取材:2024年7月2日
私が働いている小規模多機能型居宅介護事業所には理学療法士(以下PT)の配置が義務付けられてはいないので、私はPTの資格を持った介護職員という立ち位置です。ここで働き始めたきっかけは、ひとことで言うとご縁。それまでリハビリテーション病院のPTとしてフルタイムで働いていましたが、上の子どもが小学校1年生になるタイミングで、フルタイム勤務は難しいと思い始めていたときでした。知人から「波の女」で、より良い介護を行うためにPTの視点を欲しがっていると聞き、社長と面会。利用者さんの生活を支援するという施設の理念や地域貢献のための施設づくりの一員になってほしいといった話があり、自分にできるかどうか不安もありましたが、働くことになりました。転職から2年、フルタイム勤務ではないので少しずつですが、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。

もともと「波の女」ではスタッフさんも生活支援の視点に重きを置いていました。介護というと「やって差し上げる」とか、「やってほしいと言われたことに対して手伝いをする」のが一般のイメージですよね。ここでは、利用者さんにやってほしいと言われたことを、いかに利用者さんにやってもらうか。やってほしいことをどう利用者さんが実現するかということを職員が考える。もちろん何かを「やってください」と指図するのではなく、利用者さんご本人が自発的にやっていただくための声掛けや支援を大切にする介護を目指しています。
簡単なことではありませんが、「その人らしい生き方」を考えると、自分でやることはすごく大切です。「その気にさせる介護」は私よりもここの職員や施設長が秀でているので、日々、学ばせてもらっています。
私の仕事はというと、介助しやすい位置や動き方、福祉用具の情報、福祉用具が無い場合の代用法のほか、寝るときに痛がっている方へのケアとして、「枕の入れ方をこうすると楽ですよ」といったことを職員と写真で共有したりお伝えしたりしています。といっても強制ではなく、PTからこういう意見があるということで、取り入れるか入れないかは各々の判断。それよりもやりやすい方法があれば、なぜやりやすいのかを共有していけばいいのかなと思います。

うちは下の子がまだ園児なので熱があったりして出勤できないときも、ここでは柔軟に対応してくださる。それに子連れ出勤ができるのも助かっています。子どもに付きっきりではいられませんが、泣いていたら「どうしたの?」と利用者さんが気にかけてくださいます。
介護の仕事に興味はあるけど、自分にできるかどうか迷っている子育て世代の方がいらっしゃったとしたら、子育てをしている時点で、もう第一資格はクリアされていると思います。その延長だと思って一度体験してみてはいかがでしょう。介護の仕事は生活の視点が生きる仕事です。利用者さんから教えてもらうことで、自分の子育てへの気付きもあると思います。介護の現場で働くことで、今まで知らなかった他の人の人生を知り、こんな考え方、生き方もあるんだと気付く。そういうことがいっぱいあります。
この仕事をしていて良かったと思える瞬間は、何気ない「ありがとうね」とか、自分の身の上話をしてくださるとか、心を開いてくださっていると感じたときです。信頼していただけているのかなと思うとうれしいです。「新顔」に厳しい方はどこにでもいらっしゃると思いますが、いつの間にか拒絶の言葉が聞かれなくなって、にこやかに話していただけるようになったりすると、日々のケアに満足いただけているのかなと感じますね。

転職直後は戸惑いもあり、子どもが落ち着いたら他に行けばいいくらいの気持ちでいたのですが、働き続けていると自分がやれることはもっとあるんじゃないか、といった探究心も芽生えてきましたし、自分が何もできていないことに対する不甲斐なさを感じることもありました。成果も出さずにいなくなるわけにはいかないと、何か構築したい、PTがいることの実績をちゃんと作って引き継げるくらいにまでなりたいという考えに変わっていきました。知識を広めようとケアマネジャーの資格も取りました。今、少し展望が見えてきたところなので、今後はもっと利用者さんや職員、そして地域の方に有益な存在になれるよう、この施設だけではなくいろいろなところでお役に立てる存在になりたいと思っています。