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分子腫瘍学分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究活動の概要

 悪性腫瘍は、複数の鍵となる遺伝子の異常が積み重なって発症することがわかってきました。がん細胞では、細胞の増殖のアクセル役となる「がん遺伝子」や、ブレーキの役の「がん抑制遺伝子」が変異しているため、細胞の増殖が止まらなくなっています。
 分子腫瘍学分野では、アスベストによって生じる悪性中皮腫や、肺がん、脳腫瘍といった難治性のがんに関する遺伝子解析を行っています。がんが発生し、悪化、転移する仕組みを分子レベルで解明することで、診断や治療の標的となる新たな分子や遺伝子を特定することに力を注いでいます。患者さんから提供されたがん細胞や、それをもとにがん細胞が増殖を続ける状態を獲得した細胞株、また実験用のマウスを用いた実験が中心です。常勤スタッフのほかに名古屋大学をはじめとする各大学からの研修生やレジデントが研究に携わっています。

研究テーマ

1) 悪性中皮腫の発症に関わる「Hippoシグナル伝達系」の解明

 悪性中皮腫はアスベストにさらされると、約30年の潜伏期を経て発症する治療が難しい悪性腫瘍です。現在、日本では年間およそ1500人の新たな患者さんが報告されています。悪性中皮腫は診断が確定したときにはすでに進行していることが多く、根治的な外科手術を受けられる患者さんは極めて限られます。通常の抗がん剤や放射線治療が効きにくい上に、がん細胞の増殖に関わる原因分子にピンポイントで働きかけ、他のがんでは治療成績を上げている「分子標的薬」も有効な効果を示していないのが現状です。一方で、最近は「免疫チェックポイント阻害薬」による新たな治療法が登場しました。これは免疫細胞の働きががんにより抑えられるのを阻害する薬で、一部効果も報告されていますが、まだ全ての悪性中皮腫患者さんに有効性を示すまでに至っていません。
 私たちの研究室では、患者さんから提供されたがん細胞から「細胞株」を作ることに長年取り組んできました。細胞株の遺伝子を解析することで新たながん関連遺伝子を特定し、悪性中皮腫の新しい診断法や分子標的治療法を開発することを目指しています。この研究を通し、私たちは細胞内のLATS2(ラッツ・ツー)遺伝子ががんの増殖を抑える「がん抑制遺伝子」であることを発見しました。このLATS2は別の遺伝子NF2と連携して「Hippo(ヒッポ)シグナル伝達系」を形成し、がん細胞の増殖や悪化を抑制するシグナルを伝える役割を果たしています。悪性中皮腫の患者さんのうち、半数ちかくの腫瘍でNF2遺伝子に変異が見られ、患者さんの60−70%でこのHippoシグナル伝達系が正常に機能せず、がんを促進する因子にストップをかけられない状態にあることをつきとめました。現在、私たちの研究室ではHippoシグナル伝達系の異常で活性化してしまうがん促進因子に対する治療薬の共同開発にも参画し、成果を上げています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

2) 「合成致死」戦略による新たな治療法

 従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく、正常細胞の増殖も抑えてしまうことから、様々な副作用が生じて患者さんへの負担が大きく、治療の妨げとなります。また、悪性中皮腫で変異を起こしている遺伝子はほとんどが「がん抑制遺伝子」で、治療の直接のターゲットにすることは困難です。そこで「合成致死」という戦略を用いて、正常細胞にはほとんど影響を与えず、がん細胞だけに効く薬の開発を模索しています。「合成致死」とは、がん細胞の中で、変異しがんを抑制する機能を失った遺伝子1(下図参照)に対し、本来その働きを補うはずの正常な遺伝子2をあえてノックダウンすることで、がん細胞を死滅させてしまうという考え方です。この場合、正常な細胞の遺伝子2をノックダウンしてしまっても、その働きを遺伝子1が補うため、副作用などの大きな障害が起こりません。この治療戦略は遺伝性乳がんの治療で大きな効果を上げています。悪性中皮腫においても、遺伝子1・2のような組み合わせを発見し、新たな治療法につなげられるよう研究を重ねています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

目指すもの

 遺伝子の異常の積み重なりによりできた悪性腫瘍は極めて多様性に富み、生体内の様々な状況下に適応し増殖を続ける組織です。そのため、抗がん剤や分子標的治療薬からすり抜け、薬に対する抵抗性を獲得すると考えられています。こうした複雑ながん細胞の本質を明らかにするために、私たちは正常な細胞が変異を起こす分化異常のメカニズムや、がん細胞の増殖に関係するシグナル伝達系の異常、がん細胞とその周りの組織も含むがん微小環境の果たす役割など様々な視点から研究しています。私たちはこれらのアプローチにより、治療の標的となりうる分子の特定や、その分子を起点とした新たな診断法の開発に取り組んでいきたいと考えています。

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