推し“芸”のヒミツ
ゼロからのスタート、“継承”していく歌舞伎
大府子ども歌舞伎教室

ゼロからスタートした歌舞伎教室―――

大府子ども歌舞伎教室を取り仕切るお二人。
南山大学名誉教授/東海学園大学客員教授 安田 文吉 氏(写真左)
大府市市民協働部文化スポーツ交流課課長 田中 雅史 氏(写真右)
大府子ども歌舞伎教室を開催したきっかけは?
田中:愛知県大府市には文化懇話会という会議がありまして、その中で市内の子どもたちに歌舞伎を体験してもらいたいとの意見が上がったことが始まりです。
安田:その会には僕もアドバイザーとして参加していまして、南山大学の当時の僕のゼミで歌舞伎を体験していた学生のお母さんが提案してくれました。 子どもたちの良い経験になるということで、2014年からスタートしました。
田中:昔の資料を調べていくと、大府でも祭りのときに歌舞伎をやっていたことがわかりました。しかし、高齢化や参加者人数の問題で途切れてしまい、やり方を知っている人がいなくなってしまったため、何もない状態から始まりました。
まずは台本を作成し、安田先生に大府の特色を入れた歌舞伎の口上を考えていただいたりと、手探り状態で進めていきました。
安田:歌舞伎はほかの伝統芸能に比べても、ゼロから始めるのはとても難しいと思われます。大道具や衣裳(いしょう)を新しく作るのか、それともどこからか借りるのか、どんな指導者を呼ぶのか、舞台を仕切る舞台監督はどうするかなど、途切れたしまった文化を、再構築する必要がありました。 歌舞伎を披露する子どもが主役なのはもちろんなのですが、多くの大人が関わることで、ようやく形にすることができました。

ふだん、できない動きをするのも楽しい
参加する子供たちは、どのように受け止めているのだろうか?
子ども(1):チラシや歌舞伎のDVDを見てふだんの生活と違う動きで面白そうだなと思って始めました。今は演じるのがとても楽しいです。
子ども(2):先生たちに細かい動きの一つ一つを教えてもらうことや、友達と一緒に出演できることが楽しくて練習に参加しています。

伝統芸能を”継承“するということ―――
伝統芸能の継承を行う上で、どんなことが大切だと思いますか?
田中:伝統芸能の物語や歴史を知ることだと思います。歌舞伎の大切な部分は、お芝居の流れだけではないのですよね。手の動かし方ひとつ取っても、なぜその動きをやるのか、どうしてこうなったのかって理由とか伝統を知っていないと、それはもう歌舞伎ではなくなっちゃいますからね。
安田:指導者によっては腕をこうやって動かせば良いよ、と伝えるだけで終わってしまう人もいますからね。それでは、伝統的なお芝居ではなくなってしまうんですよ。
だからこの教室では所作や芸については振り付け師が指導しますが、その動きの中にある背景や理由は僕の方から解説をしています。
大府の歴史の中で一度途切れてしまった歌舞伎だからこそ、今度は途切れさせないように、伝統を教えているのです。
田中:生徒たちにもそれが伝わっているのか、毎年参加してくれている子や、兄弟で通ってくれている方も多いです。自分の動きがわからないときには生徒や保護者さんの方から安田先生に聞くこともあるのでモチベーションは高く保(たも)てているのかなと思います。
安田:とはいえ、子どもなので、その日によって、集中できるできないの波はあります。休憩時間を長めにとったり、稽古の教え方を変えてみたりと工夫を凝らして、子どもたちが楽しく稽古に参加できるようにしています。
「大府子ども歌舞伎教室」では、子どもたちが楽しみながら、歌舞伎の所作だけでなくその背景や意味を理解できるような取り組みが行われていました。新たに紡ぎ始められた伝統芸能を次世代に引き継いでいく姿をこれからも応援したいですね。

大府子ども歌舞伎教室
大府市:大府市文化スポーツ交流課
住所:愛知県大府市中央町5丁目70
電話番号:0562-45-6266
実は愛知県内のいろいろなところで行われている地芝居。今回は、子どもだけが参加する大府子ども歌舞伎教室にインタビューしました。
「大府子ども歌舞伎教室」は、年長から中学3年生までを対象に20人弱の園児・児童・生徒が6月から9月の間、年に1回の発表会に向けて稽古を行っているそうです。本格的な衣裳(いしょう)や大道具・小道具を用いながら、振り付け師による指導を受ける背景には、伝統芸能の継承に対する熱い思いが隠されていました。