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第20回愛知まちなみ建築賞の受賞作品について

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総評

有賀隆委員長

 

1990年代以降、この20年間は地方分権と地域主権の礎となる市民社会の仕組みが形づくられた時代であり、これと歩みを同じくして地域の住民、市民、企業、自治体が主体となる建築やまちづくりが試行錯誤を繰り返しながら、新たな建築文化の創造と魅力ある地域づくりの成果をあげて来た時代とも言える。

今年の「愛知まちなみ建築賞」は1993年の創設から数えてちょうど第20回目の節目となる年である。県内各地域から総数106点の作品応募をいただいた。第1次選考ではこの中から21点の候補作品に絞ったが、その後の過程で、このうち1作品が愛知県「人にやさしい街づくり条例」に適合していない建築物であることが判明したため選考対象から除外した。10月17日の第2次選考では作品ごとの詳細資料・図面ならびに現地撮影した映像資料を用いて選考委員全員による評議を行なった。対象20作品はいずれも優れたもので、委員による活発な議論が交わされ全体合議によって、受賞作ならびに大賞を最終決定した。

選考の結果は、風景のインフラストラクチャーとなる住宅建築の可能性を示しているもの、まちに生き続ける歴史的、文化的な空間の再生と建築との応答関係を緑の修景を通して意欲的に提案しているもの、最先端の技術でものづくりを担う工場地域のランドスケープの創造と自然環境とが繋がる場づくりに挑戦しているもの、メインストリートの人々の賑わいと都市の大きな街路風景という異なる景観スケール(近景・中景・遠景)を媒介する都市建築のあり方を示しているものなどが選ばれ、このまちなみ建築賞に相応しい作品が並ぶこととなった。

とりわけ住宅は個々の設計条件が大きく影響するのだが、大賞を受賞した「bird house」は、急峻な斜面を相手にしてその地形的制約をむしろ建築と自然との接点となる新しい基礎インフラを生みだす好機と捉えている。これまでの切り土盛り土と道路際に連続する段状の土木擁壁というまちなみに対して、斜面を崩さず「スパイク」のように地形をつかむ基礎の計画と構造の実現は、斜面地にある敷地と建築そしてまちなみとの相互関係に新たな応答性を示しそれを具体化させた秀作であり、大賞に値する作品として選考委員全員から高く評価された。

その他の受賞作品の詳しい評価はそれぞれの選評に譲るが、地域ごとに固有の歴史、文化、生態系や自然環境との応答関係を見直し、その成果をまちなみの再生や新しい建築の様相へと具体的にフィードバックさせる設計・計画の思想と方法がはっきり見えてきたことは、本賞を支えてこられたこれまでの全ての選考委員の方々の熱意と事務局各位の並々ならぬ尽力の賜物であり、心より謝意を表したい。

受賞作品 講評

1.【大賞】  bird house  (ばーどはうす)

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    (写真提供:宮本佳明建築設計事務所)
所在地:名古屋市天白区
用途 :専用住宅
建築主:水野志保
設計者:株式会社宮本佳明建築設計事務所
施工者:株式会社井戸建設
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【講評】生田京子委員

この建物は、30度を超える斜面地にひっかかるようにして建っている。建物を1つの大きな塊とすることなく分棟構成とし、ひっかかりが多く小さな基礎で斜面地にとりついている。その軽やかな接地方法が最大の特徴であろう。

一般に斜面地に下から入る住宅の計画では、堅固な擁壁をつくりその上に住宅をのせるのが常套手段であるが、作者は緑が濃く生い茂るこのエリアの景観に配慮し、新たな一石を投じた。すなわち擁壁で土を征服するのではなく、緑が生い茂る余地をできるだけ残し、つつましやかな住宅を建てる方法をとったのである。

また周辺への開放性にも独特の配慮がある。細長い角地において敷地境界に壁を建てることなく、先端に小さな離れ、奥に住宅という構成でぎりぎりのプライバシーを確保し、それらをつなぐ通路は外部空間を楽しむ場ともなっている。使われ方によって生活をいかようにも近隣に開いていける可能性を秘めた建物である。

木と木の間にbird houseをかけるごとく軽やかな傾斜地住宅、そこで示された可能性は大きい。その独創性が大いに評価された。

2. アロン化成ものづくりセンター
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    (写真 :車田保(2011))
所在地:東海市新宝町
用途 :工場・事務所
建築主:アロン化成株式会社
設計者:株式会社森下建築総研
施工者:安藤建設株式会社名古屋支店
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【講評】朝岡市郎委員

