総評

            愛知淑徳大学教授   日色 真帆  

 大規模な建築が次々とつくられても、まちなみに新しさとふさわしさを適切に生み出している例は多くないのだが、「名古屋ルーセントタワー及びそのアートワーク」は、緩やかな曲面の形状や、足元回りのアートや植栽などが洗練されていて、働く場としての快適さが適切につくりだされている。このような点を高く評価して、今回、審査委員会では大賞とすることで一致した。
 大賞作品が示しているように、まちなみに対して建築やランドスケープのあり方はさまざまで、こうすればよいという決まりがあるわけではない。重要なのは適切さで、新たな建築をつくるという貴重な一回限りの状況で、関係者がどれだけ真剣に適切さを追及したかが表れるものなのだろう。
 「泉町の家」は、のどかな環境に対して、実に開放的な構えの、軽快な住まいである。閉鎖的になりがちな現代ではうらやましいほどで、設計者が施主と話し合う中から適切な解答を引き出しているのがわかる。
 「INAXライブミュージアム 土・どろんこ館」は、常滑旧市街に程近い、陶器に関連したミュージアム群に新たに加わった施設である。版築の擁壁や壁面は印象的で、「土」というテーマが全体に一貫している。
 「暮らしの学校」は、岡崎駅近くに古くからある工場敷地につくられたカルチャースクールである。既存の建物を活かした建築群、地元木材の利用などさまざまな点に、まちに貢献していこうという意欲がよく伝わってくる。
 「提灯&カフェ 犬山おどき」は、控えめでありながら個性を感じさせるデザインの改修で、犬山のまちなみに魅力を加えている。格子のステンドグラス、サインとなる照明、新たに植えた柳の木など、よく考えられた上品さが感じられる。
 「ナゴヤ セントラルガーデン」は、今まで印象が薄かったエリアに、新たに展開している大規模な住宅地開発である。ゆったりした歩道空間があり、住戸駐車場の地下化によって多くの植栽がとられていて、街が成熟することが楽しみなものとなっている。
 「MARUWA瀬戸寮」は、ともすれば迷惑な建築となりかねない独身寮を、会社のイメージをアピールするものと位置づけて、造形された外部空間と照明の演出で、まちなみに積極的に参加している。
 応募作品には、古い街並みでもなく自然豊かでもない場所につくられた建築も多い。手掛りの少ないそのような場合は、何が適切なあり方か難しくなるのは当然である。しかし、凡庸に見えるまちなみに対して、何とかして取り組んでいる仕事にもエールを送りたいと考えている。

〜愛知まちなみ建築賞大賞〜

名古屋ルーセントタワー及びそのアートワーク

撮影 株式会社エスエス名古屋、谷裕文

概要

所在地:名古屋市西区牛島町
建築主:牛島市街地再開発組合
設計者:株式会社日建設計、有限会社TOSHIO SHIMIZU ART OFFICE
施工者:大成建設株式会社 名古屋支店

主要用途:事務所、店舗、変電所
構造:鉄骨造 一部 鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造
階数:地下3階、地上42階、塔屋1階
敷地面積:14,100.54u
建築面積:7,504.46u
延床面積:131,355.96u

講評
        山内 彩子

 再開発事業を伴う超高層の建築は、事業規模の大きさからも評価方法には多様な視点が必要だ。事業コンセプト、環境やまちなみへの直接、間接的な影響から、そのフォルムやパブリックスペースのありよう等、すべてに総合的な目が向けられることになる。
 名古屋ルーセントタワーは、名古屋駅前の北地区に、都市再生を先導する事業として建設された施設である。中高層階はオフィス、地下−低層階が店舗、40 階に展望レストランがあり、地下には次世代の電力需要に対応する超高圧変電所が設けられた。
 建物へのアクセスは、地上、地下道の2種類で、名古屋駅から建物に至る地下道やパブリックスペースに、7 つの新鋭のアートワークが企画され、インテリアやランドスケープ に活力を与えている。地下の長い通路を退屈させないアート空間、外観の曲線のフォルム、ランドスケープデザインすべてが、地上や空からのわかりやすいシンボル空間を成しえている。
 本件は超高層が増えつつある名古屋駅前にあって、「次世代のビジネス拠点」というテーマに見合った環境空間の実現手法として、建物・ランドスケープとアートワークを融合させ、名古屋の新しいまちなみの創出に寄与する存在となった。こうした総合的な試みがまちなみ建築賞大賞に値するという評価となった。


泉町の家

撮影 鈴木光雄建築工房

概要

所在地:豊田市
建築主:加藤博美 由美子
設計者:鈴木光雄建築工房
施工者:吉富工務店有限会社

主要用途:専用住宅
構造:木造
階数:地上1階 
敷地面積:329.38u
建築面積:124.43u
延床面積:106.00u

講評
       長瀬 幸男

 豊田市郊外に建つこの住宅は、軒を低く抑えた切妻屋根や木を活かした外観が緑豊かな自然の風景の中に見事に溶け込み、縦格子を使った玄関ポーチが落ち着きのある存在感を持たせている。
 周囲には塀や生け垣を設けず既存の低い石垣をそのまま活かすとともに、建具を全て開放することで室内と外部とのつながりを持たせ、都心では実現できないほどの開放的な空間を創り出している。
 また、大きな軒下いっぱいの濡れ縁を造り、近所の人たちとの昔ながらのコミュニケーションの場を形成している。
 地域の景観に調和し、魅力と潤いのある空間を創り出しており、まちなみ建築賞にふさわしい住宅である。


