推し“芸”のヒミツ

尾張万歳ならではの懐の広さとプロとしての矜持(きょうじ)

尾張万歳保存会

知多地区を始め、愛知県内各地に正月の祝福芸として、庶民に親しまれてきた尾張万歳。にぎやかでめでたい演目を行う皆さんに、どのようにして次の担い手に繋(つな)いでいるのかを取材しました。

イベントや出前授業など、広く活動を行う尾張万歳―――

尾張万歳保存会 会長 北川勝久氏の写真

保存会の今後の活動やスケジュールの取決めなどを行う尾張万歳保存会 会長 北川 勝久 氏

尾張万歳保存会の成り立ちと現在の活動内容を教えてください。

北川:尾張万歳は地域で長く受け継がれてきたので、いつから保存会が始まったかと言われると難しいですね。平成8年12月に尾張万歳として国の重要無形民俗文化財に指定されたので、そこが一つの区切りになるかなと思います。

現在の保存会は11人が所属しています。いろいろな方面からお声がけを頂いていて、イベント以外でも地元の高校の授業の一環で高校生に教えに行ったりしていますね。授業だと平日になるので、若手は出られませんが、イベントでは若手をメインにして演目を披露することもあります。若手に経験を積んでもらいたいのはもちろん、見ているお客さんに若者だって「伝統芸能を楽しんでいるんだぞ!」と知ってほしいという思いもあります。(笑)

尾張万歳の持つ懐の深さ―――

尾張万歳保存会 工藤氏の写真

今日、10年ぶりに稽古に参加するという工藤さんの活動経緯を教えてください。

工藤:元々は母親が芸能活動というか、演劇とかで熱心に活動していたことが参加したきっかけですね、面白そうだから参加してみたらと言われて始めました。それからしばらく活動は続けていたのですが、プライベートでいろいろな事情があって万歳からは離れてしまっていたんです。

バンド活動とか演劇とか個人的にそういった舞台の活動は続けていたのですけれど、最近また時間が取れるようになったので、尾張万歳に戻ってきた感じですね。

尾張万歳のどのようなところが魅力ですか?

工藤:保存会は本当に面白くて、稽古でも本番でも笑いが絶えない人たちなんです。例えば僕が昔、東山公園で演目を披露したときに履いていた足袋がズレたので、本番中にポイって脱いだんです。その場ではお客さんもすごく笑ってくれていたのですが、本番中にそんなことをしてしまったので、失敗してしまったな、怒られるかもな、と思っていたんです。

でも、終わった後に「めちゃめちゃ面白かったよ!」と言って笑ってくれて…。他にも演奏道具の鼓を3Dプリンターで作ったり、何でも受け入れてしまえる懐の深さが尾張万歳の一番の魅力だと思います。

お金をもらって活動するプロとしての矜持(きょうじ)―――

尾張万歳保存会 稽古中の写真

伝統芸能の継承を行う上で、どんなことが大切だと思いますか?

北川:お金を貰っているプロとしての線引きを行うということですね。例えばうちでは保存会に入りたいという人が来てもすぐには舞台に立てないんです。最低でも2年くらいはかけて、その人のことを見極めて、総会で全員に確認するなどの手順を踏んでいます。お金を貰って芸を披露するプロとして、しっかりとした人じゃないとお客さんに対して失礼に当たってしまいますからね。

継承のために、活動の場を広げていくのですか?

北川:実は、尾張万歳では出演する場所を増やすための活動をやっていません。もちろん依頼を受けて、色々な場所での芸の披露は行っているんですが、無料でイベントに出演したり、後継者を募るために広くアピールすることはあまりやっていないんです。

伝統芸能に参加する人数を増やすなら、そういう活動も行うべきだとは思うんですが、人が増えると、悩みも増えてしまうんです。誰がどのイベントに出るかとか、あまり芸を披露できない人が出てきたり。年に15回くらいの機会しかないので、そのために1年間稽古を頑張ることができて、しかもプロとして高いクオリティの万歳を披露できる人じゃないと尾張万歳は務まりませんからね。

「尾張万歳保存会」では伝統芸能の魅力を広い世代へ伝えるために、若手の成長や活躍を大切にしつつ、プロとしてのクオリティを守り続けるための取組が行われていました。 伝統の重みと柔軟さを兼ね備えた尾張万歳が、今後も多くの人に愛され、次の世代に受け継がれていく姿をこれからも応援したいですね。

尾張万歳保存会のイメージ

尾張万歳保存会

知多市青少年会館
住所:愛知県知多市八幡堀切91−1
電話番号:0562-55-4597