第14回愛知まちなみ建築賞

[2007年2月1日]



総評

            愛知淑徳大学教授   日色 真帆  

 人々の記憶に残り思い出となるまちなみは、印象的な建築が中心となって忘れられないイメージが結ばれることもあれば、建築とランドスケープが一体となった雰囲気として心に残ることもある。そのようなまちなみの多面性を配慮しつつ選考しており、今回の受賞作にもまちなみ形成に寄与する多様なアプローチが表れている。
 「あいち海上の森センター」は、万博時のヴォリュームを減らして、海上の森の拠点となる学習施設に改修した建築である。地形や植生となじませた配置によって、森に溶け込むように見え隠れする。
 「アーバンネット名古屋ビル」は、久屋大通公園に面する商業棟とオフィス棟からなる大規模な建築である。街に開かれた公開空地やピロティ、壁面緑化したサンクンガーデンなどが、都市で生活する人々への良質な居場所となることだろう。
 「金城学院大学W9・10号館」は、丘陵地に立地する女子大キャンパスのゲート的建築である。ガラスや木を効果的に用いて立面を水平に細かく分節することでスケールがわからなくなり、レンガタイルの既存校舎群に対する新しい象徴性を増している。
 「グランドメゾン東明町」は閑静な住宅地にたつマンションで、背後に緑地を保存し、道路から後退して豊富な植栽を施すことで、現代のお屋敷の風情をつくりだしている。都市風景の基調となる民間分譲マンションの質の向上が、まちなみ形成に肝要であることがよくわかる。
 「小石川医院」は、伝統的まちなみの中で、江戸時代にあった薬局の姿を現代的な素材で再現し、ガラスの現代路地を挟み込んでいる。設計者の意気込みが伝わる建築である。
 「柘榴の家」は、高層ビルに囲まれた戸建て住宅で、防御的なコンクリートの壁と開放的な緑地が印象的である。住み慣れた土地に対する施主の愛着と設計者のアイデアがよく表れた外観で、この地域に貴重な緑を提供することだろう。
 「名古屋テレビ塔」は、名古屋の代表的ランドマークが電波塔としての役割を終え新しい時代を迎えるための改修である。そびえつづけるシンボルの整備がさきがけとなって、久屋大通公園が都市の記憶の中心としてさらに印象深くなることを期待したい。
 応募作品には、地域性を生かしてタイルを様々に用いるなど、素材選択が興味深いものが多い。また、植栽を生かした作品では、竣工からやや時間を経た方が魅力が伝わるようにも思えた。大賞受賞がなかったことは残念であるが、建築がさかんな今こそ、この地域に新しいまちなみの記憶が形成される好機であろうから、今後への期待が大きくなる。

あいち海上の森センター

撮影 大橋富夫

概要

所在地:瀬戸市吉野町
建築主:愛知県
設計者:株式会社第一工房
施工者:(建設)株式会社杉本組  (改修)株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:学習施設
構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
階数:地下2階地上2階塔屋1階
敷地面積:18,300.05㎡
建築面積:1,149.21㎡
延床面積:1,546.05㎡

講評
       伏見 清香

 万博時、「瀬戸愛知県館」であった「あいち海上の森センター」は、仮設の上部を取り外し、海上の森の拠点施設として生まれ変わっている。地層の形状に合わせ、段状に配置された計画や、コナラを伐採せず移植していることから、自然や景観に配慮しようとする意思が伝わってくる。杉やヒノキ、外壁のせっ器タイルも地元産にこだわり使用している。館内では、質問をする来館者に、スタッフが「興味を持ってもらえることは本当にうれしい」と言いながら、丁寧に対応している。また、他のスタッフは、自分ことのように熱心に施設の説明を行っており、海上の森と施設に対する愛情が感じられる。
 万博時、自然環境保護の視点から、多くの意見があった施設のひとつである。館のスタッフや海上の森を愛する人たちの思いが、自然そのものも育て、また、施設を含めた景観を育て今後に繋がるものと期待したい。


アーバンネット名古屋ビル

写真提供 車田写真事務所

概要

所在地:名古屋市東区東桜一丁目
建築主:NTT都市開発株式会社
設計者:NTT都市開発株式会社
施工者:大成・共立・第一ヒューテック共同企業体

主要用途:事務所・飲食店・物品販売店舗
構造:鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地下3階地上22階 
敷地面積:6,953.53㎡
建築面積:4,307.71㎡
延床面積:78,909.46㎡(既存含む)

