居住施策に関するアンケート調査

氏   名 佐藤 圭二
所属・役職 中部大学・名誉教授
専門分野 都市計画・住宅計画

愛知県の住まい・まちづくりを取り巻く状況について、それぞれの専門の分野から、特に注目している現状と今後重要となってくる課題についてのお考えをお聞かせください。

 住生活基本法が強制力を持っていないことを考慮し、権限を持つように工夫すべきである。
 金融公庫がなくなり、補助金による水準規制ができなくなった代わりに、建築確認や開発許可申請の前段に住宅と環境の設計水準のチェックをできるようにすること。その計画設計水準が不十分な場合には申請を受け付けないこと、等の措置を考える必要がある(*0)。性能評価は行政が行うべきであり、居住者やユーザーに委ねてはならない。まして供給者の自主に任せてはならない。
 住生活基本計画の実施主体が誰か、行政であることを明確にすべきである。居住者や供給者は主体ではない。一生に一度しか買わない購入者に性能判断を委ねることは不適当である。住民参加は街(共同住宅)を作り替える時に必要なだけである。これを曖昧にすると、名古屋市の基本計画のように「居住者の役割や責任を過大に見る文言(*1)」が出てきて計画全体を曖昧にする。住民の役割は個人住宅の管理に関して(*2)で、持家新設の時は庭や周辺環境との調和が求められる。農村での下水や遊水機能確保などもある。住宅水準があがり100年住宅になるときには維持管理責任が大きくなる。これ以上は当面は必要ない。
 住生活基本計画はハード(空間形態)を主体として、ソフト(付き合い、コミュニティ)は空間形態(ハード)に転化できるモノに限って受け止める。計画に曖昧さを入れないことが大切である。
 コミュニティは大切な生活条件であるが、空間形態として「アクセスと住宅建築の自然な監視機能など空間形態に写し取って考えること」(*3)が重要である。
キーワード 住生活基本法の担い手、基本計画は空間形態計画 ソフト(付き合いとコミュニティ)の空間形態

*0:欧米のデザインガイドやステートメントは、開発許可の申請前に役所と計画内容を協議し、ダメなら提出を遠慮してもらう。
*1:名古屋市住生活基本計画では「3章で(1)選ぶ」としており、居住者に選ばせることを目標手段としている。
*2:100年経てば住宅は持家借家の区別なく、住宅は建てるモノでなく、買うモノ借りるモノになる。しっかりと管理しない居住者は責任を問われる。
*3:鈴木成文「いえとまち」彰国社、および問2の初稿*4参照。

上記の課題解決のために推進すべきと考える住まい・まちづくりに関する取組みについてのお考えをお聞かせください。

 住宅・住環境水準;建築/都市計画法が及ばない領域は「省資源/省エネ」のための壁面や屋根の素材工法への配慮、防災のための隣家との防壁などである。そして、防犯と近隣交流のための近隣建物の形態である。これは、アクセス空間(接地住宅;通りや共同住宅;中庭)の共有とそれを囲む住戸群の自然な監視機能の充実が大切であり、前庭を公開し住戸の窓(バルコニー)を大きく開くこと(*4)、共同住宅では、アクセス空間に駐車場と共同広場を取り込むこと、この空間を窓とバルコニーで囲むこと、が大切である。中庭と広場は住戸窓から人の顔が見分けられる30m以内に視界を保つことも分かっている(*5)。
 防災は、地震津波水害と火事とがあるが、それぞれ別の措置が必要である。100年以上に1度しかない災害には物理的対策を取ることよりも、安全に避難することが優先する(*6)。
 居住者の多様化と住宅要求の多様化をゴチャ混ぜにしないで欲しい。住宅要求は多様になっていない。N室DK/LDK等は変わらない(ただしコミュニティ交流意識は低下している)。ここははっきりと居住者層の多様化に答えるべきである。特に公的住宅での、単身、小世帯家族、高齢者などへの配慮が必要である。高齢小世帯対応は、公共性が高い。今の民間高齢者のケア付き住宅の家賃は極めて高い。
 最後に、住生活とは何か、住生活基本計画とは何か、その担い手は誰か、を厳しく追求して曖昧さを許さない計画態度を期待する。「住生活」という用語が計画内容を曖昧にしている。しっかり定義すること。
  そして、住生活基本計画は自治体が立てることになっているが、住宅政策の最終責任は国にある。都道府県・市町村は、住宅行政への補助(金)と制度改革を国へ要請すべきである。
キーワード アクセス空間と自然な監視機能空間、建物防災と災害避難計画、居住世帯の多様化と高齢世帯への対応、住宅政策への国の責任(補助金と制度改革)

*4:イギリス・エセックス州のデザイン・ガイドライン1997年版。
*5:湯川利和訳0.ニューマン著「まもりやすい住空間」鹿島出版会。
*6:東北震災対策の議論での識者(室崎等)の意見