取材:2025年3月6日
介護の仕事に興味を持ったのは、中学3年生のとき、先生に勧められ、介護施設でイベントのボランティアをしたことがきっかけです。初めての経験で緊張しましたが、車いすを押したら、その方から「ありがとう」と言ってもらえて…。人の役に立てたのかな、と思ったんです。それまでに接した高齢者といえば祖父母や近所の方だけで、介護についてのイメージをほとんど持っていなかったのですが、「人と関わる仕事をしたい」「介護の仕事がいいな」と考えるようになりました。

それで高校受験にあたって、家族に「福祉の道へ進みたい」と伝えました。はじめは「仕事は夜勤があるし、たいへんそうだよね」と心配されました。だけど、どの業界で働いてもたいへんな面はあり、その内容が違うだけだと思うんです。そうした話をして以来ずっと家族が見守ってくれています。高校は総合学科の福祉コース、大学は介護福祉士を目指すコースを選択し、卒業後、現在の社会福祉法人に就職しました。
介護の仕事に興味がある一方で、学生時代は不安もありました。私に排泄介助ができるだろうかと心配だったからです。しかし、大学の実習先で出会った介護職員さんは、利用者さんが拒否したり動き回ったりしていても、恐れも嫌がりもしないで「きれいにしようね」と穏やかに声掛けをしていました。「この方のために」という相手を思う気持ちで接していることがひしひしと伝わってきたんです。相手を大切にする姿勢を改めて学び、不安はなくなっていきました。

また、今活きている、学生時代の先生の教えもあります。それは「認知症のある方の姿は、自分の姿」という言葉です。私がいっぱいいっぱいになり余裕がなくてイライラしてしまったときは、利用者さんもイライラするし、私が不安なときは利用者さんも心配そうにしています。目の前にいる相手は、自分の心や行動を映し出す。このことを忘れないよう努めています。
介護職に就いてから9年。やりがいを感じるのは、中学時代に強い印象を受けたのと同じ、「ありがとう」という言葉や笑顔をもらったときです。一つ介助をするたびにお礼をいわれることもあり、日々「ありがとう」を聞けるっていいなと思っています。
利用者さんだけでなく、ご家族の言葉が喜びにつながることもあります。以前、ある利用者さんが亡くなる少し前に、勤務先の施設で行事があり、利用者さんのお嬢さんも一緒に参加しようとしたことがありました。だけど、その方はお嬢さんからの誘いを断り、自分は行かないとおっしゃって…。おそらく利用者さんは照れくさかっただけで、本当はお嬢さんと一緒にいたいのではないかと感じました。そこでさりげなく「一緒に行ったらどうですか?」と提案してみたところ、おふたりで参加することになりました。利用者さんが亡くなった後、お嬢さんは「この施設でよかった」とおっしゃっていたそうです。それを聞き、この仕事をやっていてよかったと思いました。

また、施設では看取りも行っていて、利用者さんが亡くなると悲しいし落ち込みますが、「最期までケアできるのは介護職ならでは」とも感じます。できるだけつらくないように、どれだけ手をかけてケアをするか。それを考えて実践するのも、介護職のやりがいにつながる大切な役割です。
今後も、介護の現場で人と関わる仕事を続けていきたいと考えています。今よりもっと知識を深めるため、ケアマネジャーや社会福祉士の資格も目指したい。次回のケアマネジャーの試験は、転勤があってあわただしかったので見送ろうと思っていましたが、受験を決めた同期の仲間に刺激され、私もチャレンジしようと準備を始めました。他の資格を取得することで、介護福祉士とは別の視点を、日々のケアに活かせればと思います。
介護業界に少しでも興味のある中学生や高校生の皆さんは、機会があれば気軽に介護施設でボランティアをしてみてはいかがでしょうか。利用者さんの個性は人それぞれなので、だれ一人として同じ対応にはなりません。たいへんな面もありますが笑顔をいっぱい見られる仕事を、実際に体感してもらえればうれしいです。
また、介護福祉士を目指すなら「介護福祉士修学資金等貸付制度」の利用を考えてみるのもいいかもしれません。これは学費を心配せずに勉強できる制度で、指定の養成施設に通う人は審査を経て資金を無利子で借りることができ、卒業後に介護福祉士として5年以上働くなどの条件を満たすと返還が免除されます。介護福祉士として働こうと決めている人は詳しく調べてみてはどうでしょうか。