居住施策に関するアンケート調査

氏   名 清水 裕之
所属・役職 名古屋大学大学院環境学研究科・教授
専門分野 建築・都市計画

愛知県の住まい・まちづくりを取り巻く状況について、それぞれの専門の分野から、特に注目している現状と今後重要となってくる課題についてのお考えをお聞かせください。

(1)現在の知事になってから都市周辺部の開発推進の傾向が見えるようになった。特に物流、産業政策としての敷地を確保しやすくする傾向が強い。それは現在の経済状況を考えると意味が無いわけではない。しかし、直近の経済対策のみに注目するあまり、都市のスプロール抑制、緑地の創出、景観の保全・醸成などの環境対応課題を代償とするのでは、将来に禍根を残す。文化的景観、生態系保全(生物多様性)、地球温暖化、集中豪雨などに対する環境緩和対策など、取り組まなければならない空間的課題が多いのに、都市計画部局にその意識が弱いのが気になる。例えば、愛知県はすぐれた広域緑地計画を策定しているのに、それに対する都市計画的な対応が、具体的な政策、あるいは事業として浮かび上がってこないのはなぜだろうか。また、現在、各市町村の都市マスタープラン、緑地計画を横並びに見ているが、接している都市同士においても、相互調整が弱く、広域計画への対応を書いているところもほとんどない。
都市計画部局は、直近の具体的な対策を優先するあまり、こうした、大きなビジョンに対する対応能力を喪失しているのではないかと、大変危惧している。世界の情報をもっと見て、大局から、そして、100年先を見通した強い力をもつ政策を考えてほしい。
キーワード 環境対応課題への対応力、広域計画と市町村計画との理念的整合性への指導

上記の課題解決のために推進すべきと考える住まい・まちづくりに関する取組みについてのお考えをお聞かせください。

 上記と重なりますが、まず、問題対処型の行政体制を、大きなビジョンを持った将来誘導型の体制に再転換すべきと思う。(戦後直後の行政はもっと大きなビジョンを持っていたはずだ。)それには、おそらくビジョン構築のスキルをみにつける教育プロセスが行政内部で機能していないのではないか?また、ビジョンを語っても、出世の役に立たない、あるいは、具体的にそれを実行する政策枠組みができない、議会で通らないなど、むなしいという意識が潜在的にないだろうか?大学の世界でも10年たたないうちに、研究の情勢、知見の蓄積は著しく変化し、従来の枠組みに固執する限り、研究者として存在価値が無くなる厳しい時代である。行政は、俗に言うならば 、井の中の蛙で、ガラパゴス化がもっと激しいのではないか。国がそういう傾向が強いので、県は動けないとおっしゃるかもしれないが、これからは、市町村と国の計画をつなぐ、県や地域の広域計画が環境対応として大きな意味を持つ時代に入ると思われる。県職員は、課長になる前に、世界的な水準で情報を理解し、大きなビジョンを持つ都市計画、地域計画、建築計画の博士号を社会人ドクターとして全員取得するぐらいの勢いをもち、新しい大きなビジョンのもとでの、挑戦的な政策の推進に思いを込めてほしい。そして、経済、環境、福祉、文化などの行政分野を空間計画として建築都市計画部局が仕切るのだというぐらいの気概をもって仕事をしてほしいと思う。細かい政策は大きなビジョンとそれを貫徹する意思があれば、いくらでも考え得る。
キーワード ビジョン構築、総合的推進力の強化、博士号取得