愛知県衛生研究所

亜鉛

ヒトの体内の亜鉛総量は約2gで体内いたるところで検出され、血液に多い鉄に比べ細胞内でもっとも多い微量元素である。体内量の約90%が筋肉、骨に存在する。亜鉛の栄養状態の指標としては血清と毛髪の亜鉛含量が用いられ、血清亜鉛の危険限界値は5〜8μg/mlである。 成人の1日の亜鉛必要量は10〜15 mg程度で小腸、十二脂腸から吸収され、食物中の動物性蛋白、アミノ酸、ペブチドなどは腸管からの吸収を促進する。 亜鉛は70種以上の金属酵素の活性化に関与し、亜鉛欠乏時には種々の機能障害をきたすことが推定されているが、一定の成績は得られていない。また成長ホルモン過剰による先端巨大児では、血清亜鉛の低下、尿中亜鉛の増加など亜鉛とホルモンの関係を示す報告がみられるが、これらを説明する機構はまだ十分解明されていない。

亜鉛はストレスによる胃潰瘍を抑制する作用があるとか、味覚、免疫機能、生殖、発達などとの密接な関係などその有用性が明らかであり、その欠乏症にもさまざまな障害や症状があらわれる。味覚障害の原因は多種多様であるが、亜鉛欠乏による味覚、嗅覚異常は最近増加する傾向が認められている。原因は食品中の亜鉛含量の不足や金属キレート作用をもつポリリン酸、EDTA、フィチン酸などの食品への添加が考えられる。フィチン酸やカルシウムが食品中に共存すると腸管内で非常に溶けにくい亜鉛錯塩をつくり、腸管から吸収されなくなるからである。亜鉛欠乏性味覚異常の場合は経口投与薬として硫酸亜鉛が有効である。発症から受診までの期間別に亜鉛治療の有効率を比較してみると、1ヶ月以内で80%以上、6ヶ月以内で70%以上、1年以内で60%以上、10年以上40%と長くなればなる程有効率は下がってくることが知られている。

亜鉛欠乏症として代表的なものに腸性肢端皮膚炎がある。これは遺伝型と高カロリー輸液などの際に起こる獲得型とがある。遺伝型のものは離乳期にはじまる(1)手足などの肢端部や眼、口、陰部などの開口部にみられる皮疹、(2)全脱毛、(3)下痢を三大症状とする常染色体性劣性遺伝性の疾患であり、予後不良といわれていた。吸収障害に基づく亜鉛欠乏説が有力視されているが、硫酸亜鉛の内服によって症状が改善され、亜鉛の吸収が推測されるがその機序は不明である。獲得型のものは組織液中に亜鉛を含まない高カロリー輸液による発症がもっとも多い。その特徴は、男性に多く、慢性消化吸収障害を有するものに多く、元疾患回復期に発症することである。その他には乳児下痢症の治療乳の無乳糖ミルクによる発症(1983年調整ミルクに亜鉛、銅の添加許可)、母乳中亜鉛が低値の低亜鉛母乳(母親の血清亜鉛は正常)による発症などがあるが、適切な亜鉛内服により症状も消失し、血清亜鉛値も正常値となる。獲得型の場合は遺伝型の場合と異なり、休薬によって再発しない。 その他の欠乏症としては、エジブト、イランの小人症、第二次性徴発育不全、肝脾腫を伴った症候群などがある。

最後に欠乏症ではないが、米国の調査で高齢者の亜鉛の摂取量が低いことが報告されている。したがって欧米より摂取量の低い日本の高齢着の場合は血清亜鉛値を考慮し欠乏症に配慮する必要があろう。