トップページリーダーに聞く > がん医療の最先端を切り拓くリーダーに聞く(第1回)

がん医療の最先端を切り拓くリーダーに聞く(第1回) 

"リーダーに聞く"シリーズ初回は、肺がんを始めとし、胸膜中皮腫、縦隔腫瘍などの呼吸器腫瘍の診断・治療を専門としている、樋田豊明副院長兼呼吸器内科部長です。

Q:呼吸器内科部を紹介してください。

 呼吸器内科部では、毎年300人を超える肺がん患者さんの内科的治療(薬物治療)を行っています。当がんセンターでは、市販されていない薬剤の開発にも積極的に携わっているため、進行したがんの患者さんに対し、一般にはまだ使えない開発中の薬剤を含む最先端の治療を行うことが可能となり、多様な治療法の選択肢を提供しています。


Q:実際にどのような治療が行われるのでしょうか?

 従来の抗がん剤は、がん細胞の分裂を妨げる効果が期待されますが、正常な細胞も破壊するため副作用に苦しむ患者さんが多く、劇的な治療成績の向上も望めませんでした。しかし2000年代に入り、肺がん治療は、患者さんのがん細胞のゲノム(遺伝子)を調べた結果をもとに、個々人に合ったオーダーメイドの治療選択(精密医療)が実現しています。EGFRやALK、METなど細胞の増殖に関わる遺伝子を調べ、変異が起きている遺伝子により増殖を続けるがん細胞の心臓部に対してピンポイントで働きかけてがんの増殖を抑えるのが「分子標的薬」です。私たちはこの分子標的薬の開発にも初期段階から携わり、数々の治験の結果、薬の有効性の証明に貢献してきました。
 さらに、近年は「免疫チェックポイント」が治療に応用されるようになり、免疫療法も肺がん治療の武器の一つに加わりました。免疫チェックポイントとは、免疫細胞が、がんなど身体の敵となる病気と戦うべきかどうかを判断する機能の一つで、がんはそのチェックポイントで免疫からの攻撃にブレーキをかけ、増殖を続けることがわかってきました。オプジーボという薬の名前はお聞きになったことがあるかもしれませんが、これは免疫細胞の働きががん細胞により抑えられるのを阻害する薬で、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるものです。こちらの有用性の検討にも早い時期から取り組んでおり、分子標的薬と共に、肺がんの治療成績を大きく向上させてきました。


Q:今後の展望を聞かせてください。

 私が呼吸器内科を志した頃は、転移があるような進行期の肺がん患者さんは2年ほどの間にまず間違いなくお亡くなりになりました。それが、今では最も進行したW期であっても3分の1以上の方が5年後も生きておられ、まさに隔世の感があります。
 この長足の進歩は、肺がんが遺伝子のレベルで細かく理解されるようになったことと、それらの知見をもとに抗がん剤とは違う新たな概念の薬剤が開発されたこと、そしてその薬剤の効果が、科学的な正当性と安全性を確保しながら、患者さんのご協力のもとに証明されてきたからです。今後とも最新・最先端の治療を届けるとともに、次の肺がん治療を切り拓くエビデンスの構築に貢献していきたいと思います。
 私はこのがんセンターでがんを専門とする医師として育ちましたが、まだこの病院のレジデントだったころに研究所で本格的な研究に携わったことは、今でも肺がんの全体像をとらえて理解するうえで大いに役立っています。 治療の飛躍的進歩に伴う診療の複雑化で、残念ながら若い臨床医たちが研究所で過ごす時間を取ることはなかなか難しくなりましたが、研究所と病院を併せ持つ利点を最大限に生かし、次世代にもチャンスを与えられる連携を模索したいと思っています。

このページのトップへ