- 1974年2月27日、北海道帯広市生まれ。3歳からスケートを始め、98年の長野五輪で金・銅メダル、2002年のソルトレーク五輪で銀メダルを獲得。ワールドカップ通算優勝回数34回と、長年にわたり世界のスピードスケート短距離界の第一人者として活躍した。10年3月の引退後は株式会社two.sevenを設立。日本大学大学院で医療経営学修士課程修了、弘前大学大学院社会医学講座博士課程修了、弘前大学特別招聘教授就任。リハビリ型通所介護施設、訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅、スポーツジムを経営している。24年1月、同社代表取締役会長に就任。著書に「人生の金メダリストになる『準備力』」(講談社+α新書)など。
更新日:2025年6月
取材日:2025年5月27日
2度のオリンピック出場でメダルを獲得するなどスピードスケートの世界で輝かしい成績を残した清水宏保さん。現役引退後は会社を設立し、大学院で学び博士号(医学)を取得。現在は実業家としてリハビリ・通所介護事業、訪問事業、高齢者住宅事業、フィットネススタジオ事業を展開しています。施設では利用者のヘルスケアをサポートし提案する「トータル・ヘルス・コンシェルジュ」を掲げる清水さんに、介護分野に携わることになったきっかけや思いを2回にわたって聞きました。
現役引退後、自分のセカンドキャリアのために大学院で医療経営学を学んでいた際、描いていたビジネスプランがリハビリを中心にした施設の経営です。私の競技人生は、常に病気やけがとの闘いでした。その経験を活かしながら、アスリートのセカンドキャリアを創造できるビジネスをやってみたい。そう思って最初に取り組んだのが整骨院(スピードスケート後輩の院長に事業譲渡)。翌、2014年にリハビリ型デイサービスの事業所を開設しました。
それまで私は介護と関わりがあったわけではありませんが、大学院在学中に実習でさまざまな施設を見学し、その中には介護事業所もありました。徐々に介護の現場を学んでいく中で、介護事業にはビジネスとしての将来性が有り、何より自分の経験が結びつくのではないかと考えるようになりました。目指していたアスリートのセカンドキャリア形成にも寄与でき、地域貢献にも繋がります。
自分も現役引退後、セカンドキャリア構築の難しさに直面してきました。多くのけがを経験してリハビリをして、入院、退院そしてまたリハビリの繰り返し。そんな経験をしてきた自分が社会の役に立つことって何なのか。地域に根付いていける活動って何なのか。そう考えたときに介護業界で健康寿命延伸の役割を担うことは、まさに他の人では真似できない活動なのではないかと思いました。自らの体に対してリハビリを行っていく経験が豊富にあるアスリートであれば、その経験をさまざまな職種と連携しながら、予防から回復、日常支援まで行う包括的ケアに活かしていくことができます。これまで元アスリートが介護分野で施設を開設するとか運営するといった話を聞いたことがなかったので自分が先陣を切りたいという思いもありました。

実際に、スタッフの中にはスポーツ経験者が多く在籍していますが、理学療法士(以下PT)など医療系セラピストは特に元アスリートが多いと感じています。体のメンテナンス、管理の悩みに直面したことで、けがをしないためにはどうしたらいいかを考えるようになってPTを目指した人たちです。ただ、PTは臨床の現場である病院に行きたい人が多いので、新卒で介護施設に来てくれる人があまりいないことが課題でもあります。
人材確保のためには、病院には無い介護施設ならではのやりがいを理解してもらうことが大切だと思っています。それは例えばドクターからの評価であったり、PT、作業療法士が利用者さんと向き合ってリハビリプランを組んでいくことだったり。回復傾向に向かった場合、ご家族や利用者さんと共に喜びを分かち合えることも大きいです。うちのデイサービスは要介護度1、2の方が利用する施設と、2から3くらいの施設。そして訪問看護ステーションがあり、加えてフィットネスジムもやっています。実例としては少ないものの、訪問看護から回復してデイサービスに通うようになり、徐々に自立してフィットネスに移行していく。公費から自費に切り替わっていく方、地域の中で回復していく利用者さんもいらっしゃいます。介護施設の職員は、そこに関わることができることがやりがいとして大きいと思います。私自身も利用者さんへの直接的な介入は無いにしても、機材や道具の選定、動線のプランニングなどのほか下肢へのトレーニング機材について経験を活かせたことが施設開設までの仕事の中で印象に残っています。
私も50歳を過ぎて筋力が低下し、下半身のトレーニングがいかに大事かをより感じるようになりました。足の筋力が落ちてくると体全体のエネルギーも落ちてしまうと実感します。介護施設でも、元気に続けていらっしゃる方と、なかなか動きがよくならない方の違いは運動経験や足の筋力の違いから来ていることも多いですが、やはり足の筋力トレーニングは大事なんだと見ていて思います。
足のトレーニングは、たとえ60代、70代でも気づいた時点で始めれば効果は出ます。あきらめないでいただきたい。足の筋力を高めようと思うとデイサービスでどんな内容を実践しているかがすごく重要です。早く気付いてスタートするかしないかによっても差が出てくるのかなと思います。
