あいちの環境
里山保全活動マニュアル

 2.里山の成り立ちと自然



 2-2里山のダイナミズム

  話は木だけのことにとどまりません。里山(雑木林)のなかは多様な植物や動物の共存・共生の場となっていますが、それは定期的に伐採(更新)され、また毎年の下草刈りや落ち葉かきによって林床が豊かに保たれていることにより、はじめて成立する関係にあります。しかし、長年放置されていたためにその環境がすっかり崩れてしまったのが今日の里山の姿です。
  かつて雑木林は適当な大きさになると伐採されていました。木の成長は場所によって違うので、その結果、成長の度合いに応じて伐採の期間が異なるため、一つの山のなかに、伐採されたところとされていないところ、成長途中のところなど、異なる植生がパッチワーク状に展開していました。昔の雑木林、あるいは里山は、いま見られるように一面ほぼ単一の大きさの木が生えているような場所ではなかったのです。
  さらに、伐採の場所は順に移り循環させていました。雑木林は安定した植物群からなっていて、それが多様な姿を見せているというわけではなく、林床の植物は15年から、20年に一度伐採されることによって力を盛り返し、木が成長するにつれて衰弱し、再び木が伐られるのを待つというように、更新のローテーションによる非常にダイナミックな動きが多様な植物群を育んでいたのです。
  伐採されたばかりのところには日当たりのよいススキ草原で見られるミツバツチグリ、キジムシロ、ホタルブクロ、シラヤマギク、ヤマハギ、アマドコロ、クサボケ、リンドウ、カワラナデシコ、一部のキキョウ、オミナエシなどの草原植物が生え、伐採されていない部分との境界付近には、キツネノカミソリ、ヤマユリなどの林縁植物がありました。森のなかに入れば、林内植物があったのです。
 

  これらの植物の趨勢は、木々の成長に伴って変化しました。
  たとえば、木が伐られた部分では、それまで木々の下のほうで耐えていたヤマユリがいっせいに元気を取り戻す。数年後、萌芽した木が3mくらいに成長すると、そろそろ地表は陰り始めるが、このころヤマユリの球根は一番大きくなるので、花をたくさん咲かせ、種子を四方に飛び散らせます。
  その後は徐々に花が咲かなくなり、また次の伐採までじっと待つことになります。一方、雑木林にすんでいる動物は、植物のように次の伐採を待つのではなく、更新のローテーションに従って移動していきます。
  昔の山は遠くから眺めると、木のあるところとないところがパッチワークのように混在していて、いまの山のように一様な感じではなかったが、夏になると青々とした葉が茂っている部分もあれば、ところどころにヤマユリが一面咲いている部分があったりしました。どちらをきれいと感じるかは人によって違うかもしれませんが、多様な自然が存在したのは昔の山のほうだったといえるでしょう。


  里山の雑木林が多様な生物群で構成されているのは、人との関わりに負うところが大きいと言うことは流々述べましたが、そうした雑木林を守る植物群としてソデ群落、マント群落の存在が重要になっています。林縁や踏み分け道から、ちょうど雑木林の表皮、いわば着物にあたる欠かせない役割を果たす植物群落がそれであります。
  これは里山の植物還移の様子にも相当しており、裸地から1〜10年くらいの土地に出現する一年草、多年草のグループがほぼソデ群落にあたり、さらに10〜15年経ったあたりに占めてくる草本、低木類のグループ、これがほぼマント群落とみなされます。雑木林のソデ、マント群落が観光道路、住宅地造成などによって削り取られ、林内へ風や雨、雪、霜、太陽光線が急激に進入したり、車の排ガスなどの影響を強く受けると、雑木林の林床にあるヤブランやキンランなどの植物を荒廃させてしまいます。



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