愛知県衛生研究所

セレン

20年ほど前には有害元素と考えられていたセレンのヒトの体内量は約13 mgである。セレンは生体内に広く分布するグルタチオンペルオキシダーゼ1分子中に4原子含まれ、重要な働きをしており、腎、甲状腺の濃度が高い。

土壌中のセレン合有量は地域により著明な差があり、したがって食品のセレン合有量もかなり差がある。また、セレンは栄養量と中毒量との差が少ない元素であるから、地域により中毒症、欠乏症などがみられる。セレン含有量の低い地域では食道癌、腎癌の死亡率が高く、また中国の低セレン地区では一種の拡張型心筋症である克山病がみられる。この疾病は心筋中のミトコンドリアのセレン含有量が低下しているといわれ、小児や妊娠可能期の女性に多く、セレンの経口補給で発症率が減少した。主食品中のセレン含有量が0.03〜0.04 ppm以上であれば発症がみられないといわれている。腸管機能不全をはじめ種々の疾患に高カロリー輸液(TPN)が治療効果をあげているが、各種の微量元素の欠乏症をひきおこす、特に小児の低蛋白血症を伴う重篤疾患であるクワシオーコルなどでセレン欠乏のため、乳児急死症侯群がみとめられている。TPN施行時は下肢の筋肉痛、心電図の変化に留意すべきである。

セレンの特徴の一つとしてメチル水銀、無機水銀の毒性軽減作用があるが、臓器内の両金属濃度は逆に増加している。また、カドミウム、銀の毒性軽減にも有効なことも確認されている。白金錯体であるシスプラチンは強力な制癌剤として世界中で繁用されているが、腎毒性が強く本剤の有効使用を妨げている。動物実験の結果、亜セレン酸の併用がシスプラチンの致死毒性、腎毒性を著しく軽減し、抗腫瘍効果に影響を及ぼさないことが明らかになった。しかし、水銀、カドミウムの場合とは異なる機構の様である。

セレンの摂取量が低下すると生体内の過酸化物の生成が増加し、老化が促進するとの研究があり、血清、毛髪中セレン含量と年齢との間に有意の逆相関が認められ、加齢と共に低下しているとの報告があるが、この二つを短絡的に結びつけて論ずることは出来ない。セレンの欠乏は体液性免疫の遅れ、抗体価の減少などを生ずる。セレンはIgM産生を、ビタミンEはIgG産生を高め、抗体産生を増強する。