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第18回「愛知まちなみ建築賞」の受賞作品について

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総評

有賀隆委員長

 第18回目を迎える今年度の「愛知まちなみ建築賞」へは、県内各地域より総数146点の応募をいただいた。過去4年間で最多となったのだが概ね昨年並の名古屋市をのぞくと尾張、西三河、東三河の地域からは昨年を4〜7割ほども上回る数多くの候補作品が寄せられた。新しい建築文化の創造と地域のまちなみ・景観への調和などを通した良好なまちづくりの推進という、この賞が目指すものへの期待と広がりをうかがい知ることができる。さて応募作品を分野別に見ると、住宅49点、共同住宅14点、学校8点、店舗10点、事務所・工場13点、医療・福祉施設28点、複合施設5点、住宅開発1点、その他(民間)7点、公共施設11点であった。この中から第1次選考で22点の候補作品に絞り、続く11月8日の第2次選考では作品毎に提出された詳細資料・図面ならびに現地撮影した映像資料を用いて内外観やランドスケープ、植栽、さらに周辺まちなみへの効果、貢献などについて選考委員全員による評議を行なった。対象22作品はいずれも優れたもので、委員による活発な議論が交わされ全体合議によって受賞作を最終決定した。

 「慈眼山 成願寺」は寺院建築がその時代の新しい形態様式を採りながら、時代を超えて場所の風景を形作ってきた意味を現代的に解釈している。水盤によって視覚的、精神的に境界を設けられた本堂の配置や、HPシェルの大屋根で構成される建築を通して都市に新たな表情を導く、地域との対話による意欲作である。「翠の家」と「まといの家 [YSY HAUS]」の2つの住宅作品はいずれも斜面地に建つ共通性を持つ。前者が高低差のある住宅街の気配と木々に囲まれた敷地環境を住まい内部へと引き寄せ、開かれた住空間を創出しているのに対し、後者は起伏の多い土地で地場産業を中心とした暮らしが作り出してきた風景を改めて文脈化し、そこから地域のまちなみの有り様を具象化させたものでいずれも秀作である。「北名古屋市立西春中学校」は既存校舎の改修を通し生徒達の生活空間・学習空間の充実を果たすとともに、公立学校と地域社会との繋がりを再構築するための開かれた屋外空間、環境学習拠点、防災機能などを併せもつ地域施設として再生された優れた提案となっている。「PROSTHO Research Center」と「ECO-35」はそれぞれの場所に根ざし最先端の技術でものづくりを担ってきた企業が、都市の景観とランドスケープの創造、そして環境の再生に対し新しい可能性を示す包括的(ホリスティック)な場の再生プログラムとして高く評価できる。

 受賞作品の詳しい評価はそれぞれの選評に譲るが、地域のまちなみやランドスケープの将来像を新しい創造性で先導する意欲的な作品が多かった様に思う。今回、大賞については選考委員全員の合意に至らず受賞作はなかった。また選考委員会での合議決定後に受賞候補の一つが県条例へのコンプライアンスの視点から主催者決定によって選外となったことは、次年度以降の選考基準ならびに推薦・応募規定の検討という課題を示すこととなった点を付言しておきたい。

受賞作品 講評

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    (写真:エスエス名古屋(2009))
所在地:名古屋市熱田区
用途  :事務所
建築主:三五コーポレーション株式会社
設計者:株式会社 浦野設計
施工者:株式会社 日東建設
      株式会社 鴻池組

【講評】岡田憲久委員

 緑に囲まれた敷地には3棟の建築がコの字型に配され、それぞれのガラス面を通して中庭へ大きく解放されている。特に研修棟からは眼前に水をたたえる田んぼ、その背景に森が力強く育ちつつある光景が一望できる。土壌汚染が発見されたことを契機に本社工場機能を他に移し、植物で浄化を行い、研究・広報拠点としての施設へと生まれ変わった。ビオトープや植林は近隣小学校のこども達と社員による共同作業である。森づくりは植物生態学者宮脇昭先生の指導のもと、地域本来の植生種で構成した苗木密植を行っている。さらに竣工時には修景的に設えられていた水盤池を昨年、田んぼに変身させ今年初めて社員と小学生を交えての田植え、稲刈りが行われた。最先端の技術を以って自動車産業を支える企業が、都市のただ中でこんなにも豊かな自然との共生、地域との共生の試みを育てていることに驚かされる。日本の都市は本来多くの自然を、鎮守の森、屋敷林、庭園などとして都市の中に持っていたことを彷彿とさせる素晴らしい街並みの形成である。

