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第13回愛知まちなみ建築賞

[2006年2月15日]

総評

            愛知淑徳大学教授   日色 真帆  

 都市の中に何かを構想するのであれば、何をするのがよくて何をしないのがよいか考えさせる作品が多かった。新たな建物を加えるか、既存建物を残すか、部分を活用するか、樹木を残すか、あらたな植栽を計画するか、そこにルールや変わらぬ正解などないはずで、それぞれの状況で真摯に検討し導き出されたものが選考に残ったように思う。
 「愛知淑徳大学9号館(語学教育センター)」は、大スパンのピロティが見通しのよいゲートとなっている。キャンパス内から振り返ればガラスブロック面が軽快な印象で、郊外に立地する大学の入口に、現代的な表情を与えている。
 「旧加藤商会ビル」は、納屋橋のたもとに建つ、記憶に残るランドマーク的な小建築を、丁寧に保存再生している。建物外観に関してはもっぱら復元に努めていることが適切で、さらに周辺の整備を誘発することが期待される。
 「栄三丁目ビルディング・LACHIC」は、久屋大通の31mの軒高をデザインに取り入れており、白いタイルとガラスの四角い立面に、正方形のテラス、斜めやカーブの壁面などで変化を加え、清潔な華やかさを与えている。
 「中部国際空港旅客ターミナルビル」は、シンプルで、分かりやすく、ショッピングも楽しめる施設となっている。国際空港は、都市の顔としてのシンボル性が強調されることが多いのだが、このような肩の力の抜けた姿が現代の日本なのだろう。
 「徳川園」は、人々の期待が大きい「名所」の整備である。江戸時代の大名庭園の特徴であった、池を回り眺めを楽しみ、教養を深め交歓する場が、様々な時代の建物である美術館、レストラン、ビジターセンターなどを織り込むことで、現代につくりだされている。
 「ノリタケの森」は、産業遺産である煙突群や工場解体時のレンガを活用し、ススキなどを活かした植栽の中に施設を距離を置いて配置している。都市の中に貴重な休息の場所を提供しており、植物の生長が楽しみな風景である。
 「三好町の家」は、植栽豊かな庭をきわめてオープンにつくり、新しい住宅地の景観形成に積極的に関わろうという施主と設計者の意欲がよく表れている。
 応募作品には、建築デザインともランドスケープデザインとも分類がむずかしい、まさにまちなみの風景と呼ぶにふさわしいものが増えている。「たたずまい」の質が問われる時代なのだろう。その上でさらに期待したいのは、無難で安易な道を選ぶのではない勇気ある構想である。  

愛知淑徳大学9号棟(語学教育センター)

撮影 平井広行(Hiroyuki Hirai)

概要

所在地:愛知郡長久手町大字長湫字片平
建築主:学校法人愛知淑徳学園
設計者:株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:大学
構造:鉄骨造
階数:地上3階
敷地面積:107,177.88㎡
建築面積:1,093.42㎡
延床面積:2,744.41㎡

講評
       五十嵐太郎

 名古屋郊外の大学の入口につくられた教育施設である。まず視界に飛び込む、吊り構造による大スパンのピロティは、顔のはっきりしなかったキャンパスに対して、ゲート的なシンボルになると同時に、その下をカフェ的な憩いの空間として学生に開放している。ともすれば、大学の施設は単調な外観をもつ大きな箱になりがちだが、ここでは隣接する建物や道路と呼応しながら、適度なヴォリュームに分節し、軸線をずらしている。その結果、9号棟は威圧感を減らし、各方向への眺望を獲得した。
 また、ガラスカーテンウォール、波板ガラス、ガラスブロックなど、異なる透過性をもつ素材を用いることで、それぞれの外壁の表情に変化を与えたり、アクティヴィティを演出している。ゆえに、愛知淑徳大学9号館は、周辺の環境を踏まえたうえで、洗練された建築的な手法により、新しい風景の創出に寄与したことが評価できるだろう。


