取材:2024年7月24日
私は普段、介護職員や相談員、ケアマネジャーなど介護部門で働いている職員のマネージメントや指導などをしていて、ご利用者さまのケアに入らせていただく日もあります。介護職を目指したきっかけは、母の勧めです。育児中は仕事をしていなかった元看護師の母が、私が短大を出てOLとして働きだしたころから介護施設に看護師として復帰。私もしっかり腰を据えて長く働ける仕事がしたいなと思い始めていたところ、介護関係の仕事を勧めてくれました。勉強してから就職したほうがいいという母の助言もあり、専門学校に2年通ってから、うちの法人の別の施設にご縁があって就職して今に至ります。

それから20年弱。辞めたいとか違う仕事がしたいとか思ったことはありませんでした。自分の行ったケアを喜んでいただけたと利用者さまの表情から感じ取れることがあり、その瞬間に魅力を感じて続けることができたのかなと感じます。介護の仕事は交代制なので、誰かがその業務を担当するのですが、だからといって誰がやっても同じではないと思っています。自分が他の担当者より未熟な場面もあるし、自分だからできることもあります。たとえ他の担当者にも言っていたとしても「今日はあなたなの?良かったわ」と、言ってくださると嬉しいものです。それが一つひとつのケアを丁寧に行ったり、その方の疾患や体調に合わせてできれば、なおさら本当に私で良かったと感じてもらえるのかなと思います。
私は職員を指導する立場でもあるのですが、例えば若い職員が今日は天気がいいからお散歩に行きませんかと利用者さまを誘うような場面に遭遇したとき、あなたがいたから利用者さまは楽しい散歩の時間を過ごすことができた、あなたの思いやりが利用者さまの豊かな生活に繋がった、ということを積極的に伝えるようにしています。豊かな感受性を持った若い職員はいっぱいいて、アイデアはもっと引き出してあげたいと思いますし、代わりに私たちが現場に入るから一緒にお散歩行っておいで、と送り出したい気持ちにもなります。なぜなら、おむつを替えたり食事や入浴介助ばかりではないところで活躍できる場も作りたいと思っているからです。

そう思うようになったのは2つ理由があります。1つは、介護職に就いて最初の10年を特養の介護職員として働き、その後相談員やケアマネジャーとしてご家族や多職種と関わる機会が増えて目が外に向かうようになったこと。2つ目はコロナ禍を経験したことが大きいです。どこにも行けず、施設内のイベントも中止になり、楽しみにしていたことがなくなって、中にはそのままお亡くなりになる利用者さまもいらっしゃいました。そんな中で思ったのは、私たちにとって当たり前の日常の小さなことも、利用者さまにはかけがえのない大切なものだということです。そのまま人生を終えてしまわれた方を知っているからこそ一日一日を大事にしなければ、と思うようになりました。
介護の仕事にネガティブなイメージを抱いている方にとって、介護の仕事の大変な部分は不規則な勤務や夜勤、身体的な負担が大きいと思うのですが、それは確かに否定できません。でもそこを踏まえた上で、一歩踏み出していただきたい。少しでも興味がある時点で、介護職が向いていると思います。特に若い職員、10代の職員にとっては、そんな年齢から人の生死に関わっていると、人としての成長度が違います。働き方も柔軟なので新卒で入って結婚して、産休や育休を取って時短勤務を経てまたフルで働くという職員も少なくありません。勤務時間や出勤日数を調整してずっと関わっていける仕事です。高齢の職員もいて、年齢が近いからかコミュニケーション上手で、利用者さまと信頼関係を築いています。やはり生活の支援なので、主婦をされてきた方は心配りがきめ細かく、若い職員は見習うことも多い。得手不得手をみんなでカバーしながら、というのが他の職種に比べて多いと思います。

今後の私の役割は、この施設の介護の質を上げることです。利用者さま一人ひとりの夢や希望をかなえる個別ケアや行事を、当たり前にできる土壌を築きたい。それをスタンダードにするくらいの環境を育み、日常の中でケアの一部として行えるところまで持っていきたいと思っています。