第16回愛知まちなみ建築賞

総評

            愛知淑徳大学教授   日色 真帆  

 まちに対する構えに特徴のある作品が選ばれたように思う。構えというのは、周囲の都市的環境に対する間合いの取り方のようなもので、押すか、引くか、組むか、かわすか、どう構えるかはそれぞれの状況で探るべきものだろうが、はっきりした姿勢をもつ建築は小気味好い。
 大賞に選ばれた「モード学園スパイラルタワーズ」は、見えを切っている。旋回して踊るような姿は眺める方向や角度によって異なり、どこから見ても主張の強い構えである。選考委員会では、賛否両論、盛んに議論が交わされた。 超高層ビルに対して、無難な道を選ばなかった関係者の潔さと努力とが慮られ、時代の表現になっているとして評価した。
 「安城の家」は、街路の一部と見紛うほど開かれている庭と、まちから守られ内側に開いた中庭という、対照的な外部空間で構成された住宅で、ゆったりした郊外の環境に対する興味深い構え方をしている。
 「C Forest V+喜多福總本家」は、広小路の繁華なまちに面する隣り合った2つの敷地に、スリットを挟んで鏡映しのように建てられた店舗ビルである。アクセントとして気が利いていて、まちを歩くのが楽しくなる。
 「J's. biz. a:ile」は、新しく造成された住宅地と林とのエッジにあり、拡がりのある風景に置かれたように軽々と建っている。驚くほど張り出しながら威圧的に見えないのは巧みで、通り過ぎる車から見るスケールにも似合っている。
 「長久手町青少年児童センター・長久手町立色金保育園」は、楕円形の2つの建物と、築山や土の広場、植栽などがつくりだす風景が、子どもたちが自由に過ごす場所にふさわしいゆるやかさを醸し出している。
 「碧南市藤井達吉現代美術館」は、まちの誇りといえる伝統的景観に向き合う場所に、建物の転用によってつくられた美術館で、立地も用途も優れた選択で、極めて今日的な計画である。むずかしいデザインに取り組んでおり、後につづく各地の試みにとっても参考になることだろう。
 「村井歯科」は、不整形の敷地に既存樹木も取り込みながら建て替えたもので、複雑でひだの多いオープンスペースの取り方に、場所との応答の様子がうかがえる。この場所に建築主が愛着を持ち、設計者や施工者がそれに応えていることがよくわかる。
 世紀をまたいだ16年間の愛知まちなみ建築賞の歴史を振り返ると、場所の特徴の読み解き方、環境との応答の仕方、新しい提案の仕方などが豊富になり、着実に洗煉されてきたことがわかる。世の中の人々の眼は肥えてきており、より質の高い景観が期待されている。

〜愛知まちなみ建築賞大賞〜

モード学園スパイラルタワーズ

撮影 スタジオムライ

概要

所在地:名古屋市中村区名駅四丁目
建築主:学校法人 モード学園
設計者:株式会社日建設計
施工者:株式会社大林組名古屋支店

主要用途:専門学校・店舗(地下階)
構造:鉄骨造 (柱CFT)・一部鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地下3階・地上36階・塔屋2階
敷地面積:3,540.06u
建築面積:2,365.75u
延床面積:48,988.96u

講評
        五十嵐 太郎

 新しい名古屋の顔となるビルがようやく誕生した。むろん、高さでは名古屋ルーセ ントタワーやミッドランドスクエア、JRセントラルタワーズの方が上である。だが、 スパイラルタワーズは、ねじれた造形ゆえに、一般の人にもそのキャラクターがすぐ に記憶される圧倒的な個性をもつ。お行儀のいいビジネス・スーツ・ビルを増やす凡庸な再開発が続く、東京にも大阪にもない。あえて言えば、日本では珍しいドバイ型 のアイコン・タワーである。冒険を避ける風潮のなかで、評価されるべき野心的なプ ロジェクトといえよう。
 スパイラルタワーズは、彫刻的な外観ゆえに、複雑な平面の処理をこなし、思い切っ たエレベータのシステムを導入している。難しい施工に対しても、合理的な解決での りきった。東海大地震を想定し、屋上制震や制振カラムも使う。日建設計のデザイン力、コンピュータ解析を用いた構造設計、そして洗練された職人の仕事が融合し、21世紀初頭という時代性を刻み込んだランドマークは生まれたのである。

安城の家

写真提供 I.M.A.


