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がん予防研究分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究活動の概要

 近年、誰もが「がんと無縁」とは言えない状況になりました。がん予防研究分野では、生活習慣などの環境的要因と、生まれつきの体質とも言える遺伝的要素との組み合わせを考慮したがんの予防について、その科学的根拠を明らかにしながら個々人に合った予防法を開発することに取り組んでいます。
 私たちは、当病院を受診された患者さんに生活習慣などのアンケートにご協力いただき、その患者さんの遺伝子情報と組み合わせて分析する大規模な疫学研究を行っています。患者さんの遺伝的要因と環境的要因との組み合わせががんの発症にどう影響を与えているかを分析し、それぞれの体質によって特に気を付けるべきがんは何か、どんな生活習慣を避けるべきかなど、個人の体質まで考慮したがんの予防法を確立する研究を推進しています。

病院疫学研究=HERPACC(Hospital-based Epidemiologic Research Program at Aichi Cancer Center)

 当センターでは1988年から、がんと診断された患者さんを対象に、生活習慣に関する詳細なアンケート調査にご協力いただくとともに、2001年からは血液の提供もお願いし、遺伝子と生活習慣の組み合わせによる、がんの発生状況について分析する研究を行っています。これまでに13万人の方にご参加いただきました。治療の現場と密接な連携ができることで、発症したがんの特徴や患者さんの栄養状態、治療の経過、家族の病歴などより詳しい情報を得ることができます。これは分子疫学※研究を進める上で全国でも他に例のない取り組みで、この研究は現在も当がんセンターのキャンサーバイオバンクの取り組みとして継続されています。
※分子疫学
遺伝子レベルで解析された遺伝的背景と、生活習慣などの環境要因とを組み合わせ、疾病の発生状況や予防のあり方を研究する科学

研究テーマ

 がん予防研究分野の研究成果について、松尾恵太郎分野長に聞きました。

Q)このがんセンターで長年行われてきた病院疫学研究を通し、どんなことがわかりましたか?

A)お酒をたくさん飲む人は全く飲まない人に比べて数倍食道がんになりやすいことはこれまでにもわかっていました。そこで、病院の患者さんの飲酒の習慣と、遺伝子の解析結果を組み合わせ分析したところ、お酒に弱い人ほど食道がんのリスクがより高いことがわかってきました。
 アルコールを分解するアルデヒド脱水酵素は、遺伝子の設計図に含まれるグルタミン酸(Glu)型とリジン(Lys)型の組み合わせで酵素の働きが決まります。両親から一つずつ引き継いだ遺伝子が、Glu/Glu型の人はお酒に強く、Glu/Lys型の人はお酒に弱い、Lys/Lys型の人はお酒が全く飲めません。私たちの研究から、お酒に弱いGlu/Lys型の人が一日二合以上飲酒すると、お酒に強いGlu/Glu型の人に比べて数十倍も食道がんになりやすいことがわかってきました。Lys/Lys型の人は全く飲めないのでそもそもお酒でがんのリスクが高くなる心配はありません。お酒が弱いけれど飲むことはできるGlu/Lys型の遺伝子の人は特にお酒を飲みすぎないような注意が必要だということです。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究テーマ紹介(一般の方向け)

Q)遺伝子レベルでみると、予防法や特に気を付けるべき生活習慣はみんな違うということですね。

A)もちろん、お酒に強いGlu/Glu型の人もお酒によってがんになるリスクはあり、やはり飲みすぎには注意が必要です。しかし酒に強い人よりも弱い人の方が、よりお酒の量に対する注意が必要と言えます。
 たばこと肺がんについても新たな発見がありました。がん細胞に特定の遺伝子異常が見られるがん患者さんは、喫煙の習慣がないにもかかわらず肺がんに罹っていることを突き止めました。この遺伝子異常はアジア人や女性、タバコを吸わない人、特に肺腺がんという肺の深い部分にできるがんの患者さんに多く見られ、一口に肺がんと言っても、禁煙だけでは予防できない種類の肺がんもあるということが明らかになったのです。残念なことに、この種のがんの予防法はまだ見つかっていません。今後の研究の課題です。ただ、どんな遺伝子を持っていたとしても、禁煙は一般的な肺がんを含むあらゆるがんの予防に有効であることは間違いなく、さらにタバコは心臓病など多くの生活習慣病の原因になりますから、喫煙者は少しでも早く禁煙することをお勧めします。

Q)禁煙や、食生活、適度な運動など、がんの予防に役立つと漠然とわかっていても、なかなか生活習慣を変えられない人も多いと思いますが。

A)確かに、健康を損ねる可能性があると分かっていても、良いといわれることをすべて実行するのは非常に難しいですね。私たちは遺伝子の解析から、乳がんのリスクが遺伝子型の違いにより大きく異なることを発見しました。遺伝子検査の結果、乳がんのリスクがほかの人よりも高いと伝えられた人と、そうでない人とで、どの程度予防に向けた行動に差がでるかを検証する研究も行っています。私たちは、個人の体質まで考慮した個別のがんの予防法を確立し、それをきっかけにより多くの人が生活習慣を改善したり、検診を受けたりすることにつなげることを目指しています。(乳がん予防介入研究JPCP-Brについてはこちら

目指すもの

 医学の進歩でがんの種類もより細かく分類され、それぞれのがんにあった治療法や治療薬の開発が進んでいます。一方で予防については、肺がん予防は禁煙などと画一的なものが一般的です。今後は遺伝子レベルで分析した個人のがんになりやすさをもとに、がんの予防も個別化し、がんで苦しむ人を少しでも減らすことを目指しています。

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