INAX ライブミュージアム 土・どろんこ館

写真提供 株式会社INAX

概要

所在地:常滑市奥栄町一丁目
建築主:株式会社INAX
設計者:南の島工房 一級建築士事務所
施工者:株式会社 東海エコン

主要用途:博物館
構造:RC造ラーメン構造一部木造
階数:地上2階
敷地面積:1,891.91u
建築面積:467.99u
延床面積:587.70u

講評
       服部  滋

 「土・どろんこ館」は、ともに新設された「ものづくり工房」や既設の「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「陶楽工房」とともにINAXライブミュージアムを構成 している。
 元々、常滑特有の狭く見通しの悪い路地や坂道と、木造の工場で構成されていた場所を、数年にわたって分棟式の建物と広場、駐車場の分散配置で構成し直したものである。企業博物館というと、塀やフェンスに囲われた大きな建物と大駐車場で作りがちであるが、INAXライブミュージアムは、街並みにとけ込むスケールを持ち、閉館時間にも建物内以外は自由に出入りできるように街にひらかれている。
 「土・どろんこ館」は、アプローチの駐車場に面し、外壁および擁壁を版築で作ったり、緑で修景することによって、やきものやそれを生み出す土をテーマに、独特の温かみのある風景を作り出している。この賞の選考基準の「地域における新しい建築文化の創造」「街並みに調和し、魅力的な景観の形成」「魅力と潤いのある空間の創造」のど れをとっても、賞に値するものと考えられる。


暮らしの学校

撮影 株式会社コンフォートメディア 小原淳

概要

所在地:岡崎市羽根町若宮
建築主:財団法人 服部公益財団
設計者:株式会社コンフォートメディア、小原木材一級建築士事務所
施工者:小原木材株式会社

主要用途:カルチャースクール
構造:改修部分:木造(一部鉄骨) 新築部分:RC造
階数:改修部分:地上2階 新築部分:地上2階
敷地面積:約28,000u
建築面積:改修部分:311.96 u 新築部分:273.45 u
延床面積:改修部分:380.97 u 新築部分:408.82 u

講評
       都築  敏

 文明は発達し、我々は物質的には豊かになった。しかし、精神的な豊かさを果たして得たといえるのだろうか。この疑問は戦後の貧しさの中から始まり高度成長期を経た年代にとって、常に頭の中にうずくものではないだろうか。
 そのような疑問の中から人間回帰・自然回帰(ルネッサンス)を図るコミュニティの場としてこの建物は作られた。構想は10年に達し、道路拡張による旧居宅の一部移転を契機として、厨房設備メーカーである服部工業の過去4代にわたる社長宅を改造し、白壁の蔵を移設し、植栽をそのままとし、この場にカルチャーセンターが開校した。
 低層階の建物群の内外装には地元産の三河杉を用い、周辺の建設中のマンションと非対称の景観を作り出している。今後は同一敷地内での拡張を予定する。
 魅力と潤いのある空間の創造に寄与するものとして、そしてルネッサンスを発信するコミュニティの場として、更なる発展を願うものである。


提灯&カフェ 犬山おどき

撮影 滝田良彦

概要

所在地:犬山市名栗町
建築主:青井 琳
設計者:日比野万喜男建築設計事務所
施工者:株式会社成正建装

主要用途:店舗
構造:木造
階数:地上1階
敷地面積:200.00u
建築面積:96.84u
延床面積:96.84u

講評
       伏見 清香

 犬山城の旧城下町にあるこの店舗は、犬山提灯など「あかり」の工房を見ながら、カフェを楽しむ空間として、築100 余年の建築を可能な限り残しながら、木造建築を改修している。
 通りから見ると、屋根の水平線とステンドグラスの入った引き違い戸や柱の垂直線で構成された直線的なイメージの中に、白い暖簾や新たに植えられた柳が、そよ風になびいて柔らかく清々しい雰囲気を演出している。また、色ガラスや赤い毛氈がアクセントカラーとなり、入り口に締まりを与えている。
 これらのことから、地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているものとして、この建築は評価できると考えられる。
 生活の中にとけ込み生きている建築は、そこに関わる人々によって時間とともにその表情を変化させていくが、店舗のスタッフだけでなく、ここを訪れる観光客も含めた人々により、この建築の表情やまちなみがさらによい方向に変化することを期待したい。


ナゴヤ セントラルガーデン

写真提供 株式会社三菱地所設計

概要

所在地:名古屋市千種区高見二丁目
建築主:ジェイアール東海不動産株式会社、三菱地所株式会社名古屋支店、三菱商事株式会社
設計者:三菱地所設計・大成建設設計共同企業体
施工者:大成建設株式会社名古屋支店

