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分子診断トランスレーショナルリサーチ分野

研究テーマ紹介(一般の方向け)

研究活動の概要

 分子診断トランスレーショナルリサーチ分野では、ヒトやマウスの血液や手術で取り除いたがん組織、がん細胞が試験管内で半永久的に増殖を続けるがん細胞株など、様々な生体材料を用いて、タンパク質を中心に大規模な分子解析を行っています。その結果をもとに、早期診断や治療効果の予測につながる新しいバイオマーカー()や、治療の標的となる分子の特定、それらを実際の治療に生かすまでの幅広い研究を展開しています。がん治療の最前線を担う愛知県がんセンター病院との緊密な連携を強みとして、実際にがん治療を進めるうえでの問題点や疑問点を研究の課題として設定する、また反対に基礎研究から得られた成果を治療の現場に還元するという、研究所と病院の架け橋となるような研究(トランスレーショナルリサーチ)を強力に進めているのが私たちの研究室の特長です。基礎から臨床まで多様なバックグラウンドを持つ研究者が、消化器がん、肺がんを中心に、がんの克服という大きな目標に向かって、一丸となって突き進んでいます。

バイオマーカー 血液や尿などの体液や組織に含まれるタンパク質やDNAなど生体内の物質で、病気の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるもの。バイオマーカーの量を測定することで、病気の有無や進行度、治療の効果の指標の1つとすることができる。

研究テーマ紹介

がんによる死亡者数は年々増加しており、1981年より日本人の死因のトップ(約30%)となっています。私たちはどのようにがんと闘い、克服していけばよいのでしょうか。

1)精度の高い「早期診断」を実現する血液診断テストの開発

 がんになるリスクの高い病変や、手術で取りきることができる早期のがんを見つけて治療する「早期診断、早期治療」はがんを克服する有望な手段です。様々ながんの中でも胃、大腸、肺、乳、子宮頸がんは検診による早期発見が有効ながんです。
 ただし、検診にも次のような問題点があります。

@ がんが見つけにくい場所にある、わかりにくい形をしているなど、がんを見逃してしまう「偽陰性」
A 検診でがんの疑いと判定されても、多くの場合はがんではないため不必要な精密検査を受けることになってしまう「偽陽性」
B がんの中にも進行が非常に遅いものや、進行がんにならない悪性度の低いがんがあるにもかかわらず、区別がつかないために通常のがんと同じように検査や治療がおこなわれてしまう「過剰診断」

などです。私たちはこれらの問題点を解決し検診の精度を高めるために、従来の検診では見逃していたがんを発見したり、がんではない人を正しく判定したりできるバイオマーカーの特定や、それをもとにした血液診断テストの開発に取り組んでいます。さらにすい臓がんなど現在有効な検診が存在しないがんについても早期診断に役立つ血液テストの研究に取り組んでいます。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

【図1:血液診断テストによるがんの早期診断】

2) 個別化医療の革新に向けた診断技術の開発

 がん患者さん一人一人に合わせて最適な治療を行う、「個別化医療」も近年、がんと闘う有効な手立てとなっています。これまでの医療は、診断された病名が同じであれば、同じ治療法を提供し、医療の質にばらつきをなくすことを目指してきました。しかし、実際に同じ治療をしても、一部の患者さんにはあまり効果がなかったり、副作用が強く出てしまったりすることがあり、必ずしもすべての患者さんが同じ経過をたどるわけではありません。そこで、患者さんのがんの原因や病態を分子レベルで解析し、一人一人の患者さんの状態に合わせて最適な治療をする個別化医療が注目されています。個別化医療では、副作用をできるだけ抑えて、かつ高い治療効果が得られることが期待されます。私たちは個別化医療のさらなる進化のために、どの治療薬が効くかを予測したり、がん再発のリスクが高く追加の治療が必要となる人を見つけたりすることができる血液診断テストについても、いろいろながんで研究を進めています。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

【図2:血液診断テストによる個別化医療の実現】

3)DNAからタンパク質までの統合的な分子解析による新しい治療法の開発

 私たちは、がんの診断だけでなく、新しい治療法の開発にも積極的に取り組んでいます。個別化医療では、患者さんの遺伝子を中心とした分子レベルの解析から、最も効果が期待できる治療薬(分子標的治療薬)を用います。肺腺癌を例にとってみると、患者さんの60%は、EGFR、ALK、MET、HER2、BRAFなどの遺伝子変異ががんを引き起こしており、それぞれの遺伝子の異常をターゲットとする分子標的治療が可能となっています。しかしながら、患者さんの約15%にみられるKRAS遺伝子の変異については、それを直接ターゲットにする分子標的治療薬がまだ実用化に至っていません。肺腺がんはもっとも個別化医療が実践されているがんの一つですが、それでも現在の遺伝子を中心とした解析では、分子標的治療の対象になるような遺伝子の変異が見つからない患者さんが約20%もいます。このような患者さんは、いくつかの遺伝子変異が組み合わさってがん化につながっていると考えられています。また、タンパク質は、DNAに存在する遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA)に読み取られ、タンパク質として合成される過程でさまざまな変化を起こします。したがって、多様な機能を持つタンパク質には、遺伝子情報だけではわからない、がん化に大きく関連する要素を含んでいると考えられています。そのため、私たちはがん組織やがん細胞株から得られるDNAだけでなく、mRNA、タンパク質までを統合的に解析し、遺伝子の異常だけでなく、がんに起こっている様々なタンパク質の異常を見つけ出すことで、がんのメカニズムを解明し、新しい治療法の開発につなげていきたいと考えています。このプロジェクトでは特にすい臓がんや肺がんなど予後の悪い難治がんを中心に取り組んでいます。

研究テーマ紹介(一般の方向け)

【図3:統合的分子解析による新規治療ターゲットの探索】

目指すもの

 私たちが力を入れて取り組んでいる研究テーマのうち、早期診断バイオマーカーの開発では、検査の精度を上げることで、検査への信頼性を高めて検診受診者を増やすとともに、不要な追加の検査や治療など、患者さんの負担と無駄な医療コストを減らすことも目指し、実用化につながる研究に重点を置いています。加えて、個々の患者さんに合った進行がんの最適な治療戦略を立てるための治療個別化バイオマーカー、さらには個別化医療が確立されていない分野の新規治療法の開発と、診断と治療との両輪で、がんを克服するための新しい道を切り開き、がん克服の革新を目指します。

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