講評
       服部 滋

 この建物は、2ブロック南側にあるオアシス21と同様、地下街からのアプローチにあたる地下部分に、空の見えるサンクンガーデンを配し、店舗や壁面緑化によって、地上部分と一体化させることによって、殺風景になりがちな公開空地を魅力ある空間としている。
 選考基準のうち、「地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの」「魅力と潤いのある空間創造に寄与しているもの」がこの賞の特徴であり、従来の自己完結型の建築ではなく、「まちなみ」の一部を構成するパーツとしての建築または外部空間の創出に対し評価を与え、新しい建築のあり方を表彰しようとしている。
 そういう意味においてこの建物というか、足元につくり出される外部空間を中心とした部分は、群を抜いている。視覚的にも、テレビ塔下の公園とつながり、気持ちいい「まちかど」を創出していると言えよう。難をいえば、地上部分に座れる部分がもっと多くあれば、より楽しい空間ができあがったと思われる。大規模な土地を開発できる事業主だからこそ生み出される空間は、その事業主ゆえ、管理上の問題で楽しさを半減させざるを得ないといえるのかもしれない。


金城学院大学W9・10号館

撮影 アオヤマスタジオ 青山賢三

概要

所在地:名古屋市守山区大森二丁目
建築主:学校法人金城学院
設計者:大成建設株式会社一級建築士事務所
施工者:大成建設株式会社名古屋支店

主要用途:大学
構造:鉄骨造
階数:地下2階地上5階
敷地面積:111,804.36㎡
建築面積:3,417.64㎡
延床面積:16,882.78㎡

講評
       岡田 利一

 その建学の精神を象徴する「ランドルフ記念講堂」に最も近くに位置しながら、レンガタイルを基調とした象徴ある建物と調和するように計画されたW9・10号館である。
 その大規模なボリュームが故に威圧的になりがちな外観を薬学専門棟(W10号館)と共通利用の講義棟(W9号館)とを積層材を使ったアプローチゲートで連結し、ゲート内に設置されたエスカレーターにより1・2階レベルでアクセスし、丘陵地に建つ既存施設へと繋がり、利便性を高めている。
 また、巧みに計画されたファサードは、外郭部への柔らかな印象と、一見階数の分かりにくい外観により、ボリューム感を低減し、高さを抑えた印象を創出し、豊かな木々に包まれた自然や周辺の閑静な住宅街と女子大学のキャンパスとの調和を図っているのはさすがであり、高く評価できる。


グランドメゾン東明町

写真提供 株式会社 エスエス名古屋

概要

所在地:名古屋市千種区東明町一丁目
建築主:積水ハウス株式会社名古屋マンション事業部
設計者:株式会社醇建築・まちづくり研究所  積水ハウス株式会社名古屋マンション事業部
施工者:株式会社淺沼組名古屋支店

主要用途:共同住宅
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上4階地下1階
敷地面積:2,912.69㎡
建築面積:873.00㎡
延床面積:3,190.76㎡

講評
       岡田 憲久

 東山公園、平和公園がすぐ近くにある閑寂な住宅街の表通りに南面してこの集合住宅が建つ。南東角には10メートルを超えるかと思える大きなアベマキの大木が残されている。緑豊かな住宅地といえども、もとから生えている木の生命感はひときわ目を引く。建物の前面は道路より7mセットバックされ厚みのある緑地を形成し、低層に抑えられた建物が緑に埋まっているようである。背面北西部には松と雑木の自然林が残され、まわりの高低差のある地形も建物に土の起伏だけでうまく、無理なく擦り付けられているのが美しい。市街地の中に切れ切れにわずかに残されていた自然林すらも急速に減少している今日、緑を残すこと、地形を壊さないこと、このあたりまえの事がうまく建物計画と共存できていて大変うれしい。
 欲を言うならば残された自然の林を、暮らしの中で散策できるようになっていればもっと楽しいだろうと思う。また建物前面の修景緑地の植栽の種類が、まわりの保存林の樹種をもっと取り入れていれば、全体がもっと一体化したのではないだろうか。
  しかしここまで地形と緑を残したことはまちなみの景観形成に大きく寄与するものであり、評価したい。


小石川医院

写真提供 メイクフォト

概要

所在地:豊田市足助町本町
建築主:小石川 功
設計者:株式会社浦野設計
施工者:中村建設株式会社

主要用途:診療所
構造:鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:986.05㎡
建築面積:126.54㎡
延床面積:161.10㎡

講評
       都築 敏

 三河から信州に塩を運んだ道がある。飯田街道である。足助は飯田街道の宿場町として発展した。しかし、近代以後の交通手段の発達とともにこの山間部の町は取り残されることとなる。
 中馬街道(旧飯田街道)は足助の中央を貫き、その街道沿いには江戸から明治に至る数多くの建築物が今も姿を止めている。70年代から町の有志による自発的な町並みの保存運動が興り、建物の新築・改築の際には町全体との調和への配慮が図られ、さらには国の補助金も得て、町並み景観保存運動が積極的に進められた。
 小石川医院は、中馬街道沿いに11代以上続く小石川家の現医院長が郷里への愛着を込めた建物(診療所)である。町並みへの約束事でもある白壁・妻入り屋根を維持しつつ、正面右に配置されたガラス張りの吹抜け空間が現代的なアクセントを与えている。また、町並み全体から見ても、調和の中に柔らかな現代性を感じさせ、町への新しい爽やかな息吹となっている。この“旧”に“新”を吹き込む試みはうまく成功しているし、今後の一つのモデルともなるだろう。
 このような町並み景観保存は、住民の地域・郷里への深い愛情に根ざすものである、という強い印象を受けた。なお、当該建物は国の補助事業対象期間後に自発的に建てられたことを付け加えておく。


