒体としてPCBを使用(250℃で加熱)している間にPCBの一部がPCDFに変化(酸化)したためと考えられています。

PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の化学構造式
PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の化学構造式

カネミ油症認定患者からのPCDF

厚生労働省の全国油症治療研究班は、2003年6月18日、全国のカネミ油症認定患者のうち297名についての血液中PCDFの測定結果を発表しました。その内容は、PCBが加熱されることによって生成するPCDFが、平均で一般人の12.6倍と、高濃度に検出されたというものでした。

PCDFは、研究者の間でカネミ油症の主要な原因物質の1つと考えられており、検出されたPCDFが、油症の原因となった米ぬか油中のものと同一タイプであることが確認されれば、油症被害とPCDFとの因果関係が裏付けられます。

カネミ油症は当初、食用油に混入したPCBが原因とされ、皮膚などの身体症状及び血中PCB濃度が患者認定の基準になっており、PCDFについては長い間考慮されてきませんでした。しかし2003年9月、厚生労働省の油症診断基準再評価委員会は、上記の油症患者血液中PCDFの測定結果を受け、PCDFを含むダイオキシン類の血中濃度が高ければ、臨床症状にかかわらず患者認定をする方針を決め、2004年9月にはPCDFの血中濃度の基準値を示しました。1981年以来23年ぶりに見直されたカネミ油症診断の新基準では、PCDFの濃度は血中の脂肪1グラム当たり30ピコグラム(1ピコグラムは1兆分の1グラム)以上であることを1つの目安として、年齢や性別も考慮し、患者に認定するかどうかを総合的に判断するということです。これによって、多くの未認定患者の救済につながる可能性が大きくなったと考えられます。