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「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(III期)」 モノづくりAIベンチャーによりAI技術に関する人材育成事業が始まります ~AI技術を用いたモノづくりの高効率化に期待~
愛知県では、大学等の研究シーズを活用して県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を目指す産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期※1」を2019年度から実施しています。
この度、このプロジェクトの中の「革新的モノづくり技術開発プロジェクト※2」の研究テーマの一つである「プロセス開発型マテリアルズ・インフォマティクス技術の高度化と人材育成を伴う革新的素材開発※3」において、名古屋大学の宇治原徹(うじはらとおる)教授のグループが中心となり、素材分野でのAI技術に関する人材育成プログラムとして「MI(マテリアルズ・インフォマティクス)モノづくり寺子屋」を構築しました。
この「MIモノづくり寺子屋」を名古屋大学の教員・学生が中心となって起業したモノづくりAIベンチャーのアイクリスタル株式会社※4が、広く一般企業が参加できるAI技術の人材育成プログラムとして、2020年10月から事業化しました。これにより、製造業全般において開発・設計・製造プロセスの高効率化の更なる加速が期待されます。
1 背景
製造業の現場では、AI技術を用いてモノづくりプロセスの高効率化を図りたい企業が多いものの、指導者の不足や活用法が分からないことなどから、参入障壁が高い技術という認識があり、社内教育が難しいという問題点がありました。
この問題を解決するために、名古屋大学が中心となって、「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」での研究開発に取り組み、AI技術に詳しい名古屋大学の教員・学生が講師を務め、企業や大学の枠を超えた少人数グループ学習体制を構築し、レベルやニーズに配慮した独自のテキストを作成するとともに、講習外でも学習できる環境を整えることで、MIモノづくり寺子屋(図1)を構築しました。これをうけて、モノづくりAIベンチャーのアイクリスタル株式会社にてAI人材育成プログラムとして事業化しました。
図1 MIモノづくり寺子屋イメージ
2 モノづくりAIベンチャーにおけるAI人材育成事業の概要
(1) 名古屋大学発のMI技術の技術普及
名古屋大学の宇治原徹教授のグループでは、独自に開発した多くのMI技術を活用して、様々な素材開発や素材プロセスの効率化を行ってきました。このMI技術は、様々な素材やデバイスの開発・製造に応用することができるため、この度のアイクリスタル株式会社によるMIモノづくり寺子屋のAI技術に関する人材育成プログラム化により、県内の製造関連中小企業やベンチャー企業の産業力強化につなげていきます。
(2) モノづくりAIベンチャーによるAI人材育成のプログラム
2020年10月以降は、これまでのMIモノづくり寺子屋の成果を維持・継承して、モノづくりAIベンチャーのアイクリスタル株式会社にてAI人材育成プログラムとして事業化しました。これは、名古屋大学の学生がMIモノづくり寺子屋の構築の過程で得た知見を元に、製造業におけるプロセス開発の効率化を目指して本プログラムを社会実装するものです。
<AI人材育成プログラム(MIモノづくり寺子屋)>
・内容 製造業全般向けの開発・設計・製造プロセスにおけるMI技術の活用
(各企業の個別課題に対応)
・参加費用(想定) 300万円(12回/3ヶ月)
・申込対象 法人のみ
・参加可能人員 1申込あたり最大5人まで
・問合せ先 アイクリスタル株式会社 ※「4 問合せ先」参照
(3) AI人材育成プログラム(MIモノづくり寺子屋)の特長
アイクリスタル株式会社におけるMIモノづくり寺子屋でのAI人材育成は、「自力でAI技術の習得に取り組んで挫折する」という問題点を解決するために、次の3点の特長を備えています。
1.会社や大学の枠を超えた少人数グループ学習
MIに詳しい名古屋大学の教員・学生を中心とする少人数グループ体制とし、質問しやすい環境づくりを行いました。これまでのMIモノづくり寺子屋構築の過程で受講者にアンケートした結果、「実際に手を動かしながら質問して教えてもらえるのが強みだと思った。」「誰かに話すことで頭の中が整理された。」等の感想が多く寄せられ、特に、研究での経験から、より実践的なアドバイスができる学生が講師役を務めたことが、高い評価を得ました。この体制をアイクリスタル株式会社における事業でも引き継いでいきます。
MIモノづくり寺子屋の少人数グループ学習風景
2.講習外の時間でも教え合える体制の構築
月1回の限られた時間内では限界があることから、講習外の時間に参加者同士が学びあえる体制を構築しました。具体的には、プロジェクト型チャットアプリを利用して、参加者が悩みや質問を投稿すると、ほかの参加者が回答できる環境作りを行いました。その様子は講習参加者全員が閲覧可能であり、やり取りの内容を共有できることから、参加者が抱える数々の悩みが解決されることが期待できます。
3.独自テキスト作成
プロセス開発型MIの習得を目的とした適切なテキストはこれまで存在しませんでした。そこで今回、名古屋大学が中心となり、参加者のレベルやニーズを考慮したMIモノづくり寺子屋独自のテキストを作成しました。テキストは解説と演習問題で構成されており、実務に活かすことができる内容となっています。
3 社会・県内産業・県民への貢献
社会・県民への貢献 |
MI技術は、様々な製造業における開発や製造・生産効率の向上、コストの削減が期待でき、本地域の産業力強化に直結する。 |
県内産業への貢献 |
企業の技術者がAI技術を習得する場を提供することで、自社内のAI人材の育成が促進される。 |
