居住施策に関するアンケート調査

氏   名 毛利 志保
所属・役職 三重大学大学院工学研究科建築学専攻・助教
専門分野 建築計画・高齢者居住環境計画

愛知県の住まい・まちづくりを取り巻く状況について、それぞれの専門の分野から、特に注目している現状と今後重要となってくる課題についてのお考えをお聞かせください。

 上記の専門分野を踏まえ、特に重要と思われる切り口は「少子高齢化社会における災害への対応」であろう。特に、高齢者の多い社会における居住環境に着目したハード・ソフト両側面の課題について述べたい。
 ハードについて特に注目すべきは、民間賃貸住宅における居住水準の低さである。今後は一部サービス付高齢者住宅なども含むと思われるが、現時点における居住水準は良質な住宅ストックといえるものではない。一昨年実施した三重県鈴鹿・亀山両市のケアマネを対象とした高齢者の居住する賃貸住宅調査においては、高齢者の入居に際しての障壁はなかったものの、居住後の水準向上、住宅改修についての問題が指摘された。専有住戸内よりも共用エリア内に課題が多く、アクセシビリティを含め災害時の対応が危惧されるところである。
 ソフト面については、住宅地全般、特に賃貸住宅におけるコミュニティの喪失であろう。隣人との関係欠如は、日常生活はもとより災害時の対応に大きな支障をもたらすと考えられる。地域との関係にも濃淡様々なレベルがあると思われるが、再生のための仕掛けが急務であろうと思われる。
キーワード 少子高齢化、災害対応、共用空間、コミュニティ

上記の課題解決のために推進すべきと考える住まい・まちづくりに関する取組みについてのお考えをお聞かせください。

 ハード、特に民間賃貸住宅における居住水準の向上については、将来にわたる良質な住宅ストック確保のため公的な介入が必要と思われる。特に、改修であることの問題点(居住者は改修の間、他に住む場所が確保できないこと、貸主も自ら提供することが不可能であること)から、公的な介入としては、改修費補助など資金助成だけでなく、住みながらの改修が遂行できるような対応が行われることが望ましい。なお、優先すべきは共用エリアであり、アクセシビリティと空間確保が望まれる。
 ソフト、コミュニティの創出に向けてのアプローチについては、既存の自治会もさることながら、例えば、介護事業所等を核としたコミュニティの広がりを期待したい。介護保険における地域密着型サービス事業所においては、運営推進会議の設置を義務付け、地域の代表者を構成員としている。しかしながら、施設側との温度差があり、円滑に進んでいない様子が見受けられる。そこで、推進会議の活動範囲を拡大し、介護サービスを中心的課題に位置づけ、それを媒介としたコミュニティの広がりを期待したい。また、コミュニティ創出のために空間づくり環境づくりが貢献できることも忘れてはならず、多世代が混ざりあうための住宅計画を推進することも非常に重要な取り組みであると考える。
キーワード 改修、住宅ストック、運営委員会、多世代居住