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がん病態生理学分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究活動の概要

 がん病態生理学分野では、がんが体の中でどのように発生し、さらに悪性化して転移するようになるか、そしてがんが体にどのような影響を与えるかを研究しています。がんは私たちの体を構成する細胞に遺伝子の異常が積み重なってできます。私たちは、がんが自然に発症するよう遺伝子を操作したマウスを用いて、(1)がん細胞とその周辺の正常な細胞までを含む「がん微小環境」(2)がん転移のメカニズム(3)がん患者の多くに見られ、筋肉の萎縮を伴って体重が減少する「がん悪液質」の3点に着目し、がんの発生、悪性化そして転移に至るメカニズムを明らかにすることに力を注いでいます。

研究テーマ紹介

1)がん微小環境の研究 〜がんの悪性化、転移を助け、薬剤への抵抗性にも関わる「がん微小環境」

 がん細胞は、悪賢く臨機応変で、薬剤の投与など周囲からの刺激に変幻自在に対応し、さらには周囲の正常な細胞を利用してより居心地の良い環境を作り出してしまいます。このがんとそれを取り巻く正常細胞までを含む範囲を「がん微小環境」と呼んでいますが、ここががんの成長や浸潤、転移を手助けしていることがわかってきています。
 近年、がんの増殖に関わるタンパク質をピンポイントで攻撃する分子標的治療薬が開発され、白血病など血液のがんでは、症状が消えてがん細胞が検出できないほど減少する「寛解」も夢ではなくなっています。しかし、大腸がんや肺がんをはじめとする固形がんでは、治療の初期には効果が認められても、いずれ薬に対する抵抗性を獲得し薬が効かなくなることが治療の妨げとなっています。がん細胞が体の中で薬剤への抵抗性を獲得するメカニズムについて、私たちの研究室では、大腸がんを自然に発症するよう遺伝子操作を行ったマウスを用いて研究を続けています。その結果、大腸がんが分子標的治療薬に対して抵抗性を獲得する際にも、「がん微小環境」の正常な細胞を利用していることを発見しました。
 このように当分野ではこの「がん微小環境」ががん細胞に対しどんな役割を果たしているのかを明らかにし、その成果を新たな治療法の開発につなげるべく研究をしています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

2)転移の研究 〜大腸がん転移を制御するタンパク質HNRNPLL

 がんの治療を難しくする原因はいろいろ挙げられますが、「転移」はその代表的なものと言えます。転移とは、がん細胞がもとの発生した臓器から他の臓器に移動してそこで増殖することです。大腸がんの場合も多臓器への転移を伴っていると治療は難しくなりますが、残念ながら大腸がん細胞が転移するメカニズムは十分に解明されておらず、転移を制御することは極めて困難な状態です。
 私たちはこの問題に最新の遺伝子工学と実験動物(マウス)を使って取り組んでいます。その過程で、HNRNPLLというタンパク質が、大腸がん細胞の転移を抑える働きがあることをつきとめ、さらに、大腸の上皮(表面)にできたがん細胞が、周囲に規則正しく並んでいる細胞の配置を乱す「上皮間葉転換」という現象を起こすと、転移のブレーキ役であったHNRNPLLが減少し、大腸がん細胞が周囲の組織に侵入、さらには肺に転移しやすくなることを発見しました。

 私たちは、このような転移を制御するタンパク質について解析し、転移の新しい予防・治療法の開発につなげたいと考えています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

3)がん悪液質の研究 〜「がん悪液質」が招く体重の減少や筋力の低下

 「悪液質」は栄養不足という原因以上に体が痩せ、筋肉が衰えていく状態のことを指します。悪液質はがんだけではなく、心臓や呼吸器の慢性疾患などでも起こりますが、がんを原因とする悪液質を特に「がん悪液質」と言います。
 体の代謝のバランスは多くの臓器間の連携により保たれています。がんが進行するとその連携が乱れて代謝のバランスが崩れ、「がん悪液質」になります。この原因の一つとして知られているのが炎症性サイトカインと呼ばれる物質が過剰に放出されることです。がんや周辺細胞から作り出された炎症性サイトカインが慢性的な炎症を起こし、肝臓や筋肉、脂肪組織など多臓器間の連携を攪乱して代謝の異常をきたし、体重の減少や筋力低下を招くと考えられています。(下図)私たちは、がん悪液質の症状を発症する「がん悪液質モデルマウス」を使って、炎症性サイトカインなどが「がん悪液質」を引き起こす仕組みを明らかにする研究を進めています。この「がん悪液質」の予防や治療ができれば、患者さんの生活の質が改善されるだけでなく、患者さんの体に負担がかかるより効果の高い強い薬剤の使用も可能になるなど、治療の選択肢が広がることが期待されています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

目指すもの

 私たちの分野では、薬剤への抵抗性や転移に関わる「がん微小環境」を標的にした治療法を開発し、それを既存の抗がん剤や分子的治療薬と併用することで、薬への抵抗性を生じさせずに治療を継続できるようにすること、また転移を制御するタンパク質を突き止め、それらを起点に治療困難な転移性のがんの予防・治療ができる薬の開発につなげることに重点を置いています。さらにがん悪液質を予防、または進行を遅らせる方法をみつければ、患者の生活の質が向上するのみならず、がん治療の選択肢を増やすことにつながります。私たちはマウスを用いたがん研究の成果を、治療の第一線の愛知県がんセンター病院と緊密に連携することで先進的ながんの治療法の開発に結びつけることを目指しています。            

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