4 問合せ先
【プロジェクト全体に関すること】
(1) あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
担当:半谷、清水、吉元
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8306
FAX:0561-76-8309
(2) 公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:石川、安藤
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8380
FAX:0561-21-1653
【本開発内容に関する問合せ先】
(プロセス開発型MI技術関連)
東海国立大学機構 名古屋大学
担当:未来材料・システム研究所 教授 宇治原 徹(うじはら とおる)
所在地:愛知県名古屋市千種区不老町
電話:052-789-3368
(MIモノづくり寺子屋運営関連)
アイクリスタル株式会社
担当:取締役 関 翔太(せき しょうた)、北 彩乃(きた あやの)
所在地:愛知県名古屋市千種区不老町名古屋大学インキュベーション施設206
電話:070-8317-6026
【用語説明】
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期
付加価値の高いモノづくり技術の研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度までは「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度までは「重点研究プロジェクII期」を実施した。2019年度からは「重点研究プロジェクトIII期」を実施。
実施期間 |
2019年度から2021年度まで |
参画機関 |
17大学 12研究開発機関等 105社(うち中小企業65社) (2020年8月末時点) |
プロジェクト名 |
・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV) ・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI) ・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM) |
※2 革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM)
概要 |
モノづくり愛知の根幹をなす基盤技術の更なる高度化のため、マテリアルズ・インフォマティクス等の先進的なツールを用いた材料・プロセスの開発や高度な加工技術、その裏付けとなるシンクロトロン光をはじめとした評価技術の開発に取り組むプロジェクト。 |
分野テーマ・研究テーマ |
【分野】マテリアルズ・インフォマティクスによる高機能材料の開発と人材育成 (1)プロセス開発型MI技術の高度化と人材育成を伴う革新的素材開発 (2)MIと放射光を活用した中空粒子中量産と機能性材料の加速的開発 【分野】シンクロトロン光と先端計測技術によるモノづくり産業の加速 (3)地域先端計測基盤とAIの統合による機能材料探索の新展開 (4)革新的シンクロトロン光CT技術による次世代モノづくり産業創成 【分野】次世代モビリティを実現する革新的加工技術 (5)次世代航空機/自動車部品用高機能材料の高精度・高効率加工 (6)ナノカーボン材料複合分散による高機能化材料の電解析出技術 (7)革新的マルチマテリアル接合による軽量・高性能モビリティの実現 【分野】幅広いニーズに対応する各種積層造形技術の開発 (8)積層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製 (9)新積層造形技術の開発と短時間試作/超ハイサイクル成形への応用 |
参画機関 |
7大学3研究開発機関等43企業(うち中小企業25社) (2020年8月末時点) |
※3 プロセス開発型マテリアルズ・インフォマティクス技術の高度化と人材育成を伴う革新的素材開発
マテリアルズ・インフォマティクスは、材料科学と情報科学が融合した分野。これまでの材料探索は研究者の経験と実験の積み重ねに依存していたが、新材料や代替材料を効率的に探索する取り組みとして脚光を浴びている。「プロセス開発型」はこの考えを製造過程に応用したもので温度、時間、速度など様々なパラメータの組合せを効率よく探査する手法として本プロジェクトで提案したものである。
研究リーダー |
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 宇治原徹 |
事業化リーダー |
株式会社U-MAP 前田孝浩(まえだたかひろ) 株式会社山寿セラミックス 倉知雅人(くらちまさと) 株式会社ニートレックス 武田幸久(たけだゆきひさ) ブラザー工業株式会社 岩田尚之(いわたなおゆき) アイクリスタル株式会社 牧野隆広(まきのたかひろ) |
内容 |
より広範な素材系モノづくりへ波及させるため、プロセス開発型マテリアルズ・インフォマティクスの体系化とネットワークの形成、また、それを活用した次世代材料およびプロセス開発を目的とし、実践的なMI体系を構築する。 |
参加機関 |
〔企業〕 株式会社山寿セラミックス、株式会社ニートレックス、ブラザー工業株式会社、株式会社U-MAP、アイクリスタル株式会社 〔大学〕 名古屋大学 〔公的研究機関〕 公益財団法人科学技術交流財団、あいち産業科学技術総合センター |
※4 アイクリスタル株式会社
概要:半導体材料及び半導体デバイスを中心とする製造業の開発・設計・製造プロセスをIT・AIで最適化する、名古屋大学発のIT・AIベンチャー
代表取締役:牧野隆広(まきのたかひろ)(名古屋大学 客員教授)
設立:2019年11月
所在地:名古屋市千種区不老町 名古屋大学 インキュベーション施設206