概要

所在地:安城市篠目町
建築主:野々田 亨、野々田 仁美
設計者:I.M.A.
施工者:株式会社 ナカシロ

主要用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造
階数:地上2階 
敷地面積:578.83u
建築面積:243.90u
延床面積:220.33u

講評
       都築 敏

 日本のデンマークとうたわれた安城市は、現在、アイシンAWをはじめとするトヨタ系列企業やマキタを有する、農業と工業との調和が整ったまちとなっている。その安城市内の北西部、篠目(ささめ)町の一区画が新興住宅地域として開発され、その最も西の端にこの家はある。
 道に迷いながら車を進めたのであるが、“清風が漂う”というものが、この建物が目の前に唐突に現れたときの私の第一の印象であった。文字通り、清爽であると同時に、家の回りを思うがままに優しく吹き抜ける自然の風を感じたのであった。塀をあえて置かず、道と連続する敷地内に街路樹といった趣のエゴノキを配することによって、その外庭は街と渾然たる風景となっており、建物壁面に焦げ茶の杉板を置き、概ね平屋建てであることも相まって、威圧感のない柔らかな風貌を作出している。雲を浮かべた青い大空に、優しく抱かれるような有り(あり)様(よう)がそこにはあった。
 家は人の住む建物であると共に、その地域を構成する構造物であり、また、私たちをとりまく自然環境の中の人工物でもある。その全てに適し、その全てに融合することは難しい。この建物はこれらを調和させようとし、かつ、その試みは希有にも成功している、と感じた。


C Forest V + 喜多福總本家

撮影 車田写真事務所

概要

所在地:名古屋市中区栄一丁目
建築主:株式会社 Belle・Chapeau Asset、株式会社喜多福總本家
設計者:株式会社 竹中工務店設計部
施工者:株式会社 竹中工務店

主要用途:店舗・飲食店舗
構造:鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:317.51u(2敷地合計)
建築面積:247.06u(2敷地合計)
延床面積:480.94u(2敷地合計)

講評
       有賀 隆

 街並みはそこに建つ一つ一つの建築の形やデザインによって作り出されるが、同時にそれ自体が地域の歴史や文化を映し出す空間性を持ち、人々の心にも刻まれる“場所の記憶”を伝え続けるものである。
 受賞作品「C Forest III+喜多福總本家」の建つエリアは、沿道に大型ホテルや大規模事務所ビルが建ち並ぶ広小路通りにあって、2〜4階建て前後の間口の狭い小規模店舗建築が軒を並べ、歩行者スケールの街並を形成している数少ない地区の一つである。受賞作品は建築主の異なる隣り合う2軒の小規模店舗の建替えとして計画された。設計プロセスの詳細を伺い知ることは叶わないが、建築主、設計者ともに広小路通りの賑わいの連続や沿道空間の魅力がこの地区のヒューマンスケールな街並と深く関わっている事を大切に受止めたものと理解できる。提案された建築のデザインには、間口が狭く奥行きの深いいわゆる町家型の敷地の特徴を最大限に引出そうとする工夫が強く読み取れる。広小路通りに面した前面から奥へとのびる中央の2つの階段は、2つの敷地と2棟の建物の独立性を確保しつつ角地建築のような奥行き感のある新しいファサードを作り出し、これによって囲まれた2層分の高さを持つ半屋外の吹き抜け空間は都市に開かれた“軒先”の様で、さまざまな使われ方とシーンが想像できて興味深い。この中央の吹き抜け空間のボリュームとプロポーションの決定には、意匠面での苦労を読み取ることができる。広小路の街並に対して良い緊張感を与えている点に設計者の丁寧な観察とデザインの提案を感じる事ができる優れた作品である。


J's. viz. a:ile

撮影 (有)フォワード 阿野太一

概要

所在地:長久手町長湫根嶽
建築主:平田 理
設計者:株式会社アトリエKUU
施工者:株式会社ユニホー

主要用途:美容室
構造:鉄骨造
階数:地上1階
敷地面積:1,624.20u
建築面積:381.70u
延床面積:349.98u

講評
       小田 義彦

 東名高速道路名古屋ICの南に広がる猪高緑地の東隣に位置し、土地区画整理事業を終えたばかりで、周囲は建設中の建物と更地が目立つ。名古屋市東端を長久手町と日進市を南北に結ぶ街道沿いには、大学が多く立地し、今後住宅・店舗などが建設されようとしている地域である。
  この街道沿いの信号交差点に面した傾斜地にあり、4mの敷地レベル差を利用して台数を確保した上下2段の駐車場からは、来館者は室内の気配を消されたまま玄関へと導かれる。滞在型美容室(豊富なメニューで心と体の美容サービスを提供する)という機能、大きく跳ねだした白いボックスカルバートのような箱、足元を固める石垣、谷に向かって白い壁面に大きく穿たれた窓といった外観は、「近未来の城」を思わせる。ダイナミックな昼の顔もさることながら、ライトアップされた夜の顔はことさら存在感がありとても印象的で、今後この地域に建設される建物への影響は非常に大きいと思われ、地域における新しい建築文化の創造に寄与するものとして高く評価される。


長久手町青少年児童センター・長久手町立色金保育園

撮影 エスエス名古屋

概要

所在地:長久手町大字岩作字中島
建築主:長久手町
設計者:株式会社東畑建築事務所 名古屋事務所
施工者:青少年児童センター:株式会社日東建設、川崎設備工業株式会社
      色金保育園:松井建設株式会社 名古屋支店

主要用途:児童館/保育園
構造:鉄骨造/鉄骨造・一部RC造
階数:地上2階/地上2階
敷地面積:1,845u/3,046u
建築面積:733.40u/1,233.31u
延床面積:1,067.05u/1,809.31u