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    (写真 :エスエス名古屋(2008))
所在地:北名古屋市
用途 :中学校
建築主:北名古屋市
設計者:株式会社東畑建築事務所
施工者:三山建設株式会社

【講評】都築敏委員

 北名古屋市にある西春中学校校舎の改修・増築工事である。既存建物のエコ改修・耐震補強と環境教育の実践を目的として、平成17年に検討会が設置され、地域住民や生徒の意見等を取り入れることにより全体プランを設定し、平成19年に着工、平成20年10月に完成している。

 この建物は、学校教育の場としての機能にとどまらず、増築部分に新設され、市民に解放されている「環境学習センター」をも併合する複合施設となっている。

 単に既存校舎の解体と新築ではなく、既存校舎を活かしながら省エネを実現し、そして、新たな教育機能を加えようとするこの試みと方向性は、賞賛されるべきであろうし、他事業へ波及できる現代的なモデルの代表的な一例として推奨されるべきであろう。

 校内を案内されたとき、中学生の明るい笑顔と澄んだ溌剌とした声が印象的であった。木々の成長は遅い。5年後、10年後、学生が丹精をこめて育てた草木は、校舎の外壁とフェンスを緑で見事におおい隠すだろう。その中で涼やかに、かつ、明るく勉学に励む学生の姿を楽しみにしたい。そして、この西春中学校とその生徒や父兄を中心にして、複数の同心円が広がるように、緑とエコの輪が広がって波及していくことをも期待したい。

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    (写真  :村井修(2009))
所在地:名古屋市北区
用途  :寺院
建築主:宗教法人成願寺 代表役員 中村廣文
設計者:株式会社石橋徳川建築設計所
      石橋利彦・徳川宜子
施工者:大成建設株式会社 名古屋支店

【講評】谷村茂委員

 名古屋市北区成願寺という地名の由来となった天台宗の古刹で、中興開山800年となる2009年にあわせて全ての伽藍の建て替えが行われた。

 敷地は矢田川の土手の南側に位置し、コンクリートハツリ仕上げの擁壁で囲まれて全体的に1.5mほど持ち上げられている。芝植えされた駐車場脇の山門を潜ると水盤を通して現代的な外観の本堂が望まれる。伽藍は本堂、客殿、書院そして護摩堂で構成されているが、水盤との構成はすばらしく、本殿は鉄骨造で基礎免震構造を採用して地震時の安全性を高めている。恐らく、檀家衆の中には建て替えで伝統的な様式を期待した人も多いと思われるが、現代のデザイン、材料で回答された本殿の毅然とした佇まいは、光線の加減でいろいろな表情に見えて面白い。本殿屋根のHPシェルの形や外壁硝子の光り方から何となく、ミミズクがうずくまっているように見えるのは私だけだろうか。敷地内に植栽は少なく、既存の大きな楠が刈り込まれて立っている以外は墓石が整然と並んでいる。

 災害対策の対応などでいろいろな仕掛けをプログラムして緊急時に寺院が担うべき機能を付け加えると共に、コミュニティの活性化として音楽会の開催などもされているとのことで、これからの寺院建築のあり方を考えさせられた。

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    (写真  :阿野太一(2010))
所在地:春日井市
用途  :博物館 研究所
建築主:株式会社ジーシーデンタルプロダクツ 
設計者:株式会社隈研吾建築都市設計事務所      
施工者:松井建設株式会社    

【講評】伏見清香委員

 春日井市内にある「PROSTHO Research Center」は、ジーシーデンタルプロダクツの歯科材料製造活動 50 周年を記念し、人工歯関連製品の研究と展示を目的として建築されている。

