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2010年3月12日更新

鉛はヒトの栄養に関して必須のものとして理解されていない。しかしながら、微量(29ng/食事1g当たり)の鉛はラットにおいて成長の維持、生殖、血液産生に不可欠であるとの報告もみられる。

鉛は人体のすべての臓器や組織に存在し、健康な日本人の体内には78〜131mgが含まれている。鉛曝露のない正常人および無機・有機鉛曝露者の臓器中の鉛濃度を表1に示した。正常人では骨に最も多く90%を占める。特に鉛は石灰化組織(歯、骨)に沈着しやすく、アパタイト中のカルシウムと置換して存在する。

一般的に、骨の鉛含有量は加齢とともに増加し、60〜70歳代でプラトーに達するが、その後減少する。これは老化による骨の脱灰と関係あるものと考えられる。



表1 正常人及び鉛曝露者の臓器鉛濃度(mg/100g)
臓器正常人鉛曝露者
無機鉛有機鉛
0.67〜3.575.6〜17.62.9
0.04〜0.281.8〜8.02.35〜3.40
0.02〜0.160.6〜5.50.79
0.01〜0.071.130.29
心臓0.040.2〜0.80
0.01〜0.090.24〜1.20.74〜1.9


血中鉛濃度は、鉛曝露による生体変化及び鉛中毒の症状に対する指標となり、鉛曝露による『量−影響関係』または『量−反応関係』における量に相当する。血中鉛の正常上限値は40μg/dL、職業的曝露において許容されうる範囲は40〜60μg/dLとされる。しかし、正常値については分析法や地理的な鉛摂取量の差により一定していない。また表2に示すように、自動車の排気ガスと接触の多い職業ほど血中鉛濃度は高値を示すことがわかる。またタバコの影響も無視できない。

一方、尿中鉛は測定時点に近い時期の鉛曝露の指標としての意義があり、血中鉛<40、41〜60、61〜80μg/dL>に対して、それぞれ尿中鉛<80、81〜100、100μg/L>が対応するとされる。

表2 生活環境と血中鉛濃度(μg/dL)*1
郊外居住者、非喫煙11
郊外居住者、喫煙15
交通警察官30
駐車場作業員34
ガソリンスタンド従業員28
トンネル作業者(高速道)30
ガレージ機械工38


正常な成人は、職業的ないし特殊の鉛曝露がない場合でも、食物や水から経口的に1日平均300μg、大気から経気道的に30μgの鉛、合計330μgの鉛を摂取していると計算される。大都会居住者の調査では、成人で毎年大気より15mg、飲料水より5mg、食物から100mgの鉛を摂取しているとされる。しかし、体内に吸収される鉛量は侵入経路により異なり、経口摂取では約8%が吸収されるにすぎない。経口摂取された鉛はまず大部分が十二指腸で吸収され、門脈より肝に運ばれ、肝より胆管を通って胆汁とともに再び腸管へ排泄され、やがては糞便とともに外へ排泄される。

一方、呼吸器から吸入された鉛は14〜45%が吸収され、8%弱が気管に沈着する。したがって現状では1/3を大気から、2/3を食物や水から吸収していることになる。

鉛の人体からの排泄は、糞便のほかに腎よりなされる。血中濃度がほぼ正常である場合には主として腎の糸球体からろ過され、体内への吸収が大となり血中濃度が高くなると尿細管より分泌が始まるとされる。通常、成人では糞便中に1日300μg、尿中へは30μg排泄されている。そのほか少量ではあるが、汗、毛髪、皮膚脱落とともに排泄される。母乳中の鉛濃度は日本人では0〜12μg/dLで血中濃度と比例することが知られている。また鉛は胎盤を通過するため、母親の血中鉛濃度と新生児の血中鉛濃度とは相関する。

多量の鉛の摂取による急性鉛中毒は、疝痛、貧血、神経病あるいは脳疾患となって現れる。鉛中毒の臨床症状は、成人では血中80μg/dL以下ならば出現しないが、ヘムの合成に関与する酵素のδ-アミノレブリン酸デヒドロゲナーゼの阻害作用は、血中鉛濃度が正常とされている2μg/dLという低レベルでも起こる。このような阻害作用がさらに進むと、この酵素あるいはコプロポルフィリンの尿中排出量が増加する。

鉛は急性毒性としては比較的弱い毒物であるが、蓄積毒であり非常に微量でも連続して摂取すると慢性中毒をおこす。毎日数mgの鉛を吸入した場合、中毒症状は数週間から数カ月を経て現れ血液、神経、平滑筋などに障害が現れる。鉛は血色素の合成過程を妨げるので、赤血球中のヘモグロビンは著しく減少して貧血をおこし、顔面は鉛色を呈する。血液の薄層固定標本において細かい黒色粒を有する塩基性顆粒赤血球がみられる。この現象は鉛中毒に特有なものではないが、鉛中毒の早期診断法として重要である。

*1 NAS:Lead, National Academy of Sience, 1974

ガソリン中に鉛が添加されていた頃のデータであり、数値は平均値。日本では1975年にレギュラーガソリンへの鉛の添加が禁止され、1990年代の日本人における血液中鉛濃度平均値は3.8μg/dLと低くなっている。世界的にみても同様にガソリンへの鉛添加を規制しているフィンランド、カナダ、アメリカ等の国々と同程度の低い血液中鉛濃度である。

(衛生化学部生活科学研究室)

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