旧加藤商会ビル

写真提供 名古屋市

概要

所在地:名古屋市中区錦一丁目
建築主:名古屋市
設計者:名古屋市住宅都市局営繕部 株式会社東畑建築事務所名古屋事務所
施工者:徳倉建設株式会社

主要用途:市民ギャラリー+飲食店
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下1階地下4階 
敷地面積:99.85㎡
建築面積:75.23㎡
延床面積:310.52㎡

講評
       有賀 隆

 名古屋都心の納屋橋袂・北東角に建つ旧加藤商会ビルは、名古屋城と名古屋港とを結び景観上の南北軸ともなっている堀川と、多くの人やものが行き交い多彩な社会・経済活動を支える都市基盤の東西軸となっている広小路通りという2つの骨格の交点に位置し、まちなみ形成と潤いあるまちづくりへの寄与という視点から極めて重要な場所性、空間性を有する建物である。
 オリジナルの建物は昭和6年頃の建築と言われ大正時代の様式を伝える貴重な近代資産として国の登録有形文化財にも指定されているが、平成15~16年度にかけて建物の保全と利活用を目的とした大規模な内外装の改修・修復工事が施され、現代の都心風景に名古屋独自の歴史と文化のまちなみを伝えるアイコンとして甦った。
 改修・修復の設計には、ファサードや開口部など建物外観に見られる元々の優れた建築様式を可能な限り継承しつつ、同時に新たに市民ギャラリーと商業店舗をテナントとして持つ屋内空間の再生とを両立させるための工夫が随所に見られる。特に納屋橋界隈のまちなみの個性化を際立たせるため、竣工時のものと考えられるテラコッタや花崗岩などの外装材を積極的に残しつつ、新たに開口部周りに付加された金属製ガラリなどは欄間部分に組み込むなどの方法で本来のプロポーションを崩さない工夫が見受けられる。
 また堀川や広小路通り側からの歩行者の視線に配慮し、建物屋内の諸機能によって窓ガラス面が塞がれる事の無いよう、開口部をショーウインドー的な位置づけとしたのは効果的である。歴史的・文化的資産が現代のまちなみづくりの文脈の中で新たなモチーフとして解釈され、生きた建築空間であり続けること、さらに今後の堀川、広小路通り沿いの賑わい景観づくりの展開へと大きくつながっていく事を期待したい。 


栄三丁目ビルディング・LACHIC

写真提供 スタジオムライ(村井修)

概要

所在地:名古屋市中区三丁目
建築主:栄三丁目6番街区市街地再開発組合
設計者:株式会社日建設計
施工者:清水・大成・鹿島・大林・三井住友・五洋・大木・矢作・銭高JV

主要用途:物販店舗・飲食店舗・事務所・駐車場
構造:鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造
階数:地上12階、地下4階、塔屋2階
敷地面積:6,348.80㎡
建築面積:5,609.83㎡
延床面積:69,969.17㎡

講評
       伏見清香

 名古屋の栄地区、三越に隣接するラシックには、従来の百貨店に多く感じられる閉鎖的な箱のイメージがない。外壁はガラスと白を基調とし、ガラス越しに外の光や街の風景を取入れ、外部にも館内の人の動きを伝えている。
 夕暮れ時、人の気配が感じられる外壁越しのあかりは、まちなみに、ほっとする安らぎや安心感を提供している。大津通りと久屋大通りを結んだ空間は、1階から3階までを吹抜けとし、館内に開放感を与え、新たな人の流れをつくり出している。レストラン街である7階8階にも一体感のある吹抜けがあり、広がりを感じさせる。
 一方、水平方向には、あえて視線を遮り、来館者の期待感を高める動線計画も行われており、屋外の路地を演出している。建物内部に街をつくり、建物内外で互いの空気を感じさせ、栄のまちなみと自然な繋がりの試みが新鮮である。ちなみに愛煙家の友人は、なにより喫煙コーナーが居心地がよいと大変お気に入りである。


