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メタン直接分解によるターコイズ水素製造技術を開発しました~企業・大学との共同研究で、CO2フリー水素の普及・拡大を目指します~

ページID:2023051903 掲載日:2023年5月19日更新 印刷ページ表示
7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに9 産業と技術革新の基盤をつくろう

   あいち産業科学技術総合センター産業技術センター(刈谷市。以下「センター」という。)は、株式会社伊原工業(いはらこうぎょう)(豊川市)、学校法人東京理科大学(東京都新宿区)、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(名古屋市千種区)、国立大学法人静岡大学(静岡県静岡市)と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(神奈川県川崎市)の委託事業※1を実施し、天然ガスの主成分であるメタンを直接分解して水素を生成する技術を開発しました。
     カーボンニュートラル社会実現にむけて、二酸化炭素(以下「CO2」という。)を排出しない水素製造技術の開発と社会実装が求められています。本技術は、CO2フリー水素※2の一つであるターコイズ水素※3の製造を可能にする技術開発です。
   なお、本開発の詳細を、2023年6月22日(木曜日)にセンターで開催する「第48回工業技術研究大会」において発表します(5月19日同日発表)。

1 開発の背景

   カーボンニュートラル社会実現のため、CO2フリー水素が注目されています。そのなかで「ターコイズ水素」は、化石燃料である天然ガスなどの炭化水素を原料に用い、水素製造においてCO2を排出することなく、固体の炭素を生成するという特徴があります。しかし、ターコイズ水素の普及拡大のためには、安定して水素を製造することが難しいという課題がありました。具体的には、生成した炭素が触媒表面を覆ってしまうことで、水素製造の能力が低下するという問題が生じていました。
​   そこで、当センターは民間企業・大学との共同研究において、従来の金属微粒子を触媒に用いる方法から金属板を用いる方法に変更し、生成した炭素を容易に触媒表面から取り除く装置を開発しました(知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)※4)。さらに、2019年度からはNEDOの委託事業にて、オンサイト型水素ステーション※5への導入を目指し、装置の大型化に向けた装置の概念設計の検討や金属触媒の最適化並びに生成した炭素の利用方法の検討を行いました。これら研究開発によって、水素製造能力が長期間安定し、また、大型化が可能であることが示されました。

2 開発の内容

(1)研究開発の概要
(ア)メタン直接分解反応について
​    メタン直接分解、およびメタンの水蒸気改質・シフト化反応は、下の反応式によって水素が生成されます。
反応式
​   水蒸気改質・シフト化反応は、オンサイト型水素ステーションの多くで実用化されています。しかし、本反応では水素の生成に伴ってCO2が排出されるため、カーボンニュートラルとするには、発生したCO2を回収・固定する装置が必要となります。
   一方、メタン直接分解は、反応によってCO2が排出されず、固体の炭素が生成されます。この炭素をそのまま貯蔵又は他の用途で利用することでカーボンニュートラルとなるため、生成する水素はCO2フリー水素となります。
​(イ)メタン直接分解反応装置の構造
   今回開発したメタン直接分解反応装置は、図1のとおりです。反応炉の温度は600~900℃で、内部には金属触媒板が何枚も入っています。メタンガスを入れることで、金属触媒板表面でメタンが分解し、水素と固体の炭素(以下、「生成炭素」という。)が得られます。
   水素は、未反応のメタンとともに反応炉から排出されます。また、生成炭素は、反応炉の下部に堆積し、適宜、外部に取り出すことができます。
   本反応装置を用いることで、長期間安定して水素を製造できることを確認しました。
装置
図1  メタン直接分解反応装置の概念図

​(ウ)生成炭素の特徴と工業的利用の検討
​   メタン直接分解によって得られた炭素を電子顕微鏡で観察した結果、図2のような繊維状炭素(繊維径:300~500nm)であることが分かりました。
SEM
図2  生成炭素の走査型電子顕微鏡写真

   メタン直接分解は、反応によってCO2が排出されないという大きな利点がありますが、一方で、同じ量のメタンから得られる水素の量が少ないという課題があります。この課題を解決するためには、生成炭素の有価値化が不可欠です。
   そこで、この生成炭素の工業的利用方法の一つとして、熱伝導性材料への応用を検討しました。生成炭素と熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)を3:1の割合で混練し、10MPaで熱プレス機にて圧縮成形しました(図3)。熱伝導率は、ホットディスク法で測定した場合2.0W/m・K、定常法で測定した場合1.0W/m・Kであり、市販カーボンブラックを用いた場合と同等の性能でした。引き続き、熱伝導性材料への応用検討を進めるとともに、導電性樹脂の添加材やゴム補強材料への利用を進めていきます。
fig3
​図3 生成炭素/PPS複合材料

(2)研究開発体制
   あいち産業科学技術総合センター産業技術センター、株式会社伊原工業、学校法人東京理科大学、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、国立大学法人静岡大学

3 今後の予定

   本開発内容の詳細を、2023年6月22日(木曜日)に開催する「第48回工業技術研究大会」において発表します(5月19日同日発表)。
○第48回工業技術研究大会
日時:2023年6月22日(木曜日)  午後1時から午後5時20分まで
場所:愛知県技術開発交流センター
(あいち産業科学技術総合センター産業技術センター内)
刈谷市恩田町一丁目157番地1  電話:0566-24-1841
主催:愛知県、愛知工研協会
後援:公益財団法人科学技術交流財団
​URL:https://www.pref.aichi.jp/press-release/20230519-48th.html

4 問合せ先

(生成炭素の物性・工業的利用方法に関すること)
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター
化学材料室(担当:鈴木、濱口)
刈谷市恩田町一丁目157番地1
ダイヤルイン:0566-45-5641
(金属触媒板・メタン直接分解反応装置に関すること)
株式会社伊原工業
代表取締役  伊原 良碩(いはら りょうせき)
豊川市伊奈町南山新田350
電話:0533-72-2171

【用語説明】
※1  NEDOの委託事業
   2019~2020年度は、「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査」を実施。また2021~2022年度は、「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術開発」を実施。
※2  CO2フリー水素
   水素製造時に、二酸化炭素(CO2)を排出しない反応によって得られる水素。従来広く用いられてきた水蒸気改質・シフト化反応はCO2を排出するため、カーボンニュートラルのためには、CO2を大気に排出させないための回収装置が必要。
※3  ターコイズ水素
   欧米では水素の製造方法によって色分けする考え方が広がっており、2020年にドイツ政府による国家水素戦略に基づいて色分けが定義された。「ターコイズ水素」は、原料にメタンなどの化石燃料を用いるが、反応においてCO2を排出しない水素のことを指す。水蒸気改質・シフト化反応によって得られる水素は「グレー水素」、グレー水素製造時に発生するCO2を回収・貯蔵する場合は「ブルー水素」、太陽光発電など再生可能エネルギーを利用し、水の電気分解によって得られる水素を「グリーン水素」と呼ぶ。
​参考文献:The National Hydrogen Strategy, p28(2020)
※4  知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)
    高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究プロジェクト。2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクト(II期)」を実施。
​※5  オンサイト型水素ステーション
    水素製造施設を有し、水素の製造から充填まで行う水素ステーションの事。製造施設を有さないステーションは、オフサイト型水素ステーションと呼ばれる。

このページに関する問合せ先

あいち産業科学技術総合センター産業技術センター
化学材料室(担当:鈴木、濱口)
刈谷市恩田町一丁目157番地1
ダイヤルイン:0566-45-5641