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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」 太陽光発電・直流技術を用いたEV(電気自動車)への給電技術を開発! ~ゼロカーボン社会におけるEVの普及を手助けします~
愛知県と公益財団法人科学技術交流財団では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期※1」を2019年度から実施しています。
この度、「先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト※2」の「直流スマートファクトリー実現に向けた変換装置の開発※3」において、愛知工業大学の雪田 和人(ゆきた かずと)教授、河村電器産業株式会社(瀬戸市)らの研究グループが、再生可能エネルギーによる分散型の電力網の普及及び社会実装を後押しするために、直流電力グリッド(電力網)の実証試験を実施するとともに、再生可能エネルギーを利用する直流EV充電装置を試作しました。
1 開発の背景
国内外でゼロカーボン社会を目指し、再生可能エネルギーの活用や水素を利用した発電・蓄電技術の開発が盛んに実施されており、これらの発電のほとんどは直流電力で出力されます。一方、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)はもとより、デジタル家電やIoT機器の多くは、既存の電力網から交流電力※4を得て、内部で直流電力※4に変換して使用しています。変換ロスなどを考慮した省エネの観点から、直流電力を利用する電力網も注目されつつありますが、未だ普及の途上にあります。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によれば、2050年の電力供給は、交流系統と直流系統のハイブリッド式の給配電方式となると報告※5されています。
2 開発の概要
本研究グループでは、EVやPHEVが急速に普及すると考えられる近い将来に向け、再生可能エネルギーを利用する直流EV給電装置及び高効率なAC/DC(交流/直流)変換装置を開発しました。また、それらを中心とした直流電力グリッドの実証試験を実施しました。
(1) 次世代半導体を用いたDC/DC(直流/直流)変換装置の開発
次世代半導体であるSiC(シリコンカーバイド)を用い、電力変換効率が高い(98%)電力変換装置を開発し、EV給電装置に適用しました。これを複数台用いることにより給電容量の大容量化も可能です。
(2) 高効率AC/DC(交流/直流)変換装置の開発
既存の交流電力網からの直流変換についても、従来では2段階以上で行う高電圧の交流から低電圧の直流への変換を、本装置1段で実現しました。特に、次世代半導体SiCを用いた電力変換装置では、大きさを従来の4分の1に小型化し、電力変換効率は最高で98%を達成しました。
(3) 直流実証グリッド(電力網)の構築
上記の開発技術を実証するために、愛知工業大学内に直流実証グリッドを構築し、学内のEVの充電等に試験利用しています。再生可能エネルギーをもとに、EVや家電製品を始め、工場を想定した機器(スマートファクトリー)を直流で利用する実証を行っています(商用電源の交流を変換する実験も含む。)。
3 期待される成果と今後の展開
開発した2つの電力変換装置は、河村電器産業株式会社が今後の商品化に向けてさらなる開発を進めます。また直流実証グリッドは、将来的な社会実装に向けて引き続き試験を継続します。
4 社会・県内産業・県民への貢献
社会への貢献 | ゼロカーボン社会の実現へ寄与する。直流技術の社会実装に寄与する。 |
県内産業への貢献 | 再生可能エネルギーの効率的利用により省エネ化を推進できる。 |
県民への貢献 | 太陽光発電パネルとの併用により、EV/PHEV車への利用だけでなく、災害時の電源として機能する。 |
図1 愛知工業大学内の直流実証グリッド(電力網)の概要
図2 直流EV給電装置
図3 直流スマートファクトリー模擬装置
5 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
担当:福田、半谷、門川
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8306
公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:佐野、安藤、田草川
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8370
【本開発内容に関すること】
(開発技術に関すること)
愛知工業大学 エコ電力研究センター
担当:教授 雪田 和人
所在地:豊田市八草町八千草1247
電話:0565-48-8121(内線2005)
(製品に関すること)
河村電器産業株式会社
担当:技師長 小西 功次 (こにし こうじ)
加藤 彰訓 (かとう あきのり)
所在地:瀬戸市暁町3番86
電話:080-4094-5325
用語説明
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」を実施し、2019年度からは「重点研究プロジェクトIII期」を実施。
「重点研究プロジェクトIII期」の概要
実施期間 |
2019年度から2021年度まで |
参画機関 |
19大学 12研究開発機関等 106社(うち中小企業68社) (2022年2月時点) |
プロジェクト名 |
・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV) ・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI) ・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM) |
※2 先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI)
概 要 |
モノづくり現場の設計・生産・検査から、農業・健康長寿までの幅広い分野において、AI・IoT・ビッグデータの活用を推進するとともに、ロボット高度化やエネルギー最適配分のための水素蓄電の技術開発に取り組む。 |
研究テーマ |
(1) 大規模材料データ及びCAEによる自動車向け設計生産技術 (2) 2次電池の材料開発/寿命評価用データベース構築とAI/IoT応用 (3) 5G/AIを活用したロボットプラットフォームとロボットサービスの研究開発 (4) 分野適応技術による自然言語処理技術のビジネス展開 (5) 中小工場を再エネ化する水素蓄電・ネットワーク対応AIエンジン (6) 直流スマートファクトリー実現に向けた変換装置の開発 (7) 農業ビッグデータ活用によるロボティックグリーンハウスの実現 (8) 幸福長寿な暮らしをかなえる自然に活動的となる住まいの研究開発 (9) AIを用いた粉体原料の物性に関する予測システムの構築 |
参画機関 |
11大学 10研究開発機関等 37社(うち中小企業23社)(2022年2月時点) |
※3 直流スマートファクトリー実現に向けた変換装置の開発
概 要 |
電力エネルギーに関する次世代の社会インフラの整備に向け、直流スマートグリッドを社会実装するために必要な技術課題を解決することを目的に、次世代半導体を用いた高効率のDC/DC変換装置、特殊巻線を用いたAC/DC変換装置、AIおよびIoTを直流系統の中でも活用するための電力線搬送通信装置及び塗料によるEMC対策技術を開発する。また、直流スマートグリッドの優位性を実証するために再エネEV充電器を試作する。 |
研究リーダー |
愛知工業大学 教授 雪田 和人 氏 |
事業化リーダー |
河村電器産業株式会社 技師長 小西 功次 氏 |
参加機関 (五十音順) |
〔企業〕 河村電器産業株式会社、株式会社五合(ごごう)、龍城(たつき)工業株式会社 〔大学〕 愛知工業大学、名古屋大学 〔公的研究機関〕 あいち産業科学技術総合センター、公益財団法人科学技術交流財団 |
※4 交流電力と直流電力
電線を電気が流れるとき、電気の流れる方向や電圧が時間とともに周期的に変化数する電力が「交流電力」です。コンセントは交流電力で、+(プラス)極と-(マイナス)極は無く、プラグを差し込む向きを変えても使用することができます。それに対して、電気の流れる方向が一定で電圧も変化しない電力が「直流電力」です。乾電池は+極と-極があり、常に一定方向に電気が流れる直流電力です。
交流電力 直流電力
図4 交流電力と直流電力
※5 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:「直流利活用に関する技術マップ及び技術ロードマップ策定に関する調査報告書」(2020年3月)