はじめに

  河川の環境は、人々の生活を含む地域にとってはもちろんのこと、水辺の生き物にとっても大切なものです。本県では、自然環境とともに人と河川の良好な関係を取り戻すため、従前の治水・利水を中心とした川づくりから、治水・利水に加え、環境を調和する「多自然川づくり」を行っています。

「多自然川づくり」とは、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境や多様な河川風景を保全・創出するために、河川を管理することです。
「自然が川をつくる」を前提に、多様な河川環境に配慮し、人々が生活を営むために必要なことに適宜手を入れつつ、本来の川の姿に近づける川づくりを行います。


多自然川づくりアドバイスブック 


多自然川づくりの工法例


1.水制工

 川の流れによって河岸が削られるおそれがある場合に、河岸を守るために護岸工を施工しますが、河岸から沖に向かって突堤を出して水の主流が岸に当たることを防ぐことで河岸を守る方法もあります。この突堤のことを水制工といいます。

 水制工を設置すると、その周りには速い流れや緩やかな流れなど、いろいろな流れができ、水の中の生き物にとって暮らしやすい棲み場がつくられます。

明智川(豊田市:旧旭町)

市木川(豊田市)

矢作川(豊田市)

矢田川(瀬戸市)



2.柳枝工(りゅうしこう)

 洪水の時に河岸が削られたりしないように、石によって守るとともに、柳などの樹木を植え、その石が流されないようにする工法です。柳は水に浸かっても枯れたりせず、また水流にあたるとしなやかに倒れるため、洪水の流れをそれほど阻害しません。
 アシやマコモなどの水際の草や柳による緑によって、昆虫や魚などの棲みよい環境が保たれます。

鞍流瀬川(大府市)   工事後3年

工事完了直後

 

矢田川(瀬戸市)

太田川(豊田市)



3.石積み工

 石を積み上げ護岸は、石と石とに隙間ができ、昆虫などにとって棲み場となったり、水際と地中との移動が可能になったりします。

赤川(幸田町)

護岸拡大写真



4.カゴマット工

 大きな石が手に入りにくい場合、鉄線でかごを組み、その中に中ぐらいの石を入れたマットを積むことにより、石積み工と同じような効果が期待できます。さらに、カゴマットの上に土をかぶせることによって、草に被われた緑の護岸とすることもできます。

日光川(一宮市:旧尾西市)

天白川(名古屋市)

内津川(春日井市)


5.湿生植物の再生

 川の工事をすると、洪水が流れる部分を大きくするために川底を掘ってしまうので、湿生植物(湿ったところに生える植物)が減ってしまいます。このため、水の流れの緩いところをつくったり、水際に土がつきやすいように工夫をしたりして、湿生植物の再生に努めています。湿生植物が再生すれば、トンボなどの昆虫も戻ってきます。

新郷瀬川(犬山市)  再生工事後

再生工事前



6.河原の創出

 自然の川には、石や砂でできた河原や中州が所々にあり、ちょっとした増水によって水に浸かったり、形が変わったりする不安定な場所があります。この不安定な場所を棲み場とする生き物たちもいて、これらの生き物によって河川独特の生態系や風景がつくられています。これまでの川の工事は、普段の水の流れるところ(低水路)と大きな洪水のあった場合のみ流れるところ(高水敷)に分け、高水敷は公園や自転車道などとして利用されてきました。このため、川独特の不安定な場所である河原が減ってきています。
 これからは、河原を残したり回復することによって、川に特有の生き物たちの棲み場や風景を保全し、そして身近な自然の状態を、都市における貴重な緑地として人々から親しまれるように配慮します。

山綱川(岡崎市)

香流川(長久手町)



7.変化に富んだ水際線

 水辺の生き物が生活するには、水の流れのいろいろな変化とともに、水際線のいろいろな変化(多様性)も必要です。これまでの川の工事では、洪水を流すという目的に重点が置かれていたため、川の形が単調で多様性が失われていました。
 これからの川の工事では、単調化をできるだけ避け、多様な環境が生まれるような工事をしていきます。

朝倉川(豊橋市)  工事後2年

工事完了直後



8.早瀬の創出

 早瀬や淵など川の流れの多様性は、川の生き物にとって多様な棲み場となります。これまでの川の工事では、急勾配で流れの速い所を緩い勾配にし、落差工を設けていましたが、流れの多様性が失われてしまいました。そこで、速い流れでも川底や河岸が掘れないような対策をして早瀬を創り、生き物の多様な棲み場を確保します。

仁王川(豊田市)  通水後

工事完了直後



9.魚道の工夫

 魚など水中に暮らす生き物は、川を上下に移動して生活しています。しかし、落差工や堰など上下方向の移動を阻害する構造物が多くあります。これらの構造物は、川底や河岸が異常に掘られるのを防いだり、川から用水を取ったりするために設けられています。
 このため、川を上下する水中の生き物が上り下り可能なように魚道が設けられます。
 魚道には、落差工の一部を改良したものや、全面的に早瀬のようにしたものなどがあり、堰などの利用目的などに応じて設置しています。

大入川(新城市)

野田川(新城市)

飯野川(豊田市:旧藤岡町)

巴川(新城市:旧作手村)

籠川(豊田市)

籠川(豊田市)  全景


10.水辺の緑の回廊整備

 河川の自然は、単に河川内でのみ孤立するものではなく、周辺の緑と連携することにより、流水・水際・河岸・背後地を含めた環境遷移帯(エコトーン)や、上流域から下流域へと続く水と緑の回廊(コリドー)を形成し、生き物の連続的な生息空間や移動経路など生態的な環境要素を構成します。河畔林はその軸となるものです。また河畔林を含む川の風景は、地域固有の景観を形作る重要な要素ともなります。
 本県では、治水上支障のない河川区域に、当地の環境に最も相応しい樹種、例えば、カシ、シイ、タブ、エノキ等を植樹し、河畔林の形成に努めています。また、植樹は地域の方々の参加によって行い、地域の方々と協働でよりよい川づくりに取り組んでいます。


植樹作業  朝倉川(豊橋市)

植樹作業  矢田川(瀬戸市)

植樹作業  逢妻女川(豊田市)

植樹後半年 逢妻女川






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