中部国際空港 旅客ターミナルビル

写真提供 スタジオムライ(村井修)

概要

所在地:常滑市セントレア一丁目
建築主:中部国際空港株式会社
設計者:日建・梓・HOK・アラップ・中部国際空港旅客ターミナルビル設計監理共同企業体
施工者:大成・鹿島・大林・東急・戸田・ベクテル・佐藤・矢作共同企業体 竹中・清水・鴻池・飛島・フジタ・ロッテ・名工・徳倉共同企業体

主要用途:空港施設(旅客ターミナル)
構造:鉄骨造
階数:地上4階
敷地面積:4,733,339.05㎡
建築面積:84,492.05㎡
延床面積:219,224.77㎡

講評
       梅田俊比古

 伊勢湾と三河湾に囲まれた、尾張・知多半島の常滑沖に“ポッカリ”と浮かんだ海上空港(ハブ空港)、2005年3月25日、日本国際博覧会「愛・地球博」が開催される年、中部圏の新しいゲートウェイとして、中部国際空港(セントレア)が誕生した。
 三層吹き抜けの開放的大空間、ガラス面を多用したスッキリとしたT字のデザイン、また、人にやさしいユニバーサルデザインを取り入れた設計、施設配置においても、中央に管理棟、商業施設、国際線と国内線を南北に配置し誰にも使いやすくわかりやすい、シンプルかつコンパクト、そして機能的な配置、アクセスにおいても知多横断道路、鉄道の乗り入れ、海上からの交通、大変便利である。
 海と空という素晴らしい景観に恵まれた見学に来た人にとっても魅力いっぱい、まさに21世紀の新空港として世界に誇れる素晴らしい建物、施設であり、まちなみ建築賞にふさわしい作品である。


徳川園

写真提供 車田写真事務所(車田 保)

概要

所在地:名古屋市東区徳川町
建築主:名古屋市
設計者:名古屋市住宅都市局営繕部 株式会社日建設計
施工者:竹中・ヒメノ特別共同企業体

主要用途:博物館
構造:鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造
階数:地上2階、地下1階
敷地面積:44,732.48㎡
建築面積:3,387.97㎡
延床面積:6,449.87㎡

講評
       山内彩子

 徳川園は、尾張徳川家ゆかりの大曽根屋敷跡である徳川美術館(既存)を含めた一体のエリアに新たなコンセプトをもたせたゾーニングが計画され、再整備されたものである。
 園内は、敷地内の歴史ある建築物の保存、再生や、既存の地形や樹林、池を生かした庭園の計画により、全体が修景され、まとまりのある1つのエリアとして公開されるに至った。
 庭園の整備の手法は、高低差のある地形に一定以上の道幅でバリアフリーな園路がはりめぐらされ、手摺の設置をはじめとする様々な安全・セキュリティへの配慮や管理面での配慮が随所に感じられるなど、日本庭園として見ると、古式ゆかしき情緒的な意匠というよりは、管理された都市公園の様相が強い印象をもったが、これも時代に即した日本庭園の1つのありようなのだろう。
 文化施設として、また庭園そのものとしてはさらに時間を経て評価されるのを待ちたいものであるが、屋敷跡のまとまった地所が、時代を超えて地所の沿革当時の文化を伝える使命を担い、誰もが訪れることのできる施設として再整備されたことは、地域の特色ある景観に調和するだけでなく景観を先導するものとしての意味をもつものと考えられた。


ノリタケの森

写真提供 (有)KEN青山写真事務所(青山賢三)

概要

所在地:名古屋市西区則武新町三丁目
建築主:株式会社ノリタケカンパニーリミテド
設計者:大成建設株式会社
施工者:大成建設株式会社

主要用途:商業・公園
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:地上3階、地上2階
敷地面積:44,960㎡
建築面積:6,340㎡
延床面積:14,083㎡

