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腫瘍制御学分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究活動の概要

 私たちの体は、約60兆個もの多様な種類の細胞から成り立っており、これらは各臓器や組織において適切な場所に適切な数や種類が存在することで、正常な状態を維持しています。そして細胞は、生存や増殖、動きを制御するために、細胞内外で様々なシグナル(情報)のやり取りを行っています。しかし、遺伝子に変異が生じたり、細菌やウイルスに感染したり、細胞を取り囲む環境が変化したりすると、シグナルの伝達が乱れ、細胞のがん化やその悪性化を招きます。腫瘍制御学分野では、正常細胞でのシグナル伝達の仕組みと、それが破綻した場合にどのようにがん細胞に変化してしまうのかについて調べ、新しいがんの治療戦略を提示することを目指して研究をしています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

【図1:当研究室の研究方針】

研究テーマ

細胞内のシグナル伝達の鍵、 "Src"

 細胞の中のタンパク質は、人体の設計図である遺伝子の情報に基づいて作られます。さらに、細胞内で情報が伝えられるとき、シグナルを運ぶタンパク質に目印がつきます。キナーゼと呼ばれる酵素は、タンパク質の決まった場所にリン酸という目印をつける働きがあります。私たちはキナーゼの中でも、タンパク質を構成するアミノ酸の一つのチロシンにリン酸の目印をつける酵素の"Src"(サーク)に注目して研究を行っています。このSrcは、がんの原因となる遺伝子から作られるタンパク質として世界で初めて見つかった酵素です。様々ながんにおいて、Srcの量が増え、働きが活発になっていることが確認されており、Srcの暴走が発がんや悪性化と深く関わっていると考えられています。しかし、Srcは正常な細胞の中にも存在し、細胞の増殖や生存において重要な役割を担っています。正常に働いていたSrcの制御が利かなくなるとシグナルの伝達にどのような異常をきたすのか、それががんの発生や悪性化にどのようにかかわっているのかを解析し、がん細胞の増殖に関係するシグナルの急所を見出そうとしています。

細胞間のシグナル伝達を担う「エクソソーム」 

 シグナル伝達は細胞の中だけでなく、周囲の細胞や遠く離れた臓器の細胞ともやり取りが行われています。この伝達方法の一つとして近年注目を浴びているのが、「エクソソーム」です。エクソソームは細胞外に放出される小さなカプセルのようなもので、中に様々な伝達物質が積み込まれており、これを受け取った細胞の機能を変えてしまう働きがあります。また、がん細胞から放出されるエクソソームは中身が変化している上に、正常細胞よりも多く放出されることもわかってきました。つまり、がん細胞はエクソソームの"質"と"量"を変化させて、自身が生き延びやすい環境を作っているのです。しかし、がん細胞がどのようにエクソソームを変化させているのかは殆ど知られていません。私たちは最近、Srcがエクソソームの形成や積み荷の選択に作用することを見つけ、現在その詳しいメカニズムについて解析中です。このメカニズムを明らかにすることで、エクソソーム形成に関わる分子を標的とした新たながん治療・予防の開発につなげたいと考えています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

【図2:エクソソームを標的とした新たながん治療法の開発】

目指すもの

 がんの治療を困難にしている理由の一つは、その原因が多様で複合的なことです。がん細胞そのものを死滅させる従来の治療法とは違った視点で、破綻してしまったシグナル伝達の仕組みを解明し、制御不能となった細胞を正常な状態に戻すという別のアプローチから、がんの先進医療に貢献しようというのが私たちの研究室です。 がん細胞の中でコントロールを失った恒常性維持のメカニズムや、離れた細胞へもがん化のシグナルを伝えるエクソソームの研究を通して、増殖のスピードが速い、別の臓器に転移する、などのがんの特徴的な形質を抑える薬剤を開発することを目指しています。がん細胞だけを休眠させたり、悪性化を防いだりすること、また、抗がん剤が長期に渡り効きやすくすることができれば、副作用の少ない新しいがんの治療戦略となります。研究を通して新たな治療の標的を見つけ、がんセンター病院との共同研究により得られた成果を、新たな予防、診断、治療法へと結実させることを目指しています。

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