乳がん

乳がんとは

乳腺は15-20個のぶどうの房のような腺葉から成り立っています。そのぶどうの粒にあたるものが小葉と呼ばれ授乳期には小葉で母乳が作られます。ぶどうの枝にあたる乳管の中を母乳が運ばれ、乳頭から母乳が分泌されるしくみになっています。

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(1)乳がんの発生:非浸潤性乳管癌

乳がんは乳腺の上皮組織から発生した悪性腫瘍です。乳がんの殆どは乳管の中で発生し、乳管の中にとどまっているものを非浸潤性乳管癌といいます。

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そして次のような経過をたどって進行します。

(2)浸潤:浸潤性乳管癌

乳管の外には、乳房の外につながるリンパ管や血管があります。乳がんが、乳管を破り進展(浸潤)すると浸潤癌となります。浸潤癌ではリンパ管や血管に入って乳房の外にでていく可能性がでてきます。

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(3)腋窩リンパ節転移

乳房のリンパの流れは殆どが脇の下の腋窩に流れ込みます。リンパ管に侵入した乳癌細胞は、腋窩にある腋窩リンパ節という網目構造をした免疫の検問である節に引っ掛かります(腋窩リンパ節転移)。癌が転移した腋窩リンパ節は手術で乳房と同時に切除する事ができます。

(4)遠隔転移

一方、血管の中に侵入した乳がん細胞は自然に消滅したり、薬物療法をする事で消滅しますが、その一部が生き残ってしまい遠隔臓器(骨、肝、肺、脳など)に到着し腫瘤を形成する事があります。この場合には根治は難しいとされています。

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乳がんの病期

  1. 非浸潤がん:乳がんが乳管内または小葉内にとどまり周囲に浸潤していないもの。
  2. T期:腫瘍の大きさが2p以下で、わきの下のリンパ節に転移のないもの。
  3. U期:腫瘍が2p以上5p未満で、わきの下のリンパ節に転移のあるものも含む。
  4. V期:腫瘍が5p以上で、周辺組織への浸潤やリンパ節転移を伴うものもあります。
  5. W期:がんが遠隔(骨・肺・肝・脳など)に転移しているもの。

乳がんの疫学

乳がんは、女性のがん罹患率第1位で、増加の一途をたどっています。乳癌登録データでは2016年に約9万5千人が乳癌と診断されています。

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年齢階級別罹患率でみた女性の乳がんは、30歳代から増加をはじめ、40歳代後半から50歳代前半でピークを迎え、その後は次第に減少します。

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乳がんの原因・予防

乳がんは、生まれつきの体質(遺伝要因)と食事や生活習慣など後天的要因(環境要因)が関係して発症します。

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(1)遺伝要因

遺伝性の乳癌(単一遺伝子病)は乳癌全体の5〜10%と言われています。その半数以上を占める原因遺伝子にBRCA遺伝子があります。BRCA遺伝子の生まれながらの変化のために、乳がんや卵巣がんを発症しやすい体質を持つことを『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)』といいます。HBOCの方が70歳までにがんを発症するリスクは、乳がん50-60%、卵巣がん20-40%とされています。遺伝子の変化は、親から子へ性別に関わらず50%の確率で伝わります(常染色体優性遺伝)。BRCA遺伝学的検査(血液を用いた検査)を行いHBOCが確定診断された方に対して、リスク低減手術や検診の一部が保険適用となっています。

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(2)環境要因

乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。すなわち、体内のエストロゲン濃度が高いこと、また、経口避妊薬の使用や、閉経後の女性ホルモン補充療法など、体外からの女性ホルモン追加により、リスクが高くなる可能性があるとされています。

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(3)乳癌の予防

乳癌の一次・二次予防として以下の項目が挙げられます。
乳癌の一次予防(乳癌にならないために)
 ・適度な運動を続ける
 ・肥満にならない
 ・野菜・大豆を多く摂取する
 ・アルコールは控えめにする

乳癌の二次予防(早期発見・適切な治療)
 ・定期的に乳癌検診を受ける
 ・自己検診で乳がんの症状に気を付ける

乳がんの症状

女性の乳房は生涯を通して変化しつづけます。変化は年齢、生理周期、妊娠、ホルモン剤や避妊薬の使用、閉経、外傷などと関係します。乳がんの早期発見には、乳癌検診や乳房の自己検診が役立ちます。毎月、自己検診を行うよう習慣づけることにより、自分の乳房の正常状態を把握できますし、異常にも気づきやすくなります。そしていかなる変化でも、気付いたら医師の専門的診察をうけることが大切です。

注意すべき乳がんの症状
(1)乳房やわきの下のしこりや硬結
(2)乳房の大きさや形の変化
(3)乳頭からの分泌
(4)乳房の皮膚や乳頭の変化(くぼみ、しわ、ひきつれ、乳頭陥没)

