HOME分野紹介 > 腫瘍免疫制御トランスレーショナルリサーチ分野

腫瘍免疫制御トランスレーショナルリサーチ分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

1)免疫系は、がんの発生を防ぐことができるか

 「体の中には1日に5000個のがん細胞が発生しているが、免疫系がそれを排除しているためがんにはならない」といったフレーズをインターネット等で見ることがありますが、本当でしょうか? 少なくとも5000個という数字に根拠はありませんが、免疫系ががん細胞を排除しているというところは間違ってはなさそうです。免疫系ががん細胞を排除しがんの発生から生体を守ることができるかという疑問に対して、100年以上にわたって学者の間で論争が続いてきました。そして、その疑問に対して実験的にはっきりとした答えを示せたのは、実は最近の話で、2001年のことなのです。それではなぜ、がんの発生を監視する免疫系のシステムがあるにも関わらず、実際にがんができるのでしょうか。その答えに導いてくれると思われる仮説が、「がんの免疫編集」と呼ばれるものです。免疫系の働きにはがん細胞を排除するだけでなく、がんの性質を変えてしまう(編集する)、つまり、より悪い性質を持つがん細胞を選び出してしまう働きがあることが示され、この仮説が生まれました。がんの免疫編集は排除相、平衡相、逃避相の三つの相からなります (下図)。免疫系は完全なシステムではありません。すなわち、免疫系はがん細胞を排除する能力はあるのですが(排除相)、すべての細胞を排除しきれるわけではなく、時には取りこぼしが生じます。取りこぼした細胞も、しばらくの間は免疫系と平衡状態にありますが(平衡相)、やがてがんは免疫系よりも優勢になり、臨床で発見されるほど増大したがんになるわけです(逃避相)。私たちは臨床で発見されたがんが、過去にどれだけ免疫編集を受けたか、発見時のがんは免疫学的にどのような状態であるか、そしてそのがんに対して免疫療法が有効であるかどうかを一人ひとりのがんのレベルで検討しています。  

研究テーマ紹介(一般の方向け)

2)免疫系の標的となるがんの「目印」

 がんの免疫監視・編集の根底にある重要な考えは、免疫細胞、特にリンパ球が体の中に生じた異常な細胞を正常細胞と区別して攻撃し排除するということです。外から入ってきた細菌やウイルスと違い、がん細胞は、もともとは自分の正常な細胞から生じてくるため免疫系にとっては区別することが難しいのです。
 がんはいくつかの遺伝子の異常が積み重なることによって正常な細胞ががん細胞に変化して生じてくると考えられています。がんの形成過程や維持に必要な遺伝子異常だけでなく、それらに関わらない遺伝子異常も生じます。いずれにしても、遺伝子の異常によって作られるタンパク質は正常細胞には認められないため、異常細胞の「目印」となり免疫系に認識されます(下図)。しかしながら、がんが発生してくる過程において、強い目印を持つ異常細胞は、先に免疫系により排除されていることが考えられます。したがって、臨床で発見されたがんが、どの程度治療の標的となりうる目印を残しているかを調べる必要があります。シーケンス技術(遺伝子の配列を解読する技術)の発達により、患者さん個々の遺伝子異常を見つけることができるようになり、そこから生じる目印の予測も可能になりました。しかし、患者さんの体の中で、実際に免疫応答の標的となっている目印を正確に見つけ出すことは現在でもまだまだ困難です。私たちは、病院と連携して患者さんの腫瘍や、腫瘍に浸潤しているリンパ球、血液等を使わせて頂き、免疫応答を起こしている本当の目印を見つけ出す研究を行っています。  

研究テーマ紹介(一般の方向け)

3)がんに対する免疫応答の抑制機構

 がんの中には、例えば目印がたくさん残っていて、またそれを攻撃できる能力を持つリンパ球が腫瘍内に浸潤しているにも関わらず、増大してくるものがあります。このような場合、がんの目印に対する免疫応答になんらかの抑制がかかっていることが考えられます。最近話題の免疫チェックポイント阻害剤には、この抑制を外す働きがあります。この薬を使うことで抑制が解除され目印に対する免疫応答が再び活性化し、一部の患者さんでは臨床効果が得られたのです。したがって、この薬の効果が教えてくれたことは、腫瘍に対する免疫応答が存在する(が抑制されている)場合は、その免疫応答を強めるだけで、難治性の進行がんの患者さんでも完治にまで持っていくことが可能になったということです。ただ、免疫チェックポイント阻害剤は現在のところ、上述のように目印がたくさんあって、リンパ球が腫瘍の中に浸潤しているような一部の患者さんにしか効果が認められません。私たちは、効果が認められる患者さんとそうでない患者さんでは、目印や腫瘍内の免疫環境がどう違うのかを詳しく解析し、どこを人為的に操作すれば治療効果を得られるかを検討しています。

4)今後の免疫療法

 免疫療法はよくアクセルとブレーキを例にとって説明されます。これまで行われてきた、いわゆるがんワクチンはそのアクセルを踏む治療、免疫チェックポイント阻害剤はブレーキを外す治療ということになります。いずれの治療も、最終的には腫瘍内のリンパ球を増強することが目的であることに違いはありません(下図)。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

 そして、理論上は、この両者をうまく組み合わせることが、治療効果を上げるうえで重要と思われます。実際、ブレーキを外すだけで効果の見られる患者さんはまだ一部にすぎません。ブレーキを外し、そしてアクセルも踏んでやることで、治療効果の見られる患者さんが存在するはずです。したがって、アクセルの治療(がんワクチン)を強化する必要がありますが、その際重要なことは、ワクチンには、強い目印を使う必要があるということです。前述のように、本当に強い目印は既にがんから消えてしまっていますので、残った目印の中からいくつか強い目印を見つけだし、それらを標的としたワクチンを行う必要があります。いくつかの遺伝子変異から生じるタンパク質がその有望な候補として考えられますが、それはそれぞれのヒト、それぞれのがんによって違っていることもわかってきました。したがって、この目印を標的としたがんワクチンは患者さん一人一人で違う個別化医療になります。
 私たちの分野では、患者さん個々のレベルで、免疫応答の標的となる目印を探索し、またがんの中の免疫環境を解析します。そのデータから、がんワクチンと免疫チェックポイント阻害剤等の複合治療で効果が見込める患者さんを選別します。このような患者さんに対して、病院と連携して複合的かつ個別化医療を実施していくことを目指しています。

このページのトップへ