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分子診断トランスレーショナルリサーチ分野

研究テーマ紹介(専門家向け)

 分子診断トランスレーショナルリサーチ分野では、ヒトやマウスの血液、腫瘍組織、がん細胞株など、様々な生体材料を用いて、プロテオミクスを始めとしたマルチオミクス解析を行い、消化器がんと肺がんを中心に、がんの新しい診断法や治療法の開発と、その臨床応用を強く意識した研究を展開しています(図1)。

研究テーマ紹介(専門家向け)

【図1:マルチオミクス解析によるがん診断・治療法開発への取り組み】

1)がんの早期診断・個別化医療を目指した血液バイオマーカーの探索

 血液バイオマーカーは、簡便かつ低侵襲、低コストで高スループットな診断法となりえることから、癌の早期診断や個別化医療において、大きな期待が寄せられています。
 遺伝子改変がんマウスモデルの血中タンパクプロファイルの詳細な解析から、肺がんマウスモデルにおいて、血中タンパクシグネチャが肺がんの分子生物学的特徴を反映すること、さらにその肺がん関連血中シグネチャタンパクが、肺がんと診断される1年前に採取された肺がん患者の血液中でも健常者に比べて上昇していることを明らかにし、血液バイオマーカーの肺がん早期診断における有用性を世界に先駆けて示してきました(Taguchi et al. Cancer Cell 2011)。この研究が基となって開発された血液診断テストは、米国における現行の肺がんスクリーニングガイドライン(USPSTF)のほぼ倍となる約80%の感度で、2年以内に肺がんと診断される人を見つけることができます(Guida et al. JAMA Oncol. 2018; 図2)。このテストにより、極めて精度の高い肺がんのリスク評価が可能であり、現在FDA承認を目指した臨床試験を行っています。また、同じようにがんマウスモデルの血中タンパク解析から、膵がん、大腸がんの早期診断に有用な血中タンパクバイオマーカーについてもそれぞれ報告しています(Capello et al. JNCI 2017; Taguchi et al. Cancer Prev Res 2015)。

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【図2:タンパクバイオマーカーによる肺がんの早期診断】

 血液においては、タンパク以外にも、循環腫瘍細胞 (circulating tumor cells; CTC)、ctDNA、マイクロRNA、メタボライト、エクソゾーム、自己抗体などが、有望ながんバイオマーカーになりうると考えられています。当分野では、このような様々な分子をマウスモデルや臨床検体を用いて網羅的に解析し、大腸がんや膵がんなどを対象に、早期診断血液バイオマーカーの探索を行っています。
 また、個別化医療に有用な血液バイオマーカーについても研究を進めています。最近の研究では、血中マイクロRNAプロファイルに基づく肺腺がんの再発予測モデルを開発しました(図3)。このほかにも、大腸がん、直腸がん、膵がん、食道がんなどで治療反応性や再発・予後を予測するための血中バイオマーカーの研究に取り組んでいます。

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【図3:血中マイクロRNAプロファイルに基づく肺腺がん再発予測モデル】

2)網羅的分子プロファイリングによるがんの分子病態の解明と新規治療標的分子の探索

 現在までに、100を超える代表的なヒトがん細胞株(肺がん、膵がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん)を用いて、細胞ライセート、細胞表面タンパク、分泌タンパクの各分画について、タンパクの高深度かつ網羅的なプロファイリングを行っています(図4)。がん種、遺伝子突然変異に加えて、様々ながんの形質に関連するタンパクシグネチャの同定と機能的解析を行い、新規がん胎児性抗原であるVCX/Yの肺がんにおける過剰発現(Taguchi et al. Cancer Res. 2014)、肺腺がんのp53突然変異に関連するタンパクシグネチャ(Taguchi et al. Proteomics. 2014)、イリノテカン感受性を決定するCES2の膵がんにおける過剰発現(Capello et al. JNCI. 2015)、間葉系の形質を示す肺がんの分子シグネチャ(Schliekelman et al. Cancer Res. 2015)と免疫プロテアソームの欠損(Tripathi et al. PNAS. 2016)、LKB1 不活化を持つ肺腺がんにおけるCPS1の過剰発現とその機能的重要性(Celiktas et al. JNCI. 2017)、MCAMを介した肺小細胞がんの化学療法抵抗性(Tripathi et al. Cancer Res. 2017)などを報告してきました。
 現在は、このタンパクプロファイリングをさらに発展させて、細胞株だけではなくPDX腫瘍を中心とした腫瘍組織のゲノム、mRNA、タンパク、マイクロRNAなど様々な分子プロファイルの統合的解析を行っています。タンパクプロファイリングでは、特に抗体療法などの直接的な標的となりえる細胞表面タンパクや、リン酸化などタンパクの翻訳後修飾も含めた、より詳細なプロファイリングに積極的に取り組んでいます。

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【図4:がん細胞株の網羅的タンパクプロファイリング】

3)ノンコーディングRNAが関わる発がん分子機構の解明

 ゲノムから転写される遺伝子産物の大部分は、タンパクをコードしないノンコーディングRNAであることが知られています(図5)。近年、ノンコーディングRNAが、転写や翻訳、スプライシング、クロマチン構造制御に至るまで、様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしており、またその発現は、厳密に制御されていることが明らかになってきました。私たちは、ノンコーディングRNAの中で、長さが20塩基前後のマイクロRNAと200塩基以上からなる長鎖ノンコーディングRNA(long non-coding RNA, lncRNA)の解析から、その制御機構の破綻とがん化との関連を明らかにし、ノンコーディングRNAをターゲットにした新たながん治療法の開発に取り組んでいます。また、このようなノンコーディングRNAの一部は、短いペプチド(マイクロペプチド)をコードしている可能性が示唆されており、当分野のタンパク解析技術を生かしてマイクロペプチドの網羅的解析にも取り組んでいます。

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【図5:ノンコーディングRNA研究の新展開】

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