講評
        岡田 利一

 香流川に沿った道・遊歩道に面し、どことなく長閑で伸びやかな場所と設計者は表現しているロケーションは、まさにこの建築物に相応しいといえるだろう。計画から5年の歳月を経て、二つの施設が完成して、乳幼児から青少年の「こどもの街」ができた。
 愛知まちなみ建築賞の選考基準にふさわしい場所を建設地に選定された長久手町当局に賛辞を送りたい。次に二つの施設のうち、一つは「内の広場」と「外の広場」を有機的に結び内外の連続した遊びや活動を可能にしている。またもう一つは「土の広場」と「築山」を配置して、「遊びのエリアが大きく広がる自由な空間」を提供している。
 この施設は年を経るごとに、多くの子供たちに「想い出」を残し、「ふるさと」を伝える「みんなの家」になるだろう。そのような「夢」をみごとに創出した設計者に乾杯!  

碧南市藤井達吉現代美術館

撮影 篠澤建築写真事務所

概要

所在地:碧南市音羽町
建築主:碧南市
設計者:株式会社日本設計 中部支社
施工者:白竹建設株式会社

主要用途:美術館
構造:RC造・一部鉄骨造
階数:地下1階・地上3階
敷地面積:1,783.06u
建築面積:820.36u
延床面積:2,425.77u

講評
       岡田 憲久

 碧南市の大浜地区は南北朝の昔から栄えた地域で、多くの社寺や九重味淋の倉庫などに西三河地方特有の黒い板塀が残り、趣のある街並みをつくり出している。この地区では細い路地の再整備などの「歩いて暮らせる町づくり」事業が進み、その一角に、碧南出身で明治の終わりから大正時代に前衛的な活動をした美術工芸家、藤井達吉の美術館がオープンした。この美術館には役割を終えた商工会議所の建物が再生、再利用されている。
 通りに接して木デッキテラスとサンクンガーデンが設けられ、市民ギャラリーや創作室に直接つながる動線が設定されるなど、建築の無料開放ゾーンが日常的に親しみやすく地域に開かれている。また明るく開放的なガラスのキューブと大判のガラススクリーン、新たな黒の外装デザインは建築と町の新旧をつなぐメッセージともなっている。
 昨今、景観法の成立と相まって、古い町並みの景観価値が再認識されるようになってきた。多くの歴史的資産を暮らしの中に持つ、今では数少ない地方都市であると言っていい碧南市が、その資産と現在を融合させながら、未来へのベクトルを示そうとする文化核を、古い建物を使って肩を張らずに創出したことの意義は大きい。

村井歯科

撮影 スタジオムライ

概要

所在地:半田市岩滑中町一丁目
建築主:村井雅彦
設計者:杉浦護
施工者:株式会社羽田建設

主要用途:診療所
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:400.19u
建築面積:205.89u
延床面積:239.91u

講評
       勢力 常史

 この歯科医院は、半田市北部の岩滑にあり、「ごん狐」で有名な童話作家新美南吉ゆかりの地域の一角にある。開業以来、地域の一員として過ごしたこの地で建替えするにあたり、敷地内の緑に対する尊厳と意識を持って設計された。幹線道路に面した細長い敷地に合わせ、平面的には一見不整形な計画となっているが、既存の樹木を活かし、建物と共存できるよう最大限の配慮を行っている。
 さらに、道路に面して残されたクスノキが、杉板とタイルの外壁と一体となってリズミカルな外観を造り、通る人の目を楽しませてくれる。以前建物が建っていた所は、芝張りをして駐車場として使用している。また、中庭にも樹齢50年以上のクスノキが残され、医院に来た人に安らぎと活力を与えてくれる。
 道行く人と訪れる人の両方に緑の恩恵を与えてくれる素晴らしい作品である。


第16回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるということを認識のもと、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や、潤いあるまちづくりに寄与するなど、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物、又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1.地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
 ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
 ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
 2.地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
 ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
 ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
 3.魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
 ●緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
 ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
 ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4.その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)
  有賀 隆(早稲田大学理工学術院教授)
  五十嵐太郎(東北大学准教授)
  市川三千男(愛知建築士会会長)
  岡田憲久(名古屋造形芸術大学教授)
  岡田利一(愛知県建築設計事務所協会会長)
  小田義彦(日本建築家協会東海支部愛知地域会会長)
  勢力常史(愛知県建設部建築担当局長)
  都築 敏(特定非営利活動法人ビジュアルコンテンツプロダクトネットワーク理事長)
●日色真帆(愛知淑徳大学教授)
  伏見清香(広島国際学院大学准教授)
  山内彩子(東風意匠計画代表)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県

後援
 愛知県市長会、愛知県町村会、愛知県商工会議所連合会、中部経済同友会、愛知県都市計画協会

協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築設計事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、
 (財)東海建築文化センター、中部デザイン協会

お問い合わせ

建設部 公園緑地課
景観グループ
電話: 052-954-6612
内線:2669、2678