乳がんの診断

乳がんが疑われる場合、医師は問診につづいて次のような検査をおこないます。

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1. 触診:しこりの有無、大きさ、可動性、皮膚変化、リンパ節の腫れなどを調べます。
2. マンモグラフィ:乳房のレントゲン検査です。乳がんの早期発見に役立ちます。

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3. 超音波検査:乳房内での超音波の反射(エコー)を画像に映し出します。

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4. 穿刺吸引細胞診:注射器に細い針をつけて乳房のしこりに刺し、陰圧を加えて少量の組織を吸引採取してがん細胞の有無を調べます。

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5. 組織診(ステレオガイド下・超音波ガイド下針生検):穿刺細胞診より太目の針を用いて組織の一部を採取し、病理組織標本を作ってがんの診断をします。 免疫染色法による、がんの性質診断も可能となります。

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6.その他の検査

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乳がんの治療法

治療法は、外科療法、放射線療法、薬物療法の大きく3つに分類されます。

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外科療法(手術)

原発性乳がんを完全に治すためには、現在の標準治療では手術を欠かすことはできません。手術をどのタイミングで行うか(薬物療法の前か後か)は、がんの性質を見極めて考える必要があります。

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A)乳房切除術

乳房内に広範囲に広がった乳がんの方や、部分切除術が難しい方、全摘を希望された方が適応になります。

B)乳房部分切除術

乳房内でがんが比較的限局していて(超音波、マンモグラフィ、MRIで調べる)、がんをすべて取り除くのに乳房全部をとる必要がない方、そして美容的にも満足できる乳房を残すことが可能な方が適応です。  

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C)センチネルリンパ節生検

腋のリンパ節に手術の前の検査でがんの転移がないと思われた方が適応になります。乳房から最初にたどり着くリンパ節への転移の有無を確認する方法です。  

D)腋窩リンパ節郭清

センチネルリンパ節生検で転移のあった患者さんや、手術の前にすでに明らかに転移がある方では、腋窩にある全てのリンパ節を切除します。  

E)乳房再建術

乳房切除術をする方を対象に施行します。再建の方法は人工物を入れる方法や、自分 の筋肉や脂肪を使って再建する方法などがあります。  

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乳房の切除と同時に(1次再建)あるいは後日(2次再建)再建する事も可能です。

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放射線療法

高エネルギーの放射線を用いてがん細胞にダメージを与え、これを死滅ないし増殖停止においこみます。放射線療法は手術後の補助療法として、温存手術後の乳房や、乳房切除後の胸壁・鎖骨の上のリンパ節に行います。また、再発・転移病巣(骨転移、脳転移など)への治療として行うこともあります。

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薬物療法

乳がんの薬物療法は、個々の乳癌の性格によって効果的な薬剤の種類が異なり、薬物療法の使用時期によって薬物療法の目的が異なります。

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A)ホルモン療法

乳がんの約70%は女性ホルモンの作用を受けて増殖する性質を持っています。これをホルモン依存性乳がんと呼んでいます。このようながんでは、女性ホルモンの働きを止めるとがんの増殖も停止します。このようなホルモン療法は、手術後5年〜10年間ホルモン剤を服用するのが一般的です。最近では手術の前にホルモン剤を内服する術前ホルモン療法も行われるようになってきました。

B)化学療法

抗がん剤を用いて、がん細胞の増殖を止めるものです。作用の異なるいくつかの抗がん剤を組み合わせて、効果の増強と同時に副作用を軽減させる工夫が行われています。再発のリスクに合わせて持っても効果的な治療を選択します。手術の前に抗がん剤治療を行うことも一般的な治療になっています。

C)分子標的治療

乳がんの増殖や転移に直接関係する分子(マーカー)をターゲットにして、この働きを阻害する薬剤が分子標的治療剤です。HER2タンパクをターゲットにした抗HER2療法、ホルモン依存性乳癌に対するCDK4/6阻害剤、BRCA遺伝子変異を有する方に対するPARP阻害剤、PDL1を発現しているホルモン受容体陰性・HER2陰性乳癌に対する免疫チェックポイント阻害剤などがあります。

治療成績

乳がんは治癒率の高いがんです。乳がんは治癒率の高いがんです。手術後の5年全生存率(国立がん研究センター、がん情報サービス 2019年更新版)は、I期:95.2%, II期:91.4%, III期:76.4% W期:33.8%です。さらに最近では新薬の開発により、手術後の生存率や再発乳がんの治療成績も飛躍的によくなってきています。

おわりに

愛知県がんセンターでは、乳がんの早期発見のための器械(ステレオガイド下・超音波ガイド下針生検装置)を揃え、検診でチェックされた微妙な病変の確定診断に威力を発揮しています。手術は根治性に加えて、形成外科とも協力して美容と機能を重視した乳房再建術を積極的に推進しています。初期治療・再発全身治療においては、世界標準(グローバルスタンダード)にかなう治療を推進した上で、海外との臨床試験・治験に参加することで、保険適応になっていない新薬を患者さんに提供することも可能になっています。

令和3年2月改訂

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