柘榴の家

写真提供 設計工房 蒼生舎

概要

所在地:名古屋市千種区覚王山八丁目
建築主:小木曽 基弌
設計者:設計工房 蒼生舎
施工者:株式会社川村工務店

主要用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:324.63㎡
建築面積:130.82㎡
延床面積:179.81㎡

講評
       山内 彩子

 都市計画の商業地域の土地(300㎡超)に40%程度の建蔽率の住宅と聞くと、土地の高度利用を求める都市計画に反した印象を受けるかもしれない。しかし、敷地という範囲から目線を上げて、まちなみや都市の組成というレベルで考えてみてはどうか。
 本計画はビル群の狭間の雑木林に建つ低密度な木造住宅のRCへの建替で、接道部は平屋として道路への圧迫感を緩和して見せ、緑地帯を奥に盛上げて道路際土留の高さを抑え、土留、塀や建物の隙間を埋めるように雑木や下草を植え、さらに将来雑木を育て緑に覆われた建物を目指している。RC打放しの建物のシャープさに相反するような、樹木類の形や種類の多様でラフなデザインは意図的なのか新鮮な印象で、この建物の景観がこれから創られることを予感させる。このように住人の意思で雑木林を継承し、商業地域に緑豊かな空地(緑地)を積極的に創る姿勢は、都市計画に支配されがちな景観に一石を投じる可能性を感じる。
 住宅も良質なRCであれば長い寿命をもちえ、管理者をもった緑地(良質な空地)を担保できる可能性をもつものだと思う。ここが長く緑地を育て、新しい風景を醸成することを期待したい。


名古屋テレビ塔

撮影 滝田フォトアトリエ 滝田良彦

概要

所在地:名古屋市中区錦三丁目
建築主:名古屋テレビ塔株式会社
設計者:株式会社日建設計
施工者:大成建設株式会社名古屋支店

主要用途:テレビ鉄塔(工作物)
構造:鉄骨造
階数:地下1階地上6階
敷地面積:1,600.00㎡
建築面積:1,119.90㎡
延床面積:3,679.60㎡

講評
       有賀 隆

 緑豊かな久屋大通公園の中央に位置している名古屋テレビ塔は、2011年の完全デジタル放送化により電波塔としての役割を終えるのを契機に、リニューアルが実施されている。その第1弾では人通りの少ない公園に賑わいを生み出す新たな都心景観づくりへの工夫がこらされている。
 展望階となるスカイデッキとその上階のスカイバルコニーは、大空を背景とした塔全体の重要なアイコンとなっているが、それと、スカイターミナル・レストラン・ギャラリーの低層部とがエレベーターシャフトの垂直ラインによって視覚的につながれ、今回の改修で導入されたシルバーアルマイトの縦割りサッシュがこの垂直方向の伸びやかさを強調する視覚的効果が生み出している。そのスカイターミナル下の「塔下広場」は、塔全体を支える湾曲した力強いアーチ型フレームの構造によって守られた屋外の大空間として再構成されている。アーチ型フレームは全面塗装されてその構造美がより強調され、他方、広場の床面は明るいインターロッキング貼りの目地模様によって軽やかな賑わい感を演出している。広場には人々の賑わいを生み出す4つのスタンドショップやフードコートが配され、中央部は自由に出入りできる開かれたオープンスペースとすることで、周囲の久屋大通りとの連続性、一体性を創出し都心のまちなみ形成と地下街から地上へと人の流れを誘導する新たな賑わい空間の創造に貢献している。 


第14回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であることを認識のもと、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や、潤いあるまちづくりに寄与するなど、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物、又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
  1.地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
  ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
  2.地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
  3.魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
  ●緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
  4.その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

(五十音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)
  有賀 隆(名古屋大学大学院助教授)
  五十嵐太郎(東北大学助教授)
  市川三千男(愛知建築士会会長)
  岡田憲久(名古屋造形芸術大学教授)
  岡田利一(愛知県建築設計事務所協会会長)
  都築 敏(特定非営利活動法人ビジュアルコンテンツプロダクトネットワーク理事長)
  服部 茂(日本建築家協会東海支部愛知地域会会長)
●日色真帆(愛知淑徳大学教授)
  伏見清香(広島国際学院大学助教授)
  山内彩子(東風意匠計画代表)
  山北康雄(愛知県建設部理事)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県

後援
 愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会 中部経済同友会 愛知県都市計画協会

協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築設計事務所協会  (社)日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会

お問い合わせ

建設部 公園緑地課
景観グループ
電話: 052-954-6612
内線:2669、2678