アロン化成ものづくりセンターは名古屋港の工業地域で工場・倉庫が建ち並ぶなかにあって緑ゆたかな自然環境の魅力的なまちなみ景観が創造されている。おそらく、今回で第20回にならんとする“愛知まちなみ建築賞”も工業専用地域内にある建物の受賞は少ないであろう。

建設前の既存の樹木はできる限り残すと共に新たに緑ゆたかな潤い空間、更に建物は樹木と高さをそろえ、建物と樹木がとけ込む景観ばかりか、建物中央にグリーンコートを配し建物内部と外部空間の繋がりなど地域と建物が連係してやすらぎあるまちなみ景観を形成する姿勢が評価された。

敷地内の公園施設(グリーンエリア)は多くの人に憩いの場を提供し、ビオトープなどは周辺地域の環境保護に役立ち、大屋根に降り注ぐ雨水の再利用、外壁に設けた自然石の蓄熱壁に散水による気化熱を利用した冷却装置など人にも地球にも優しい地域を形成している。

3. 透明な地形
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所在地:岡崎市明大寺町
用途 :専用住宅
建築主:近藤禎義
設計者:南川祐輝建築事務所
施工者:箱屋
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【講評】北川啓介委員

岡崎市中心部に近い住宅地に建つ家族4人のための木造住宅である。

1.5メートルほどの高低差がある40坪ほどの変形した敷地に対して、環境との関係を積極的に強めるかのように平面形状の外形を細い「へ」の字型に屈曲させた上で、立面的、断面的には四つの大きなキューブ状の外部空間や内部空間を貫通するように、個室や風呂、外部テラスなどの住宅の諸室が適材適所に配置された空間構成である。

天候や気候の影響が大きい外部空間に対して少しでも良質な内部空間を築くことが古来からの建築の使命である中で、この住宅では、どの部屋でどのような日常生活のひとこまを送るかを主人公としての住まい手自身が自由に勘案し取捨選択することで、まちなみの一部としてのひとつの建築というよりも、断片的な日常生活の集合体としての建築をなしている。それは、あたかも、朝昼夜、春夏秋冬といった時間の流れの中の生活において、変幻自在な舞台でのひとつの映画がつくりあげられているかのようでもある。

今までの建築がなかなか到達できなかったまちの中での内部空間と外部空間の関係に対して、家族4人の日常生活の中の物語を積極的に広げ深めつつ、さらに、それらに呼応するように、まちからの景色、まちへの景色の両者において透明感のある奥行きを与えることで実現した極めて豊かな景観が、まちなみへも大きく寄与している点が高く評価された。

4. 母の家
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    (写真 :ナカサ&パートナーズ(2011))
所在地:蒲郡市拾石町
用途 :専用住宅
建築主:吉元学
設計者:株式会社ワーク○キューブ
施工者:有限会社ホシケン
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【講評】伊藤恭行委員

やわらかな草に覆われた大きな屋根が印象的な建築である。前面道路に面して軒先は低く抑えられており、緑の大屋根が周辺にやさしい表情を創り出している。しかし、この建築がまちなみ建築賞に選ばれた理由は、この屋根だけによるものではない。むしろ特筆すべきは、その平面計画にある。住居の前面は全て土間になっており、建具は開放することができる。土間の前には鉢植えの草花が施主によって設えられており、近隣住民との間で自然な会話が交わされている姿を見ることができる。ここでは、私たちの社会がかつて持っていた住居と地域との幸福な関係が成立しているように思われるのだ。

この空間構成は、施主が古くからの住民であり近隣住民が基本的に知り合いであるという地域コミュニティが成立している社会にのみ成立するものだと言ってしまうのは簡単であろう。しかし逆に、この住居は私たちが不可能だと思って捨ててしまった住まい方の姿が、現代社会においても成立しうるのだということ具現化して見せてくれているのだと思う。小さく穏やかな表情を持つ建築だが、現代社会を逆照射するような強靭さを持つ作品となっている。

5. 松坂屋久屋南パークテラス
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    (写真 :車田保(2011))
所在地:名古屋市中区栄
用途 :飲食店舗・美容院
建築主:株式会社大丸松坂屋百貨店
設計者:株式会社竹中工務店名古屋一級建築士事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店
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【講評】伏見清香委員

