居住施策に関するアンケート調査

氏   名 片方 信也
所属・役職 日本福祉大学健康科学部・教授
専門分野 都市計画、建築計画

愛知県の住まい・まちづくりを取り巻く状況について、それぞれの専門の分野から、特に注目している現状と今後重要となってくる課題についてのお考えをお聞かせください。

 「愛知県住生活基本計画2020」(概要板)を拝見して、最初に抱く印象は、住まい・まちづくりを「元気で力強い経済・産業・地域」につながるように位置付けていることへの違和感です。平和的生存権の具体的な保障は、何と言っても文化的な生活の基盤である住居の人権としての位置づけを求めていると考えるのですが、「基本理念」にはそうした考えが盛り込まれているとは思えません。
 こうした従来型の観点から脱して、愛知県の人びとが築いてきたそれぞれの地域の自然や歴史、地域の共同体的な生活文化を見直して、これまでの経済発展優先ではない地域の自然環境に適応する住まいづくり、まちづくりを復元するビジョンを県民とともに練り上げ、その共有を目指すという基本方針を掲げるべきであると考えます。
 高齢者の増加と地域社会の変化は今後急速に進行することが予想されていますが、とくに重要なことは高層住宅ではない中低層の住まいの都心への回帰などによって、ひとびとのつながりを取り戻し、強めていくまちづくりが大切であると考えます。
キーワード 平和的生存権、共同体、都心への回帰

上記の課題解決のために推進すべきと考える住まい・まちづくりに関する取組みについてのお考えをお聞かせください。

 愛知県の名古屋市などの都心地域とその周辺での住宅再立地の可能性を検討すべきであると考えます。その際、高層集合住宅の形態は見直し、中低層の共同住宅をきめ細かに立地させて行くプロジェクトの立ち上げを期待します。従来の住まいの立地、まちづくり事業は郊外へ展開する流れが強かったわけですが、高齢社会を迎えて今後ますますその傾向が社会の底部まで進行するようになると、社会的な孤立世帯や地域が増えていくでしょう。そうした事態をさけるためには、もともと利便性の高い地域である都心やその周辺を未来の居住地として再生することが重要となりましょう。その方向に、人びとのあらたなつながりを見出すことが大切であると考えます。
 概して、愛知県内では移動手段を自動車に依存する人びとが多いように思われますが、これからのまちづくりには脱クルマ社会の構築をめざしてほしいと思います。以前、本学の大学院生が名古屋市周辺の住宅地の一戸建て庭付き住宅に関する実態調査をしたことがありますが、そのような住まいでも庭より車庫優先の世帯が多いことがわかっています。住宅における庭の役割をもう一度見直すことも脱クルマとつながっています。また、低炭素化のための具体的な施策ともなるのではないでしょうか。
キーワード 中低層集合住宅、脱クルマ、都心再生、庭付き住宅