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分子腫瘍学分野

研究テーマ紹介(専門家向け)

1)悪性中皮腫の新規細胞株の樹立・開発

 私達のグループでは悪性中皮腫の細胞株の樹立に長年取り組んできました。現在、30株以上の日本人悪性胸膜中皮腫患者由来の細胞株を樹立し、様々なin vitro実験、マウス移植(xenograft)による in vivo実験を行っています。

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2)悪性中皮腫におけるHippoシグナル伝達系異常の解明

 悪性中皮腫では、がん抑制遺伝子の1つである NF2 (神経線維腫症2型の原因遺伝子) に高頻度の変異が見られることを当研究分野で明らかにしています。また、NF2遺伝子産物 (merlin、マーリン)によって活性化するLATS2やその他因子の遺伝子にも変異が見られることを見出しています。これら一連の因子が伝達する経路は 「Hippo(ヒッポ)シグナル伝達系」 と呼ばれ、この経路の異常はYAPおよびTAZという転写コアクチベータ(がん促進因子)を活性化させることで、悪性中皮腫の発症を誘導すると考えられています。YAPやTAZの恒常的な活性化によりCCDN1(サイクリンD1)、CTGF(結合組織成長因子)、IL1Bといった細胞周期や成長因子、サイトカインが、恒常的に転写が亢進していることを明らかにしてきました。

研究テーマ紹介(専門家向け)

3)悪性中皮腫治療薬の効果を予測するマーカーの発見

 私たちは悪性中皮腫の治療効果が期待されているFAK (Focal adhesion kinase) 阻害剤について、その有効性を検討しました。その結果、NF2遺伝子に変異を持つ悪性中皮腫細胞のうち、E-カドヘリンというタンパク質を持たない細胞に対してFAK阻害剤が顕著な効果を示すことを明らかにしました。E-カドヘリンは悪性中皮腫に対するFAK阻害剤の治療効果を予測するバイオマーカーとなりうると期待されます。

研究テーマ紹介(専門家向け)

4)合成致死性を利用した分子標的薬の開発

 悪性中皮腫で高頻度に変異している遺伝子はCDKN2A, BAP1, NF2, TP53です。いずれもがん抑制遺伝子であり、治療の直接的な標的とすることは非常に困難です。他のがん種では、活性型のがん遺伝子変異(チロシンキナーゼ)をターゲットとした分子標的薬がよく用いられますが、悪性中皮腫ではこれらの遺伝子に変異が見つかることは稀であることから、全く別のコンセプトによる新規治療薬の開発が求められています。
 正常細胞では、ある遺伝子Aが機能しなくても、遺伝子Bがその機能を補てんすることで、細胞が正常に機能することがあります。しかし、遺伝子Aに加えて遺伝子Bの機能まで抑制されると、細胞は正常に機能できず死に至ります。これを「合成致死」と呼びます。悪性中皮腫細胞では、すでにNF2などの一部の遺伝子に変異があり、機能していません。そこで、合成致死を誘導できるような遺伝子Bを見つけ、その機能を薬剤で抑制できれば、がん細胞だけを攻撃する理想的な抗がん剤となることが期待できます。私たちは現在、合成致死性を利用した新しい分子標的薬の探索に取り組んでいます。

研究テーマ紹介(専門家向け)

5)悪性中皮腫のゲノム異常と代謝・細胞特性の包括的理解による新規分子標的の同定

 我々のグループは、悪性中皮腫のドライバー変異はがん抑制遺伝子が主体であることを明らかにしてきました。さらに、悪性中皮腫細胞はしばしば広範な染色体欠失を呈することも大きな特徴です。これらのゲノム異常は悪性中皮腫細胞における特徴的な代謝リプログラミングを引き起こすことが考えられ、代謝の"脆弱性"が生じることが強く予想されます。さらに、中皮細胞がもともと有する細胞特性、例えば"アノイキス抵抗性"や"上皮間葉転換(EMT)"の易移行性などが、ゲノム異常によって増強されるのではないかと考えています。
 我々が樹立した悪性中皮腫細胞株を用い、網羅的な解析により、悪性中皮腫における新規の治療標的を同定したいと考えています。  

研究テーマ紹介(専門家向け)


研究テーマ紹介(専門家向け)

【アノイキス抵抗性の分子機構の解明のストラテジー】

図の解説:高アノイキス抵抗性の悪性中皮腫細胞株を用い、CRISPR-Cas9sgRNAライブラリーを感染させ、2D培養と3D培養の違いからアノイキスに関係する遺伝子を同定します。悪性中皮腫に特徴的なアノイキス抵抗性の原因遺伝子に対する治療戦略が開発されるものと期待されます。


研究テーマ紹介(専門家向け)

【EMT易移行性の分子機構の解明】

図の解説:私達が樹立した不死化中皮細胞株HOMCには上皮型(B1)と肉腫型(A4)の形態を示すものがあります。CRISPR-Cas9sgRNAライブラリーによるスクリーニングや発現プロファイルの検討により、EMT易移行性の原因遺伝子を同定します。さらに、BAP1遺伝子の変異は上皮型の悪性中皮腫に高頻度に見られることから、その関連性を検討することにより悪性中皮腫におけるBAP1遺伝子変異の組織型による頻度差の原因を明らかにできるのではないかと考えています。

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