 格子の連続で造られた幾何学的なフォルムは、直線の長さに変化をもたせ、有機的で自由な広がりと柔軟性を感じさせる。また、ガラスと木製格子の組み合わせは、適度な透明感と奥行きをつくりだし、建築の内部と外部、建築とその周辺空間を柔らかく繋いでいる。 植栽は、常緑の砥草(トクサ)と竹を配し、いずれも直線的で建築と同調している。 反面、外部サインは、白い奥歯を想像させる具象的な表現で、曲面がアクセントとなっている。色彩は、木製格子の材色と植栽の緑に、木組みの小口を保護するコンゾランの白が加わり、清潔でナチュラルな配色である。 

 これらにより、伝統的な工法を用いながら新規的な空間を創造しており、 地域における新しい建築文化の創造に寄与する建築であると同時に、魅力的な景観の形成にも寄与していると評価することができる。

 建築は、そこに関わる人々によって時間とともにその表情を変化させていく。今後、地域住民も含めた人々により、この建築の表情やまちなみがより豊かに成長することを期待したい。

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    (写真  :吉村昌也 / コピスト(2010))
所在地:瀬戸市
用途  :専用住宅
建築主:山田修司
設計者:AUAU建築研究所 鵜飼昭年 
施工者:株式会社水野工務店
     森宮建設株式会社   

【講評】伊藤恭行委員

 地形をそのまま建築化するアプローチで、抽象的な美しさを持つ建築が成立している。日本の一般的な住宅地の姿は、残念なことに風景としては完全に壊れている。その中に新しい建築を挿入する時、周辺との調和や統一感など求めることなど無意味であるし、直接的に参照される周辺の建物は「まちなみ」に対する鍵すら与えてはくれない。そんな状況の中では、壊れてしまった風景を逆照射し、批評するような建築にこそ存在意義がある。この建築が周辺のまちなみから浮いて見えるという批判があるかもしれないが、話は逆で、周辺の混乱と凡庸こそが問題なのだと思う。「まといの家 [YSY HAUS]」は傾斜地における起伏や擁壁、遠くに見える風景に応答することで周辺のコンテクストが持つ地形的強度を浮かび上がらせることに成功している。表層の余分なディテールを注意深く徹底的に排除することで、シンプルで強い表情を創り出しており、建築家の意志と力量を感じさせる。

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    (写真  :アーキフォトKATO 加藤 敏明(2010))
所在地:名古屋市守山区
用途  :専用住宅
建築主:桑原雅明
設計者:株式会社 ワーク・キューブ
      大山 圭史・萬田 浩太郎
施工者:株式会社 オノコム      

【講評】山内彩子委員

 太陽と緑と住宅に囲まれている周辺との距離感を住まう環境に持込みかつ見せる姿勢が際立つ住宅だ。

 この建物は、緑が多く残る南垂れの傾斜地に建つ。建築面積は90m2あまりだが、そこに半透明ガラスの全周窓をもつ回廊スペースと中庭を配したロの字型プランを採用し、回廊の内側にRCの蓄熱壁と蓄熱床を設け、障子をうまく用いて、プライバシーや機能をクリアしつつも周辺環境を室内に積極的にもちこんでいる。

 外部からは、道路側に設けられた井水を利用した流れをもつオープンな庭が住宅を介し、半透明ガラスが昼はシルエットとしてまた開口として、夜は発光するハコの姿として室内の気配を見せる。敷地境界はやわらかく、立地と家という建ち方も印象的だ。

 「温熱環境を制御した省エネ住宅ではなく」「日本の伝統に基づき自然の恵みを利用して自然環境と共に暮らす」とする設計者の意図の通り、住宅の環境やまちなみへの開き方、引き寄せ方を追求するしかけのデザインは、「省エネ住宅」の先の住宅のプロトタイプを成しえているようにも思えた。生活の向きや住まいの価値観を外部に開くことでまちなみに潤いを与える住宅として、本賞に相応しい作品といえるだろう。