講評
       岡田憲久

 ものづくり愛知の、近代産業を象徴する焼き物生産工場の跡地が、一企業により市民の憩いの広場として公開されている。洋食器などの陶磁器製品で知られるノリタケカンパニーリミテドが整備した「ノリタケの森」である。都心である名古屋駅のすぐ近くに約4.5haもある、誰もが利用できる緑のゾーンが広がることがまず、すばらしい。
 南のゾーンは赤レンガの工場建築群が時代の重みを持ちつつ都市のおしゃれさをまとい、ミュージアム、ショップ、レストラン,カフェなどに姿を変えている。建物の間の緑と水の演出も空間のスケールにうまく対応している。10メートルの高さに切断された6本の煙突と、工場を壊した破片のレンガを積み上げた擁壁の造形は大胆であり、北に広がる緑の広場とをつなぐ要になっている。よく管理された芝生の上でくつろぐ小さな子供連れの来訪者の姿に、カフェで憩う老カップルの姿に、都市文化の熟成を感じ、名古屋の都市の暮らしも捨てたものでもないと思う。生きた深い森に育ってほしいと願う。


三好町の家

撮影 井上英世志

概要

所在地:西加茂郡三好町明知みなよし台
建築主:深谷哲也・美奈
設計者:佐々木敏彦/大久手計画工房+糟谷護
施工者:株式会社水野工務店

主要用途:専用住宅
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:289.15㎡
建築面積:90.05㎡
延床面積:114.10㎡

講評
       尾関利勝

 住まいづくりをとおしてまちの風景をつくる気概を感じる。
 郊外住宅地の多くは、時代性やメーカーの特徴はあるにせよ、規格化された住宅が建ち並び、一目でそれと分かる全国一律の風景が展開する。供給後間もない住宅地は、未建築造成地の中に建物だけが建つ宅地が混じり、緑のない広漠とした風景からは生活感を感じることはない。
 この建物の施主と設計者は新興住宅地にありがちな生活感のない風景を超え、雑木林に囲まれた馴染みのある町並みの風情をつくることを、住まいづくりをとおして試みようとした。その気概がこの緑に囲まれた住宅から読み取れる。近隣への借景となることを志し、通常ありがちな塀や垣で囲うことをさけ、敢えてまちに開かれた庭を敷地のそこかしこに設けることで、あたかも見慣れた林の中に建つ住宅のような生きた風景をつくり出した。ややもすれば自己主張しがちな建物のデザインが多い中で、ここでは周囲との関係性を重視して階高を低くした結果、取り囲む緑に消されてさほど目立たせない。光と空気の流れの連続性や回遊性の高い間取り、緑に開かれた大きな開口部を取る設計には、住まいの居心地の良さを十分に感じさせる。まちなみ建築賞にふさわしい優れた住宅づくりとして高く評価できる。 


第13回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識のもと、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
  ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
 2、地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●オープンスペースの緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

  (50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)
  有賀 隆(名古屋大学大学院助教授)
  五十嵐太郎(東北大学助教授)
  梅田俊比古(愛知建築士会会長)
  岡田憲久(名古屋造形芸術大学教授)
  岡田利一(愛知県建築士事務所協会会長)
  尾関利勝(日本建築家協会東海支部愛知地域会会長)
  都築 敏(特定非営利活動法人ビジュアルコンテンツプロダクトネットワーク理事長)
●日色真帆(愛知淑徳大学教授)
   伏見清香(広島国際学院大学助教授)
  山内彩子(東風意匠計画代表)
  山北康雄(愛知県建設部理事)

(敬称略 五十音順 ◎選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県

後援
 愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会 愛知県都市計画協会 中部経済同友会

協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築士事務所協会  (社)日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会

お問い合わせ

建設部 公園緑地課
景観グループ
電話: 052-954-6612
内線:2669、2678