主要用途:共同住宅・店舗・駐車場他
構造:共同住宅 : 鉄筋コンクリート造(免震構造) 店 舗 : 鉄骨造
階数:共同住宅 : A・B棟 地上13階・地下2階 C棟 地上13階・地下1階 店 舗 : 地上1階又は2階
敷地面積:共同住宅 : A・B棟 7,470.53 u C棟 3,676.90 u 店 舗 : 13,196.60 u(5棟合計)
建築面積:共同住宅 : A・B棟 2,811.78 u C棟 1,516.46 u 店 舗 : 2,131.50 u(5棟合計)
延床面積:共同住宅 : A・B棟 23,172.78 u C棟 11,247.24 u 店 舗 : 2,727.20 u(5棟合計)

講評
       有賀 隆

 既成の市街地において新たな街並形成や景観整備を行う際に求められる重要な計画視点の一つは、街路や街区といった公共的な基盤施設と、その上に生み出される個々の建築空間やランドスケープとを効果的に連携させ、一体的な市街地像として創造するアーバンスケールのデザインを実現する事であろう。
 「ナゴヤ セントラルガーデン」は、そうした視点から、企業の社宅跡地と敷地内及び周辺の市道とを一体的に整備、再生する「地区計画」として位置づけ、そこに新しい都心居住の像を生み出す集合住宅群と生活関連商業施設、そして地区施設としての公園、広場、緑地、緑道、歩行者専用道路などを総合的に計画、実現したまちづくりプロジェクトである。
 この計画では「一団地認定」 を受ける事で複数の高層住棟を比較的自由に配置する事ができ、計画地中央を南北に貫くシンボルロードの沿道性に配慮した建物配置に成功している。他方、沿道の公開空地と集合住宅敷地との境界線や、広場の外周に設置された縦桟状のフェンスは歩行者の目線をはるかに越える高さまで設置されており、この事が新たに生み出された開放的な街並を空間的にも心理的にも阻害する一因となってしまっている。
 優れた街並や都市景観が公共空間V.S.民間敷地という構図を越えて、人々の生活行為や都市活動が連続して映し出される場であることを考えると、今後の敷地境界の管理方法も含めた沿道景観のさらなる熟成に期待したい。


MARUWA瀬戸寮

撮影 加藤敏明

概要

所在地:瀬戸市一里塚町
建築主:株式会社MARUWA
設計者:株式会社竹中工務店名古屋一級建築士事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:単身寮
構造:RC造
階数:地上1階
敷地面積:2,304.54u
建築面積:366.18u
延床面積:327.13u

講評
       市川 三千男

 瀬戸市役所より車で東へ約4qくらい走ったところで、33号線一里塚バス停の北の位置に洗練されたデザインのMARUWA瀬戸寮がある。シンプルですっきりしているのに不思議な存在感を持った建物である。駐車場に車を止めると、おもちゃ箱の中を覗いてみたいような衝動に駆られ思わず住居の中に足が進む。設計、監理、施工共に細部にまで気遣った作品であると同時におおらかな施主の思いがよく現れていると感じられた。入居者に住み心地を一言聞いてみたいものだと思いながら拝見した。照明のショールームを兼ねた単身寮であることが特に印象的で、照明効果、配色の楽しさ、植裁や外構等の陰影効果も充分配慮されており、この地域のランドマーク的な役割を果たしていると思う。
 デザイン、構造については写真を見れば一目瞭然であるが、平屋建てで上下2本の美しい水平ラインが緊張感を与える。前面道路から眺めれば西から東へとその表情が変化し、北側へ回ると幾何学的なデザインの各戸の玄関へと誘われる。
 数年後、アベリアの樹がしっかり根付いて枝葉がいっぱいに繁った頃、もう一度来たいと思った。 


第14回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるということを認識のもと、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や、潤いあるまちづくりに寄与するなど、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物、又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1.地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
 ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
 ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
 2.地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
 ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
 ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
 3.魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
 ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
 ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4.その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)
  有賀 隆(早稲田大学理工学術院教授)
  五十嵐 太郎(東北大学准教授)
  市川 三千男(愛知建築士会会長)
  岡田 憲久(名古屋造形芸術大学教授)
  岡田 利一(愛知県建築設計事務所協会会長)
  都築 敏(特定非営利活動法人ビジュアルコンテンツプロダクトネットワーク理事長)
  長瀬 幸男(愛知県建設部建築担当局長)
  服部 茂(日本建築家協会東海支部愛知地域会会長)
●日色 真帆(愛知淑徳大学教授)
  伏見 清香(広島国際学院大学准教授)
  山内 彩子(東風意匠計画代表)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県

後援
 愛知県市長会、愛知県町村会、愛知県商工会議所連合会、中部経済同友会、愛知県都市計画協会

協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築設計事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、
 (財)東海建築文化センター、中部デザイン協会

お問い合わせ

建設部 公園緑地課
景観グループ
電話: 052-954-6612
内線:2669、2678