100メートルの幅員を持つ久屋大通りに面し、ビルの谷間に位置する間口9mのカフェと美容院を有する2階建商業施設である。両脇の高層ビルから圧迫され萎縮した印象になりがちな立地にも関わらず、まちなみの心地よいアクセントとなっている。葉をモチーフとしながらも直線的な白いフレームのファサードは力強く、両脇の高層ビルを視覚的に支え、繋ぐことを実現した。さらに、北側面にまで回り込むことによって、建築の立体的な顔となると同時に、効果的な場と余白を形成している。

1階のテラスは、内外を柔軟に繋ぎ、屋外の賑わいと緑豊かな風景を店内にまで引き込む。ファサードのガラスは、時刻、天候、季節により変化する風景を映し出し、まちなみと調和している。午前中、穏やかな光が、冬は長く、夏は木漏れ日となって店内に入る。日中は、角度を変え立体感のあるガラスに、空や雲、樹々の緑を映し出す。夜は内外が反転し、温かな照明で店内の人の動きを屋外に伝え、安心感と賑わいを与える。その時々で表情を変えながら屋内外を繋ぎ会話する本建築は、街に潤いを与え、魅力的な景観を形成している。

6. まどか有松・緑のネットワーク
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    (写真 :アーキフォトKATO 加藤敏明(2011))
所在地:名古屋市緑区有松
用途 :有料老人ホーム
建築主:服部合資会社
設計者:株式会社竹中工務店名古屋一級建築士事務所+モモアーキテクツ三井富雄(監修)
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店
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【講評】岡田憲久委員

老人ホームまどか有松は名古屋市有松町並み保存地区の周辺地域に位置する。背後には町屋と土蔵が立ち並び、正面には名鉄有松駅、その向こうに大規模商業施設がそびえ、まさに伝統的町並みを守る防波堤の役目を果たしている。

道路側はさしかけ屋根の軒が深い平屋の下屋棟となっており、歴史的な場への関係の在り方を示すデザインとなっている。外囲いの特注の透垣は人工竹でありながらモダンで優しく、適所に樹木の緑が配置されている。居室の手すり格子は細心の間合いが取られ、建築主の屋号をデザイン化する遊び心も見て取れる。

南側の広い庭は手越川に沿って一部遊歩道に接し、敷地内の柳は名古屋市遊歩道へと連続する。私有地と公有地を跨いで続く柳並木は建築主と設計者が市へ要求し実現したそうである。遊歩道からは施設の住人が庭を散歩する姿が見え、歴史的町並みに開かれた豊かさが感じられる。

建物は伝統的意匠を現代的にデザイン変換し、町並みへの配慮が過剰な表現となることなく心地いい。細やかな気配りは長く有松のまちづくりにかかわってきた設計監修者、設計者の熱意と知恵の賜物であり、そうした設計を推進した建築主と事業者の理解とサポートの所産でもある。

7. 美浜の家
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    (写真 :堀宏之 [BORA](2012))
所在地:知多郡美浜町
用途 :専用住宅
建築主:Steven Ward、Ximena Elgueda
設計者:後藤建築設計 後藤孝   
施工者:株式会社イシハラスタイル
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【講評】鈴木利明委員

30年ほど前に自然丘陵地を大規模に雛段造成し均質な家々が立ち並ぶ開発分譲住宅群の一画の、「忘れ去られたかのように」残る高低差の大きい不整形なウバメガシの原生林の敷地に、日本(の心)をよく知り日本に暮らすことに決めた外国人芸術家のご夫妻は生活拠点を定めた。気心を知る設計者に家主が託した基本条件は「大地を痛めないこと」と「既存の樹を伐らないこと」、その熱い「地を守る」思いが土地の高低差のまま樹々に埋もれるような古き良き日本の家を創り出した。

地形と既存樹の保全に素直に従った住宅はコンパクトに「く」の字型に配置され、南斜面に開く縁側空間を外に向かって抱きスキップ床の豊かな生活空間を内在して、自然の丘(~林間)に自然と住まうことの連携で生まれる「まちなみ」を回復再生していることに心から敬意を表しエールを贈る。この環境で2人のお子さんがのびのび育ち、地域の皆さんとのオープンな交流が温かく展開される様子が伝わってきて嬉しくほっとした気分になれる、こういう「家」が私は大好きである。

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事務局:愛知県建設部公園緑地課
電話 :052-954-6612(ダイヤルイン)