愛知県衛生研究所

タリウム

2005年11月9日

"母親に劇物"事件の原因物質とされる「タリウム」ってどんな金属?

タリウムは灰色の柔らかい金属で、地殻には0.6ppm(0.00006%)ほど存在します。資源的には、銅、鉛、亜鉛などの硫化鉱物に微量に含まれており、精製の際の副産物として回収されます。また、タリウムは光学レンズ、低温用温度計、半導体、それに、放射能の測定に使用されるシンチレーションカウンターなどの製造に使われています。1950年代初めまで、酢酸タリウム軟膏が多毛症の治療薬として使用されて、中毒患者の発生が見られました。また、硫酸タリウムは殺鼠剤などに使用されていましたが、においや味がなく見分けが困難なことから誤食事故が相次ぎ、現在ではあまり使われていません。

タリウムは特に毒性の強い金属の1つで、推定致死量はタリウムとして8〜12mg/kgとされ、消化管からだけでなく、気道や皮膚からもよく吸収されて生体内に蓄積します。タリウムの消化管からの吸収は速やかで、通常、12〜24時間後に発症し、初期症状として消化器症状と神経症状が現われます。少量摂取では嘔気、嘔吐、食欲不振、上腹部痛、感覚障害、筋力低下、運動失調等の症状が現われ、重篤な場合には発熱、痙攣を起こし、肺炎、呼吸抑制、循環障害で死に至ります。

タリウム中毒で最も特徴的な症状は脱毛であり、通常2週間程度で現われますが、大量摂取時には5日目位でみられることもあります。"原因不明の多発神経炎に脳症と消化器症状を伴う時にはタリウム中毒を疑え"といわれていますが、脱毛をみてはじめてタリウム中毒を疑いはじめた、というのが一般的な経過であり、頭髪が束状になって抜け、眉毛は外側2/3が抜けやすいのが特徴です。

タリウムイオンはカリウムとほぼ同じ大きさであるため、生体内では類似の挙動を示し、カリウム濃度の高い神経、肝臓、心筋などの細胞膜やミトコンドリアで、カリウムの1/10の濃度でこれと競合し、毒作用を現わすと考えられています。また、他の重金属と同様SH基をもつ酵素の機能を障害するため、システインのタンパク及びケラチンへの合成が障害され、これが脱毛の誘因になると考えられています。タリウムはまた、細胞内のリボフラビン(ビタミンB2)と不溶性の化合物を作り、その機能を停止させ、これが脱毛、神経炎、皮膚炎などの原因ではないかと考えられています。

タリウムの主な排泄経路は初期には尿、後には便とされ、タリウム中毒の確定的な診断は尿への排泄でなされ、24時間尿中のタリウム濃度が5ng/mL以下(原子吸光分析による)であれば正常とされています。また、その血中濃度は、赤血球中が血漿中より9倍も高いことから、タリウムの測定には全血を使用しなければなりません。全血中タリウム濃度の正常値は2μg/L以下、中毒濃度は100μg/L以上とされています。